表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/38

第15話 敵対勢力

「ルミナリア様!! ルミナリア様!! いらっしゃいませんか!!??」


 扉越しに聞こえてくるのは男の声。

 それも聞き覚えのある嫌な声だとレナードは思った。


(まったく……迷惑な客人だな)


 レナードは心の中でため息をつく。


「ルミナリア、どうしたんだ?」


 レナードが扉に目を向けながら尋ねると、ルミナリアは呆けた表情のまま動かない。


「おい、この声はクロフトだろう? どんな仲なんだ?」


 レナードが呼びかけるとようやく我に返り、ルミナリアが口を開いた。


「マルコの取り巻きの一人よ。あなたも知っているでしょう」

「知っているが、こんな風に扉を叩かれる仲なのかと聞いているんだ」


 レナードは訝しむように目を細めてルミナリアに問いかけた。

 すると、すぐに首を横に振って否定するルミナリア。


ドン!ドン!ドンッ!!


「いるのでしょう!??返事をしてください!!」


 クロフトの声は徐々に大きくなっている。

 このまま放置しておくと扉を壊されかねない勢いだ。


「うるさくて話ができん。俺が出るぞ」

「あっ!? ちょっと!?」


 レナードは返事を聞く前に席を立ち、扉に向かって歩き出す。

 ルミナリアが引き留めようとするが、レナードは無視してドアノブに手を掛けた。

 ギィと重々しい音を立てて、扉が開かれた先では赤毛の男が立っていた。


「なっ!? なんでお前がこの部屋に!?」


 レナードを見るや否や不機嫌そうな表情を浮かべるその男こそ、マルコの取り巻きの一人、クロフトである。


「なんの用だ? ルミナリアはお前に用はないようだが」


 レナードはそう言いながらクロフトが部屋に入れないように立ち塞がった。


「ルミナリア様!? どうしてこいつと一緒なのですか!!??」


 クロフトはレナードを押しのけて、部屋の中を覗こうとするがそれも叶わない。


(ふむ……この反応を見るに、少なくとも他人ではなさそうだが……)


 クロフトの反応からレナードはそう判断したが、確証が持てない以上は入室させなかった。


「邪魔だ!」


 苛立ったクロフトが乱暴に拳を振るうもレナードはその腕を簡単に受け止める。


「暴力はお勧めしない。これは警告だ」

「グゥッ!?」


 掴んだ腕を握り潰すように力を込めると、クロフトは苦痛の声を上げる。

 レナードが腕を放すと、その場から一歩引くクロフト。


「こいつ……!」


 自らの右腕を押さえながら怒りを込めて睨みつけてくるクロフトの眼光を軽く流すレナード。


「やめないのなら、もう少し痛い思いをすることになるが?」


 レナードは警告すると同時に拳を握る。

 そんな時だった、今まで様子を見守っていたルミナリアが動いたのは。

 ルミナリアはそのままクロフトを庇うように前に立ちふさがった。


「それ以上はいいわ」

「お前がそれで良いのならかまわない」


 ルミナリアの声は冷静なようでどこか迫力があり、レナードはついつい拳を納めてしまった。


「ル、ルミナリア様……いったいどういうことなのですか?」


 クロフトは信じられないといった様子で目を見開き、口をパクパクと動かしている。


「ごめんなさいね。彼は私を守ってくれているの」


 ルミナリアはそう言いながらクロフトに優しく微笑みかけた。

 しかし、その笑みからは形容しがたい威圧感のようなものが感じられる。


「平民が……ルミナリア様を……クッ!」


 クロフトはレナードを睨みつけながら歯ぎしりをした。

 その瞳には隠し切れない怒りが込められているように感じる。


「クロフト、どうしてここに来たの?」


 ルミナリアがクロフトに問いかけるが、それは疑問ではなく非を責めるものだ。

 ルミナリアの言葉を受けたクロフトは悔しそうな表情を浮かべた後、頭を地面に擦り付けるように土下座をした。


「ル、ルミナリア様!! どうかどうか!! アーガレイン王にマルコ様の復学をお願いしてください!!!!」


 クロフトは額を床に擦り付けながら、必死に懇願した。


(ふむ……これは何かありそうだな)


 クロフトの突然の行動に驚きながらも、レナードは冷静に二人を観察していた。


「私にそんなことができると思う?」


 ルミナリアは冷めた目でクロフトを見下ろすと、静かに問いかける。

 その声音には怒りや悲しみといった感情は一切含まれていない。


「で、ですが……このままでは……」


 クロフトはルミナリアの冷たい視線を受けてもなお、必死に食らいつく。

 その目には焦りの色が見て取れた。


(クロフトをここまで必死にさせるだけの何かがありそうだな)


 レナードはそう思いながら、ルミナリアの反応を見守る。


「クロフト、あなた……何か勘違いをしていないかしら?」


 ルミナリアはそう言うと、ゆっくりとした動作でクロフトの側で膝を付く。


「ルミ……ナリア様……?」


 その行動に戸惑いを見せるが、それでも必死に顔を上げようとはしない。


「あなたはマルコの護衛の一人に過ぎないのよ? そんなあなたが私に王への懇願を依頼するなんて……それこそ無礼に当たると思わない?」

「し、しかし! このままではマルコ様が完全に学園を追い出されてしまいます!!」


 クロフトはルミナリアの冷たい言葉を受けてもなお食い下がろうと必死だった。

 だが、そんなクロフトに対して、ルミナリアは容赦なく事実を突き付ける。


「それはマルコの暴走を止められなかったあなたのせいでしょう?」

「そっそれは……」

(ほう……)


 レナードは興味深そうに目を細めた。


(これは面白い展開になってきたな)


 レナードがそう考える間に、ルミナリアはさらに続ける。


「あなたがレナードに暴行を加えないようにマルコを止めていたらこうはならなかったわ」

「それは…………」


 クロフトは言葉に詰まると、苦悶の表情を浮かべて黙り込む。

 そんなクロフトに対して追い討ちをかけるようにルミナリアは続けた。


「それに、マルコが復学して私に何の得があるの?」

「が……学園内でアーガレイン公国の評判が上がるかと……」


 クロフトはルミナリアの言葉を聞いた瞬間、顔を真っ青にして恐る恐る答えた。


「そんな評判はマルコの件で地に落ちているわ」

「そ……そんなことは……」

「名誉の決闘で退学した虐めっ子のマルコ。この話をしていない人が学園内にいる?」


 ルミナリアの言葉は淡々としたものだったが、確かな威圧感があった。

 クロフトはその迫力に押されて一言も発せない様子だ。


「仮にマルコが復学してしまったら、さらにアーガレイン公国の評価が下がるわ」


 ルミナリアがそう言った瞬間、クロフトの目からは涙がこぼれた。

 それは自分の無力さを痛感した、悔し涙に見える。


「そんな……俺は……俺がマルコ様をお止めすれば……」


 クロフトはそのまま泣き崩れたかと思うと嗚咽を洩らし始める。

 そんなクロフトにルミナリアは何も声をかけなかった。

 静かな部屋の中に嗚咽が響く中、レナードが口を開く。


「お前の希望が叶うことがない」

「貴様がそれを言うか!!」

「事実だろう?」


 レナードはクロフトの怒声を正面から受け止める。

 淡々と事実のみを告げているようなその雰囲気はどこか不気味さを孕んでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