指輪物語好きな弓道家の闇堕ち老人が闇バイトと戦ったら楽勝だった件
高級住宅街の奥に佇む一軒家。その中には、老紳士が一人で住んでいた。彼の名は藤堂雅彦。財を成し、悠々自適な老後を過ごすその男には、一つの異常な趣味があった。
弓道と中世ファンタジーへの執着。
雅彦の屋敷には本物の弓道場があり、壁には精巧に作られた中世風の弓や杖が飾られている。ロード・オブ・ザ・リングに登場するエルフたちを崇拝する雅彦は、日々「レゴラス」のような優雅な弓さばきを追求していた。
だが、そんな静謐な館に忍び寄る影があった――。
第一章:夜襲
ある夜、静まり返った屋敷の外に不審な気配が漂った。黒ずくめの若者たちが影のように忍び寄っている。
「ここがターゲットだな」
一人がスマホの画面を覗き込む。「老人一人暮らし、金目のものがゴロゴロしてるらしい」
「さっさと終わらせて飲みに行こうぜ」
彼らは「闇バイト」に応募した若者たち。今回の指示はこの屋敷を襲撃し、貴重品を持ち去ることだった。だが、彼らは知らなかった。ターゲットがただの老人ではないことを――。
屋敷に侵入した若者たちは、最初は慎重に部屋を物色していた。しかし、ふとした物音が耳をつく。
「……おい、なんか聞こえたか?」
「気のせいだろ」
だが次の瞬間―― シュッ!
一人の若者が悲鳴を上げ、床に崩れ落ちた。
「うわっ! 何だ!?」
その足には一本の矢が深々と突き刺さっている。
暗闇の中から現れたのは、優雅な姿勢で弓を構えた雅彦だった。
「侵入者か……まあ、遊び相手にはちょうどいい」
雅彦は不敵に笑うと、再び弦を引き絞った。
第二章:レゴラスとガンダルフの共演
若者たちは混乱に陥った。
「逃げろ!」
「どこだ、どこにいる!?」
雅彦は静かに館内を移動し、次々と若者を狙った。一人は階段を駆け上がろうとして後ろから撃たれ、別の一人は廊下の角で待ち伏せされて膝に矢を受けた。
やがて矢が尽きると、雅彦は壁に飾られていた杖を手に取った。杖を軽く振ると、金属音が響く。
「ふむ、こいつもなかなかの鈍器だ」
若者の一人が正面から突進してきた。雅彦は杖を振り下ろし、軽々と相手の武器を叩き落とす。
「お前たちは力任せすぎる。美しさがない!」
そう言いながら、杖を回して背後からもう一人を殴り倒す。その姿はまさに映画のワンシーンのようだった。
第三章:ゲームの始まり
若者たちが全員無力化された後、雅彦は彼らを椅子に縛りつけた。
「さて、ただ警察に引き渡すだけではつまらんな」
雅彦は部屋に転がるリンゴを手に取る。
若者たちの頭の上に一つずつリンゴを置くと、雅彦は再び弓を手にした。
「お前たちも映画を観たことがあるだろう? ウィリアム・テルごっこだ」
一人の若者が必死に叫ぶ。
「や、やめろ! 間違って当たったらどうするんだ!?」
「それはお前ら次第だな。じっとしていれば大丈夫だ」
雅彦は矢を番え、ゆっくりと狙いを定めた。矢が放たれると、鮮やかにリンゴだけを射抜いた。
「……ほら、簡単だろう?」
若者たちは蒼白になりながら震えた。次々と矢が放たれ、リンゴが粉々に砕けていく。
エピローグ
夜が明けるころ、若者たちは警察に引き渡された。
「なんだ、この状況は……?」
警官たちは屋敷の中を見回しながら呆然としていた。若者たちは口を揃えて語った。
「あのじいさん、化け物だ……」
雅彦は朝日を浴びながら弓を手入れしていた。
「ふん、いい運動になった」
そう呟くと、彼はまた次の矢を番え、優雅なフォームで弦を引き絞った。矢は一直線に飛び、的の中心を射抜いた。
彼の館には、もう二度と侵入者は現れることはなかった。