第14話 ルミナリアの秘密
「詳しく聞かせてくれ」
レナードは真剣な表情で話の続きを促した。
それを察したルミナリアはゆっくりと語り始める。
「私は今までに六回死んだことがあって、今は七回人生を送っているわ」
「…………ふむ」
レナードは顎に手を当てて考え込む素振りを見せた。
(これは……どういうことだ?)
レナードは内心で混乱していた。
『人生を七回も繰り返している』という話に対して、どう反応していいのかわからなかったのだ。
納得している自分もいれば、ルミナリアの言葉を否定している感情もある。
「疑うのも仕方ないと思う」
レナードの表情から察したのか、ルミナリアは言葉を続ける。
だが、その表情はとても悲しげで、どこか諦めたように感じられた。
「いきなりこんなこと言われても信じられないと思う……でも、本当なの……」
ルミナリアはそう言うと俯いてしまった。
(ふむ……どうしたものか。俺とレナードのことを口にするかどうかだな……)
レナードは考え込んだまま、ルミナリアの言葉を反芻していた。
レナードの知る限りだが、ルミナリアという少女は誠実で真面目な生徒だ。
今、レナードが考えているのは、この少女をどこまで信用するかという判断になる。
(確かに突拍子もない話だが、俺も二度目の人生を送っている……おそらく、否定の感情は俺の持っている知識からくるものだろう……)
レナードがちらりとルミナリアを見ると、彼女は沈んだ表情で俯いていた。
その表情からは不安の色がはっきりと見て取れる。
(俺の直感に従ってみるか)
レナードは大きく息を吐くと、再び口を開いた。
「いや……信じよう」
「……え?」
予想外の言葉に驚いたのか、ルミナリアは顔を上げて目を大きく見開いたまま固まったように動かなくなる。
ルミナリアの様子を気にすることなく、レナードはさらに続けた。
「確かに君の話は突拍子もないものだし、にわかに信じがたいことだ」
「そう……よね……」
レナードの言葉にビクッと体を震わせるルミナリア。
その表情は怯えているように見えるが、同時に期待も入り交じった複雑なものだった。
ルミナリアの反応を見たレナードはゆっくりと話し始める。
「だが……信じよう」
レナードがルミナリアの瞳を捉えるようにじっと見つめた。
数秒間ほどそうしていると、ルミナリアが唇をキュッと結んだ。
「本当に?」
「ああ」
「本当の本当に?」
「そうだ」
何度も確認してくるルミナリアに対して、レナードはその都度力強く頷いた。
すると、ようやく安心したのかルミナリアの表情が明るくなり始めた。
遂に涙腺が決壊し一筋の涙が頬を伝う。
「あり……がとう……」
嗚咽混じりの声だがしっかりと感謝の言葉を口にするルミナリアを見てレナードは優しく微笑んだ。
「七回目の人生について詳しく教えてくれ」
「それはね──」
ルミナリアは涙を拭うと、ポツポツと話し始める。
その内容を要約するとこうだ。
今までにルミナリアとしての人生を六回までの人生を歩んだ記憶がある。
この魔法学校に入学した時から人生を繰り返しているが、すべて誰かに殺されるという結末を迎えてきた。
ルミナリアを殺害してきた人の中にはレナードと決闘を行ったマルコの名前もあった。
黙って説明を聞いていたレナードが口を開く。
「人生を繰り返すようになった理由は?」
「それは……わからないわ……けど…………」
ルミナリアが言葉を区切り、言いにくそうに視線を逸らす。
レナードはルミナリアが話すのを静かに待った。
「最初に殺された時、神様に強く願ったの【私はこのまま死にたくない】って」
「それだけか? 毎回殺されるたびに願えば繰り返すのか?」
レナードの質問に、ルミナリアは首を横に振って否定する。
「ううん、違うわ……二回目の時はもう殺されたくないから終わりにしてって願ったから……」
「それでも三回目の人生が始まったということか」
ルミナリアは小さく首を縦に振って答える。
そして、迷うように視線を動かしてから口を開いた。
「でも、最初の願いがきっかけになったのは間違いないと思う……」
「なぜそう言い切れる?」
「えっと……それは……」
レナードの問いにルミナリアは俯いて口籠もってしまう。
少しの間俯いていたが、意を決したように顔を上げた。
「神様に会ったから……」
「ほぉ」
レナードが興味深げに声を上げた。
ルミナリアはそんなレナードに話を続ける。
「神様はとても美しい方で……私に言ったの『あなたの願いを叶える』って……その直後、二回目の人生が始まったの」
「なるほどな」
レナードはルミナリアの話を聞きながら考え込んでいる様子だ。
真剣に悩む仕草をしているレナードをルミナリアは黙って見守っていた。
「お前はこれからどうしたい?」
考えをまとめたレナードは紅茶を啜りながら尋ねる。
ルミナリアは神妙な面持ちになると静かに語り出した。
「私は……もう、殺されたくない……この繰り返す人生を終わらせたい……」
ルミナリアは悔しそうに膝の上で手を握りしめた。
体は微かに震えており、ルミナリアの心情を表しているかのようである。
そんなルミナリアの様子を見たレナードは紅茶をテーブルに置いた。
(主神を倒すのに協力者は必要だ。それにこいつは、【レナード】を助けようとしてくれていたからな)
レナードは初めてルミナリアに会った時のことを思い出していた。
あんな廃墟同然の教会に偶然来るわけがない。
ルミナリアはマルコたちの暴行を受けたレナードを助けるためにあそこにいたのだ。
(恩には義で応える。それが俺の主義だ)
レナードはルミナリアの目をまっすぐ見据えると口を開く。
「それなら俺がお前を守ってやる」
「…………え?」
突然の申し出に対して、ルミナリアは目を丸くしている。
レナードは構わずに続けた。
「だが、一つだけ条件がある」
「条件?」
レナードがそう言うと、ルミナリアは身構えたように姿勢を正した。
そんなルミナリアをジッと見つめつつレナードは言葉を続ける。
「今から伝える俺の言葉を信じてくれ」
「…………それだけ?」
ルミナリアが戸惑いながらも聞き返すとレナードは頷いた。
「それだけだ。どうする?」
「どうするもこうするも……あなたに守ってほしいなんて一言も……」
ルミナリアは困惑の表情を浮かべている。
「だが、お前はこうして秘密を話すことで俺に協力を求めたのだろう?」
「それはそうだけど……」
ルミナリアは口籠もりながらもレナードの指摘を認めた。
「六回繰り返したはずの人生で一度もなかった変化が今回はあった。違うか?」
「ッ!?」
ルミナリアは息を詰まらせて目を見開く。
(やはりな……【俺】という存在だな)
レナードは自分の予想が的中したことを悟った。
「その反応からすると、図星か」
「そうよ。今まで一度たりともマルコが負けたことなんてなかったわ。ましてや、ここを追い出されることになるなんて」
「だろうな」
レナードは鼻を鳴らして、紅茶をすすった。
カップを置くと、ルミナリアに顔を向ける。
「で? どうするんだ?」
レナードの問いかけに対してルミナリアは俯いてしまうがすぐに顔を上げた。
その瞳には決意の色が宿っていた。
「ええ、信じ──」
コンコンコンコンコン!!!!
ルミナリアが答えようとした時、部屋の扉をノックする音が響いた。