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第12話 レナードの使い魔

「レナードくん? 準備はいい?」


 ミネルバの問いかけにレナードは静かに頷いた。

 それを見たミネルバは小さく頷き返す。


「では、魔法陣の中に入って」

「頑張ってきてね」


 レナードが魔法陣の上へ向かうと、ルミナリアが声をかけてきた。

 彼女の表情はとても明るく、レナードを応援してくれていることがわかる。


「うむ、行ってくる」


 短い返事を返した後、レナードは改めて目の前の光景を確認する。

 床に描かれている幾何学模様は複雑に入り組んでいた。

 さらに、周囲にはいくつもの光の玉が浮かんでおり、神秘的な雰囲気を感じさせる。


「あ、レナードくん。ナイフはある?」


 ミネルバが思い出したように質問をしてきた。

 おそらくナイフで体のどこかを切って血を出せという意味だろう。

 レナードが返事をする前に、ミネルバはローブの中から小さなケースを取り出した。

 蓋を開けて中に入っていたのは柄にルビーが埋め込まれている銀のナイフだ。


「なかったらこれを使いなさい」

「ありがとう。だが、不要だ」


 差し出されたそれを受け取らずに断ると、ミネルバの表情が曇る。

 だが、それも一瞬のことですぐに元の穏やかな表情に戻った。


「……そう、ならいいわ」


 それだけ言うと、ミネルバは一歩下がる。

 レナードは彼女の心遣いに感謝をして、軽く頭を下げてから魔法陣の中へと足を踏み入れる。

 すると、魔法陣の光が強くなり、同時に足元にある幾何学模様が青く輝き始めた。


(血を出すのに道具などいらん。これで十分だ)


 そう思いながら、レナードは右手を前へと伸ばす。

 右腕を真っ直ぐに出し、拳をギュッと強く握る。

 爪を手のひらに立てるように握り込むと、皮膚を突き破って血が流れ出た。

 流れ出した血液はそのまま重力に従って下へと落ちていく。

 ポタポタと音を立てて地面へ落ちる赤い液体を見つめながら、レナードは思う。


(さて、どうなる?)


 レナードの血が地面に触れると、魔方陣全体から青色の光が溢れ出す。

 そして、その光は徐々に金色へと変化していく。


(これが召喚なのか……?)


 初めて体験する現象を前に、レナードは興味深そうに眺めていた。


「これは……神性属性? 何が出るのかしら?」

「すごい……きれいな光」


 後ろで見ているミネルバやルミナリアも驚いているようだ。

 そんな二人を尻目に、金色の光はさらに強さを増していき──弾けた。

 周囲に飛び散った金色の粒子がキラキラと輝く幻想的な光景が広がり、誰もがその光景に目を奪われていた。

 しばらくして、光が収まるとそこには一頭の馬が佇んでいた。

 輝くほどに美しい毛並みを持つ黒馬だ。


「なっ!」


 その姿を見た瞬間、レナードは思わず息を飲む。

 なぜなら、黒馬には見覚えがあったからだ。

 忘れるはずがない。

 この黒馬は自分が戦場でずっと共に戦ってきた相棒なのだから。


「ブルルル……」


 懐かしい声が耳に入ると同時に、レナードの頬を涙が伝う。


(あぁ……間違いない)


