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1話 敗北と目覚め

 かませ犬―主に物語やフィクションで主人公の強さを際立たせるため主人公や主要キャラクターに簡単に倒される役割を担う存在。お決まりのようなムーブをし、ストーリーの序盤で倒されて人知れずフェードアウトしていくだけの道化、端役。


そんな絶賛かませムーブをしているのが、本作の主人公ヴァルデリック・ダルグリムである


―――


「おいおい、これが準決勝だって? 冗談も大概にしろよ、アレン・ロイセル。」

ヴァルデリック・ダルグリムは闘技場に立ち、目の前の同じクラスの少年を冷ややかな視線で見下ろした。

観衆たちが見守る中、彼の口から放たれる嘲笑は容赦がなかった。

 「平民がここまで勝ち上がったのは褒めてやるけど、ここで終わりだ。せいぜい俺様の足元で醜態をさらしてみせろよ。」


試合開始の合図が鳴り響く。ヴァルデリックは即座に地面を蹴り、一気に間合いを詰める。そのスピードはさすがに圧巻で、観衆の中から息を呑む声が上がった。


 「見せてやるよ、貴族の力ってやつをな!」

 振り下ろされた剣筋は鋭く速い。しかし――


 アレンの剣が予想以上の速度で動き、ヴァルデリックの攻撃を完璧に捌く。そして、反撃が放たれた瞬間、ヴァルデリックはその動きを見誤った。アレンの刀が鋭く突き出され、ヴァルデリックの腹に確かな衝撃を与えたのだ。

「……ぐっ!」

 思わず膝をつく。だが、それだけでは終わらない。アレンは間髪を入れずに追撃を仕掛け、模造刀の一撃がヴァルデリックの胸元を正確に捉えた。

「ぐほっ!」

 観衆が一斉に息を呑む中、ヴァルデリックの膝が石畳に触れる音が響き渡る。剣を握る手から力が抜け、ヴァルデリックは無様に地面に倒れ込んだ。


「あり得ねぇ……この俺が……」

 声にならない言葉が漏れる。クラスでも実力者として一目置かれていた自分が、よりにもよって同じクラスの平民相手に敗れるなど信じられなかった。

視界が暗くなり始め、意識が落ちる瞬間、ヴァルデリックの頭の中で何かが切り替わるような感覚があった。それまで自分を包んでいた高揚感と傲慢さが、霧散する。


 そして、ヴァルデリックの意識は深い闇に沈んでいった。


 ――



 気づくと医務室のベットに横たわっていた。

 意識が浮上してくると同時に、ぼんやりとした記憶が頭をよぎる。


「あれは本当に俺か?」

今までの自分を思い返すと、胸が苦しくなるような出来事ばかりだ。

親からは甘やかされ、増長を重ねてきた自分は、家では、気に入らないことがあるたびに使用人に当たり散らしていた。何かをこぼされたり、頼んだものが少しでも遅れたりすると、容赦なく怒鳴りつけ、しばしばメイドをクビにした。地位を振りかざし、周りを支配することしか頭になかった。

 学園ではどうだったか? 下級貴族や平民の生徒を軽んじ、彼らに対して悪口を言いふらしてきた。

 その傍若無人っぷりのせいで周囲からの印象は最悪のものになっていった。


 「……今までの俺って、本当に最低だったな。」

気づけば、目を閉じたまま独り言を呟いていた。

「我に返る」という言葉があるが、彼にとってまさしく今この瞬間がその時であったのだろう。今まで頭の中を覆っていた靄がさっぱり消え去り、残ったものは正常な思考であった。


「はあ……」

 溜息を吐き、これからのことを考える。

 「周囲からの印象は最悪だし、力も足りていないときている、次は……もっとマシな俺にならないとな」


彼は初めて自分の弱さを認め、新たな自分への一歩を踏み出す決意を固めていた。


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