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第16話 クロフトの抵抗

「どういう意味だ!」

「俺がお前たち二人から暴行を受けたことと、マルコが俺に敗れた事実は変えることができない」

「ぐぅ……」


 レナードがそう言うと、クロフトは悔しそうな表情を見せた。

 二つの出来事が自分の蒔いた種が原因だと認めざるを得ないからだ。


「おっ……お前たち二人でマルコ様を陥れたんだろう!!」


 クロフトは激昂して立ち上がった。

 その目は怒りに満ちており、今にも殴りかかってきそうな雰囲気だ。

 しかし、それでもレナードは動じないどころか冷静に言葉を放つ。


「ハッ。言うに事欠いて、俺がマルコを嵌めたと? 寝言は寝てから言うものだ」


 レナードの嘲笑うような言葉にクロフトの顔が怒りに染まった。


「貴様っ!!」


 クロフトは拳を握りしめてレナードに襲いかかる。


「ふんっ!!」

「ぐふぁっ!!??」


 レナードの拳を顔面で受け、クロフトは廊下の壁に吹き飛ばされた。

 レナードは鼻を鳴らすとルミナリアの方に視線を向ける。


「ルミナリア」

「はっ、はい!?」


 レナードに凄みのある声で名前を呼ばれたルミナリアは驚きの声を上げた。


「こいつはどうする? 徹底的に痛めつけるか?」


 レナードはクロフトの側に歩み寄ると冷たい声で問いかける。

 その目は完全に据わりきっていたが、ルミナリアは気にも留めずに答えた。


「いいえ、そこまでする必要はないわ」


 ルミナリアの言葉を受けたレナードは小さく頷くと再び口を開く。


「……そうか。お前がそう言うのならそれでも良い」


 レナードはルミナリアの言葉に納得するとクロフトの側にしゃがみ込んだ。


「おい」

「……あ……あぁ……」


 レナードが声をかけると、クロフトは力なく答えた。

 そんなクロフトに対して、レナードはさらに言葉を続ける。


「お前が何を勘違いしているかは興味がない。が、俺の邪魔をするなら容赦はしないぞ」


 レナードの鋭い視線がクロフトを射抜く。


「……ひぃ……」


 そんなレナードの視線を受けたクロフトは恐怖に震え上がった。

 クロフトは座り込んだままズリズリと後退る。


「こ……このことは必ず公王に報告させてもらうからな!!」


 何とか立ち上がったクロフトはそう言い残して逃げるように走り去った。

 クロフトを見送った後、レナードは溜め息をついてルミナリアに目を向けた。

 その瞳には少しだけ心配そうな色が浮かんでいるように見える。

 レナードの様子を察してか、ルミナリアは慌てて頭を下げた。


「あ……ごめんなさい! 私のせいであなたにまで迷惑をかけて……」


 ルミナリアが謝罪の言葉を口にすると、レナードは小さく首を横に振った。


「気にするな。それにお前が謝る必要はない」

「でも……私と一緒にいたから……」


 レナードの返答にルミナリアは顔を伏せて口籠もる。

 俯くルミナリアに対してレナードは手を差し伸べた。


「さっきの続きだ。お前は俺のことを信じてくれるか?」


 レナードはそう言い、手を差し出したままルミナリアの返答を待つ。

 少しの時間を置いてルミナリアは小さく笑みを浮かべた。


「ええ……もちろん」


 差し伸べられた手にそっと触れるルミナリア。

 ルミナリアの瞳に迷いは感じられない。


「感謝する」


 レナードはルミナリアの返事に短く答えた。

 握手を交わした後、ふうっと息を吐くとレナードが口を開く。


「俺も二度目の人生を送っている」

「…………えっ?」


 予想していなかった言葉にルミナリアは目を丸くしてレナードを見つめる。

 驚きの表情を見せるルミナリアに対して、レナードは静かに語り出した。


「お前の知っているレナードはあの廃墟で死んだ。今この体には國包天平という俺が二度目の人生を歩んでいる」


 レナードの言葉にルミナリアは押し黙る。

「続けていいか?」と促されると、小さく頷いて肯定の意を表した。

「俺はこの人生で神よりも強くなるつもりだ」


「えっと……その……神様よりも……強く?」


 ルミナリアが言葉を詰まらせるのも無理はないだろう。

 冷や汗を浮かべるルミナリアに対してレナードが力強く頷いた。


「ああ、神をも超える存在になるつもりだ」


 レナードの瞳には強い意志の光が宿っていた。

 その覚悟が本物だということを理解したルミナリアはそっと目を伏せる。


「そ、そう……」


 言葉を詰まらせるルミナリアに対してレナードは苦笑交じりに答えた。


「まぁ、今はこの話を忘れてもらってもいい」


「え?」と首を傾げるルミナリアに向かってレナードは続ける。


「今はこの状況をなんとかするのが先だからな」


 レナードはやれやれと肩を竦める。

 ルミナリアはそれを見て戸惑いの表情を見せるがレナードの言っている意味を理解していなかった。


「興味はないが、お前とクロフト……マルコには何かしらの因縁があるのだろう?」


 レナードはルミナリアに背を向けて問いかける。


「まぁ……そうね」


 ルミナリアは歯切れが悪そうに答えたが、レナードにはそれだけで十分だった。


「なら……先に手を打っておくべきだ。行くぞ」


 レナードはルミナリアの返事を待たずに歩き出す。


「あっ、ちょっと待ってよ」


 そんなルミナリアの声を背に聞きながらレナードは歩みを進めるのだった。


◆◇◆◇◆


「失礼する!!」

「ちょっ!? ちょっと!!??」


 レナードが豪快に扉を開ける。

 あまりの勢いにレナードの後ろにいたルミナリアが声を上げたが、レナードは構わずに歩を進めた。


「な……何事じゃ!?」


 部屋の中にいたアルフレッド学校長が驚きの声を上げた。

 レナードはそんなアルフレッドに構わず、ずんずんと進んでいく。


「レナードか!? な、何じゃ? もう使い魔召喚の儀が終わったのか?」


 戸惑いながらもアルフレッドはレナードに問いかけた。


「ああ、使い魔の召喚は無事に終わった」


 レナードはアルフレッドの前にある大きな執務机の前で立ち止まって答える。


「おお! そうか!!」


 アルフレッドは安堵の息を付きつつ、古い丸メガネをクイっと持ち上げると、辺りを見回す。


「お主の使い魔はどこにいるんじゃ? お嬢さんの足元にしかいないようじゃが……」


 アルフレッドと目が合ったルミナリアが気まずそうに微笑む。


「本当に召喚の儀をしてきたのか?」


 レナードに問いかけるアルフレッドは訝し気だ。


「月影」


 レナードが一言だけぽつりと呟く。

 すると、レナードの影がうごめき、アルフレッドの目の前に月影が現れた。


「ほう……これは……神獣族……麒麟かの?」


 急に現れた月影に動揺することなく、アルフレッドは黒馬を興味深く観察する。


「黒とは珍しい……」

「月影、ご苦労だった。もういいぞ」


 アルフレッドの呟きを無視するようにレナードが月影を戻す。

 月影が影の中に消えていくのを確認した後、アルフレッドはレナードに視線を移した。


「これで俺が嘘をついていないと証明できたか?」


 レナードが問いかけると、アルフレッドは顎髭を撫でながら答えた。


「……うむ。要件は決闘か?」


 アルフレッドの目に鋭い光が宿る。


「いや、決闘の前に一つ頼みたいことがある」


 レナードが言葉を言い終えると空気が重くなった。

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