 間違いなく目の前にいるのは月影だった。

 しかし、月影は動かない。

 じっとしたままレナードのことを見つめているだけだ。

 まるで、レナードの次の行動を待っているかのように。


「……月影、俺を覚えているか?」


 恐る恐る声をかけるレナード。

 すると、月影はゆっくりと近づき、頭をレナードの胸に擦り付けてきた。


『当たり前です。国包のことを忘れたことなど片時たりともありません』

「お前!? 言葉を!?」

『ええ、使い魔としての契約を交わしたことで国包の言葉がわかるようになりました』

「そうか……よかった」

『はい』

「本当に、本当によかった……!」


 喜びのあまり涙を流すレナード。

 その姿はとても人間らしく、全世界を統一した大将軍とは思えない姿であった。


◆◇◆◇◆


「ふぅ……」


 儀式を終えたレナードは一息つくと、使い魔である月影に視線を向けた。


「まさか、お前にまた会えるとは思わなかったぞ」

『私もこうして再び主と会うことができるとは思いませんでした。これもすべて主のおかげですね』

「俺は何もしていないさ。全てお前が頑張った結果だ」


 優しくそう言いながら笑みを浮かべるレナード。

 それに対して、月影は静かに首を横に振った。


『いいえ、私は主が神域に至らねばこの場にいません。ですから、やはり主のお陰なのですよ』

「ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいな」


 照れくさそうに笑うレナードを見て、ルミナリアとミネルバは顔を見合わせて驚いていた。

 普段はあまり感情を表に出さないレナードが満面の笑みを見せているのだから無理もない。


「レナードが笑ったところなんて初めて見たかも」

「そうね、珍しいものが見れたわ」


 二人はひそひそと話すが、当の本人の耳には全く届いていないようで楽しそうに会話をしている。

 使い魔召喚の儀式が終了したため、ミネルバによって魔法陣が片付けられていた。

 ルミナリアはミネルバの手伝いをしながら、レナードの様子を窺っている。

 一方のレナードはというと、月影を撫でながら嬉しそうに笑っていた。


「さて、そろそろいいかしら?」


 しばらくその様子を眺めていたミネルバだったが、頃合いを見計らってレナードに声をかける。

 声をかけられたことに気付いたレナードは、ハッと我に返り慌てて表情を引き締める。


「あ、ああ、すまない。少し取り乱してしまった」

「いいのよ、それだけ嬉しかったんでしょう?」

「うむ、その通りだ」


 恥ずかしそうにしながらも、レナードはしっかりと頷いた。


「それじゃあ、改めて使い魔の登録をするから、いくつか教えてちょうだい」


 ミネルバは羽ペンと羊皮紙を用意すると、質問を始める。


「まず一つ目ね。この子の名前はなんていうのかしら?」

「月影だ」

「ツキカゲ? 変わった名前なのね」


 聞き慣れない言葉に首を傾げるミネルバだが、すぐに気を取り直して二つ目の質問をする。


「じゃあ、性別はどっちかしら?」

『メスです』

「メスだ」

「あら、女の子なのね」


 ミネルバはレナードの答えを聞きながらサラサラと紙にペンを走らせる。

 書き終えたところで顔をあげると最後の質問を始めた。


「最後だけど、種族はわかる?」

「種族?」

「そう、例えば妖精族とか獣族とか昆虫族とか岩石族とか……とにかくどんな種類の生き物なのかを教えてくれるかしら?」


 馬と答えようとしたレナードが月影へと視線を向ける。


(馬じゃないのか?)


 月影はミネルバの質問を聞いており、レナードの心を読んだかのように答える。


『私は神獣族に属されるものです』

「神獣族のようだ」


 月影の答えをレナードはそのまま伝える。

 それを聞いたミネルバは「やっぱりね」と呟いて紙に視線を向ける。

 どうやらすでに月影の種族について予想がついていたらしい。


「知っていたのか?」

「ええ、召喚の時に特徴的な光が出ていたわよ」

「なるほど」


 納得したように頷くレナード。

 一方で、別の疑問も頭に浮かんできた。


「神獣族とはなんだ? 普通の馬じゃないのか?」


 レナードの中には使い魔に関する知識はなかった。

 種族を聞いてもあまりピンとこなかったのも、あまりそういうことに興味がなかったためだ。

 そのため、わからないことは素直に聞くことにした。


「神獣族はこの世界に存在する生物の中で、唯一神格を持っている存在のことよ」

「神格だと?」

「そうよ、神格というのは神々の力の一部を分け与えられた存在だと言われているわ」

「つまり、神の眷属ということか?」

「ちょっと違うわ。なんて言えばいいのかしら……神に近いけど神ではない存在といったところかしら」

「ふむ、よくわからんな」


 ミネルバの説明を聞いたレナードは、いまいち理解できなかったらしく首を傾げている。

 それを見たミネルバは苦笑いを浮かべた。

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