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第6話~マルコからの魔法~

「喝!!!!」


 気合一閃。

 突如、爆発するような音が響き渡ると、レナードを中心に巨大な衝撃波が広がった。

 その振動は広場全体へと伝わり、生徒たちは結界で守られているにもかからわず、思わず身を屈める。


「ぐぅっ……」


 あまりの威力に、マルコはうめき声をあげて顔を歪ませる。

 自分の魔法が直撃をしたはずと顔を上げたマルコは驚愕した。


「は?」


 マルコは呆然とし、魔法が直撃したはずのレナードを見ていた。

 彼の周囲には、巨大なクレーターが出来上がっており、そこには何一つ残っていなかった。

 何事もなかったかのように両腕を組んだままのレナードじっとマルコを見つめている。


「な、なんで無傷なんだよ!? 俺の使える最高の魔法だぞ!?」


 マルコは動揺を隠しきれず、声を震わせながら叫ぶように問い掛ける。


「お前の使った魔法が脆弱だからだ。あれくらいの攻撃ならば、俺の魔力放出だけで十分防げる」


 淡々と答えるレナードは、一歩ずつゆっくりと歩き出した。

 それを見て、マルコは恐怖の表情を浮かべながら後ずさりする。


「く、来るなぁ!!」

「そうはいかない。決闘中だ、決着を付けよう」


 レナードは静かに言い放つと、腕を組んだ状態でマルコとの距離を詰めていく。


「ひぃ!!」


 マルコは悲鳴をあげると、後ろへ逃げ出そうとするが、足がもつれて倒れてしまう。


「教授!! 決闘を止めてください!! マルコさまが殺されてしまいます!!」


 結界の外ではクロフトがサイモンへ懇願するように叫んだ。

 しかし、サイモンはレナードたちを見据えたまま首を横に振る。


「クロフト、お前も知っているだろう? 決闘を止めることはできない」

「そんな……」

「諦めろ。それに、この勝負はマルコのほうから言い出したんだ。どんな結果になっても奴に責任がある」


 サイモンはため息を吐いて、決闘中の二人へ視線を向けた。

 マルコは必死に足を動かして逃げようとしているが、レナードは一歩一歩ゆっくりと近づく。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! インフェルノ!! インフェルノ!!」


 マルコは絶叫をあげながら、無造作に魔法を放つ。

 だが、どれもレナードへ届くことはない。


「なぜだ!? どうして当たらない!?」

「お前が貧弱すぎるからだ」

「ふざけんな!! だったら、別の魔法を――」


 マルコは声を荒げて詠唱を始めようとするが、レナードはそれを遮るようにして言葉を紡いだ。


「もうお前の時間は終わりだ」

「な、なに!? グアッ!?」


 魔法を放とうとしたマルコの手をレナードが捻り上げると、そのまま地面へ組み伏せる。


「放せ!! このっ!!」


 マルコは拘束から逃れようともがくが、レナードはびくりともしない。


「二度とお前のような存在を俺の前に立たせないため、徹底的にやらせてもらうぞ」

「なっ!?」


 レナードの言葉を聞いたマルコの顔色が一気に青ざめていく。

 マルコは自分の体を押さえつけているレナードの瞳の中に宿る光に背筋が凍る思いがした。

 それは、マルコが今までの人生の中で感じたことのない感覚であった。


「やめろっ!! 放せっ!!」

「断る。お前は決闘を申し込んだ時点で死ぬ覚悟をしていたはずだ」

「違うっ!! これはお前が死ぬだけの決闘なんだよ!!」


 レナードはマルコの叫びを聞き流し、右腕を振り上げて拳を強く握りしめた。


「フンっ!!」

「グアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


 振り下ろされた拳はマルコの右肩を粉砕する。

 骨が砕ける音と共に、マルコは苦悶の声をあげた。


「殺すという言葉を俺へ放ったんだ。五体満足でいられると思うなよ」

「アガァッ!!」


 レナードが拳をもう一度打ち込むと、マルコの左肩が更に破壊される。

 その痛みに耐え切れず、マルコは涙を流しながら苦痛の声を上げる。


「や、やめてくれ!! 頼むよ!!  助けて!!」


 マルコは地面に押さえつけられながらも、レナードへ許しを請うた。


「お前はそうやって許しを請う俺へどんな仕打ちをしたのか覚えているか?」


 レナードは拳を止めて問いかけるが、マルコは顔を左右に振るだけで答えない。


「それに、お前は心から敗北を認めていないだろう?」

「そんなことは――」


 ない、と答えようとしたマルコの口がレナードによって強引に塞がれる。


「結界はどちらかが負けを認めたときじゃないと解かれない。お前にはまだ闘志があると判断する」

「ムー!? ムー!?」


 マルコは杖を離して、両手でレナードの腕を引き剥がそうとするが、全く動く気配がない。

 口を塞ぐ手に力が込められ、顔の骨が軋む音がマルコを支配した。

 レナードは片手でマルコを持ち上げ、強引に立ち上がらせる。

 そのまま足が浮くまで持ち上がったマルコの体は、まるで吊るされているような状態になった。


「お前が負けを認めなければ、永遠に戦い続けなければならない」

「ムウゥー!!」


 マルコは目から涙をこぼしながら、レナードを睨みつける。

 二人を囲う結界は未だに解かれることはなく、両者に戦う意思があることを示していた。


「それがお前の答えか。よくわかった」

「レナード!! マルコさまを殺さないでくれ!! 頼む!!」


「黙れ! 貴様は少しの間そこで見ているといい!!」

 結界の外側にいるクロフトへレナードが怒号を浴びせる。

 レナードに睨まれた、彼はビクリとしてその場で固まった。


「今から三秒後に頭を握り潰す。お前のために数えてやろう」

「ムウゥ!?」


 レナードは冷徹な声で告げると、空いている手でマルコの頭をつかむ。

 マルコの口から手を放し、数字を数え始めた。


「3」

「2」

「アギャアアアアアア!!??」


 数字を言うたびにマルコの顔をつかむレナードの手に力が徐々に強くなっていく。

 マルコは必死に抵抗しようと体を暴れさせるが、意味がなく手足が空を切る。


「1」

「アアアアァァァァ!!」


 カウントダウンが終わると同時に、マルコの頭はミシミシと嫌な音をたて始める。

 そのあまりの激痛に、マルコは目を白黒させながら悲鳴を上げた。


「0」

「ギィヤアア!?!??」


 カウントが終わった瞬間、レナードはマルコの顔面を容赦なく地面へ叩きつけた。

 鼻の軟骨が折れ曲がり、マルコは声にならない声を上げて、白目を剥きながら気絶した。


「……勝負ついたか」

「マルコさま!!」


 二人を囲っていた結界が消え、クロフトがマルコへ駆け寄る。

 そんな二人をよそ目に、レナードは決闘の結果を見ていた生徒達を見渡した。


「今後俺へ敵意を向けるやつは容赦しない! 全力で相手をしてやろう!!」


 レナードがそう宣言すると、決闘場には静寂が訪れた。

 その沈黙を破ったのは、サイモンである。


「勝者、レナード」


 その言葉を聞いて、生徒たちはざわめき出す。


「あいつ、本当に人間なのか……? 俺たちとレベルが違う……」

「でも、レナードってどこか変わったよな?」

「ああ、前はもっとこう……」


 生徒たちは口々に感想を言い合うが、誰一人としてレナードと以前の彼を結び付けることはなかった。

 何も言うことなく、勝負が終わった広場からレナードは立ち去る。

 その背中を、勝負を見届けていたルミナリアがじっと見つめていた。

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