第10話 学校長執務室に乗り込んできたレナード
最初は学校長主観で、途中からレナード主観になります。
分かりにくくて申し訳ございません。
話の文量上、区切れるところがありませんでした。
「なにごとだ!?」
突然の出来事に驚いたアルフレッドは慌てて魔法で障壁を張り、杖を構える。
「レナード……お主……」
入ってきた青年の顔を見たアルフレッドは呆然と立ち尽くす。
「学校長!! 学校最強と称される貴殿に、我と勝負をしていただきたい!!」
魔法学校の制服を着た青年は、自信満々といった表情を浮かべて力強く叫ぶ。
その青年の名は、アルフレッドが後見人となっているレナード。
だが、その姿は先ほど映像で見たレナードとはまるで別人のようだった。
目の前にいる身体が二回り以上大きくなったレナードを見て、アルフレッドは困惑する。
(どういうことだ……? レナードの身になにが……)
レナードの体からは、今まで感じたことのないほどの魔力と魔素が溢れ出していた。
その膨大な魔力を感じ取ったアルフレッドは、思わず冷や汗を流す。
あの才能豊かな少年がどのような進歩を遂げたのか知りたくなったアルフレッドは、大きくうなずく。
「もちろん良いが……レナードよ、使い魔召喚の儀は済んだのだろうな?」
「使い魔召喚の儀だと? なんだそれは?」
「……なに?」
レナードの返答に、アルフレッドは絶句した。
優秀だと思っていたレナードが【使い魔召喚の儀】を失念している。
その事実に衝撃を受けたアルフレッドは動揺を隠しきれずにいた。
「なにか問題でもあるのか?」
「お主が魔法学校の生徒を続けたいのなら、問題しかないの……」
「なんだと?」
アルフレッドの言葉に、レナードは眉をひそめる。
この部屋へ飛び込んできたときの勢いは消えていた。
「魔法学校へ入学した者は、必ず使い魔と契約する決まりがある」
「そうなのか?」
「そうじゃ」
「知らなかった……」
「知らなかったじゃと?」
「ああ、初耳だ……いや、以前聞いたことがあるか……」
顎に手を当てて思い出そうとするレナードだったが、どうにも思い出せないようだ。
眉間にシワを寄せながら必死に考えている。
「もう一度、わしが教えてやろう……」
「感謝する」
右手の握りこぶしを左手で包み、手を掲げるようにレナードが頭を下げる。
急に態度の変わったレナードを見て、アルフレッドは小さくため息をついた後、説明を始めた。
この魔法学校へ通う生徒たちは、使い魔と呼ばれる存在と契約し、契約者をサポートするパートナーを得るという義務が課せられている。
これは魔法の力を高めるために必要な儀式であり、入学した生徒は必ず行わなければならない。
「つまり、俺は使い魔と契約を結ばないと退学になるということか?」
「そうじゃな」
アルフレッドの説明を聞いたレナードは自分の状況を理解したようで、少し焦った表情を見せる。
「それは……困るな……」
「使い魔召喚の儀は、今中庭で行われている。早く行かないと召喚用の魔方陣が消されてしまうぞ?」
「なんだと! 申し訳ないが一旦失礼させてもらう!」
レナードは踵を返し、急いで会議室を出ていこうとした。
「レナードよ」
「なんだ?」
そんなレナードを呼び止めたアルフレッドは、レナードの肩に手を置く。
「お主、どうしてワシが一人になるのを待っていた?」
「ん? そんなの当たり前だろう、俺は学校長に勝負を挑みに来たのだ。他の者がいたら迷惑になるだろう」
レナードは涼しい顔でそう答える。
その堂々とした姿を見たアルフレッドは苦笑いを浮かべた。
「使い魔召喚の儀が終わったらおぬしと勝負をしてやろう」
「本当か!?」
「ああ、学校長室にいると思うから、終わったら来なさい」
「恩に着る!!」
レナードは嬉しそうな顔をしながら、中庭へ向かって歩き出す。
「どれ、送ってやろう」
アルフレッドは少し考えた後、小さくつぶやきながら杖を握り直す。
そして、ゆっくりとした動作で廊下へ向かって何度か杖を振った。
次の瞬間、魔法学校の廊下へ出たレナードの周囲がぐにゃりと歪む。
空間の歪みが治まると、廊下に出ようとしていたレナードの姿はすでになかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「学校長の仕業か……」
一瞬で景色が変わったことに驚きつつも、すぐに状況を理解したレナードは冷静に周囲を確認する。
「あれか……」
少し離れたところに巨大な魔方陣が見え、その周辺に集まっている人影があった。
「よし、まだ残っているな」
そう言って、レナードは人混みのほうへ向かう。
近づくにつれて、徐々にその様子がはっきりと見えてきた。
魔法学校の制服を着た男女が、魔方陣の周りで不思議な生物と戯れている。
その光景を遠巻きに見ている生徒たちは、緊張した面持ちで見守っていた。
(あれが使い魔か……なるほど、俺がいた世界とは全く違う生き物だ)
小さな羽で飛び回る赤いトカゲや、炎を吐く黒い犬など、様々な種類の生物がいた。
初めて目にする生物にレナードは興味津々だった。
戦ってみたいという気持ちが溢れそうになってくる。
しかし、今は使い魔召喚の儀を終わらせることを優先して、気持ちを抑える。
「そこの少年、すまないが使い魔召喚の儀について詳しく教えてくれないか?」
勝手がわからないレナードは近くに座っていた男子生徒に話しかけてみることにした。
「え? あ、ああ……いいけど……」
突然話しかけられた生徒は、驚いた様子で返事をする。
「助かる」
「えっと……何が聞きたいのかな?」
質問された生徒が、困ったように聞き返す。
レナードが何を知りたいのかわからないのだから当然だ。
レナードは質問に答えるとなく、男子生徒の横にどかっと腰を下ろす。
「俺の名はレナードだ。協力感謝する」
「きみがレナード? ……僕はティム・バーンズだよ」
隣に座ることになったレナードに対して戸惑いながらも、ティムは返事を返した。
「まず初めに、あの魔方陣を使って使い魔を召喚するのか?」
「うん、そうだよ」
「どうやって使うんだ?」
「魔方陣の中に入って、自分の血を一滴たらせば良いだけだよ」
「……それだけなのか?」
「そうだけど……」
使い魔を呼び出す方法を聞いたレナードは、拍子抜けしていた。
もっと複雑な手順があるのかと思っていたが、想像以上に簡単なやり方だったからだ。
「血を垂らした後はどうすればよいのだ?」
「何もしなくても大丈夫だよ」
「そうなのか?」
「うん、あとは待つだけだね」
どうやら本当にそれだけで終わりらしい。
それならすぐに終わるだろうとレナードは思った。
さっさと終わらせるために立ちあがろうとした時、ティムが口を開く。
「……ところでさ、きみって本当に平民のレナードくん?」
「ん? ああ、さっきもそう名乗っただろう」
話題を変えるためか、それともただの興味本位からか、ティムが話を振ってきた。
マルコにいじめられていたことは校内でも知らない人は少ない。
その話題を出されても、当のレナードは特に気にしていなかった。
だが、レナードとは対照的に、ティムは真剣な表情で話しを続ける。
「マルコたちにいじめられていたのに何もできなくて、本当にごめん!!」
急に頭を下げたかと思うと、大きな声で謝罪してきた。
いきなり謝られたレナードは目を丸くした。