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第9話 魔法学校学校長

魔法学校学校長主観の話になります。

「それで……サイモン教授、先日行われた決闘について説明してもらえるかの?」


 丸い長テーブルを囲う人々が一斉に指名されたサイモンへ注目する。

 ここは魔法学校内にある会議室。

 今、円卓には魔法学校の教授たちが集まっていた。


「はい。アルフレッド学校長。先日の栄誉の決闘は、生徒同士の喧嘩から始まったものです」

「ほう……」


 サイモンへ話をするようにうながしたアルフレッド学校長はそれを聞き、蓄えた白い髭をひとなでする。

 サイモンは落ち着いた声で話し出す。


「栄誉の決闘を行った生徒は、マルコ・アーガレインと、平民出身のレナードです」

「なんと! あのアーガレイン王家のご子息が!」

「それはそれは……」


 サイモンの説明にざわめく会議場。

 その反応を見て、マルコ・アーガレインという生徒がどれだけの家柄なのか分かるだろう。


「しかし、アーガレイン家のご子息が決闘などとは……」

「信じられませんね」

「あの生徒はいつも成績優秀だったはずですよ」

「どうして決闘なんかを……」


 次々と声が上がる中、一人の男性が手を上げる。


「発言よろしいか?」


 そう言った男は三十代半ばほどの年齢に見える男性だった。

 教授たちの中でも若く、まだ二十代のように見える男だ。

 黒い髪をオールバックにしたその男性は、どこか自信に満ちた表情をしていた。


「どうぞ、デンホルム教授発言を許可します」


 アルフレッドが答えると、デンホルムと呼ばれた男は席から立ち上がる。


「質問よろしいでしょうか? なぜアーガレイン家の息子様がレナード君と決闘をしたのか教えていただきたい」


 その問いに対して、今度はサイモンが答え始める。


「それでは私から説明させていただきましょう。今回の決闘は、マルコ・アーガレインによるレナードへの日常的な暴力が原因となりました」

「ほう、それはどういうことですか?」


 椅子に座り直したデンホルムが眉根を寄せながら腕を組む。

 他の教授たちもサイモンをじっと見つめていた。


「まず最初にお伝えしたいことは、この学校の生徒たちのほとんどが、王族や貴族、豪商の子弟であることです」

「えぇ、それが何か関係あるんですか?」

「そんな高貴な家柄の生徒たちは、平民であるレナード君をよく思っていないようです」


 このようにという言葉と同時に、サイモンが杖を円卓の中央へ向けると、映像が映し出される。

 机上には路地裏でレナードが殴られている様子が浮かび上がるように現れ、サイモン以外の者が顔をしかめた。


『おい、平民! お前みたいなやつがマルコさまと同じ学校へ通うんじゃない!」

『今度の魔法戦闘の授業で殺してやるよ』


 映像の中のマルコたちは、口々にレナードへ罵声を浴びせていく。

 その光景を見たデンホルムは苦虫を噛み潰したような顔になり、その他の者は怒りのあまり体を震わせていた。


「これは……酷いですね」

「あぁ、本当に許せない」

「なんて奴らなんだ!」

「こんな卑劣なことをする生徒がいるとは……」


 デンホルム続き、他の教授たちからも非難の声が上がる。

 そんな中、事情を知っていたサイモンは冷静な口調で話を続けた。


「この結果、今回の決闘に至ったのだと推測しました。また、決闘では不正は確認できませんでした。以上です」


 そう言って、サイモンはアルフレッド学校長へ頭を下げてから着席する。


「なるほどのぉ……」


 顎に手を当てたアルフレッドは少しの間黙り込み、やがてゆっくりと語り始めた。


「これならば校則通り、栄誉の決闘に負けたマルコ・アーガレインを退学処分とする。皆、それでよいな?」


 アルフレッドの言葉を受けて、他の教授たちが無言でうなずく。

 誰も異論はないようだ。


「それでは今回の会議はこれで終了とする。解散」


 会議が終了し、部屋を出ていく者がほとんどの中、一人だけ座ったままの男が居た。


「ふむ……デンホルムよ、なにかあるのか?」


 それは腕を組んで難しい顔をしたまま目を閉じているデンホルムだった。

 アルフレッドに呼ばれたデンホルムはゆっくりと目を開け、腕を机へ置く。


「学校長、マルコ・アーガレインを退学処分にするのは外交的に問題があると思います」

「ほぅ? それはなぜじゃ?」

「アーガレイン家は代々優秀な魔法使いを輩出してきた家系です。その跡取り息子がこのようなことで退学になったとなれば、他国の貴族から我が国の評価が落ちてしまいます」

「おぬしの意見も分かる……が」


 アルフレッドはヒゲをひと撫でしてから、鋭い目つきでデンホルムを見つめる。

 その視線を受けたデンホルムは思わず背筋を伸ばし、真剣な表情で見返した。


「ここは中立国家にある魔法学校じゃ、生徒一人のために校則を曲げることはあってはならぬ」


 アルフレッドの力強い言葉を聞いたデンホルムは何かを言おうとして押し黙る。

 そして再び腕を組み、考え込む様子を見せた。

 しばらくすると、その瞳に強い意志を宿しながら口を開く。


「分かりました。私はマルコ・アーガレインの退学手続きを進めます」

「そうしてくれ」

「しかし、確実にアーガレイン王国からーーいえ、失礼します」


 なにかを言いかけたところで口を閉じたデンホルムは一礼し、会議室から出ていった。

 その背中を見送ったアルフレッドは椅子に深く腰掛け、天井を見る。


(あやつも若いのぉ)


 アルフレッドは髭をさすりながら考える。

 世界には公的な魔法学校はここにしかない。

 そのため、全ての活動において公平さが求められるのだ。

 それがたとえ学校長といえども、例外ではなかった。


(なぜ助けを求めなかったレナードよ……)


 親代わりになると手を引いた生徒がいじめられていても、本人が助けを求めるまで自分が手を貸せない。

 サイモンによってレナードが暴行を受けている映像を見せられたとき、アルフレッドは心の中で歯ぎしりした。


「あの子は強い子だ……」


 そう呟いたアルフレッドは、窓の外に見える青い空を見ながら、静かにため息をつく。


「さて、執務室へ戻るとするか」


 アルフレッドは魔法学校の校長としての責務を全うするため、杖を数回振るう。

 すると、机と椅子だけが置いてあった空間が歪み始め、そこには大きな扉が現れた。

 アルフレッドは魔法で出した扉へ入るために立ち上がった。

 その時、


「アルフレッド・グリフィン・マグワイア学校長!! 我と手合せ願う!!」


 一人の青年が大声で叫びながら、会議室へと入ってきた。

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