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交渉決裂

(それじゃあ、ちょいと長楽寺に行って、徴税吏どもを散々煽るとするかな)

俺は、紀出雲介親連・黒沼彦四郎とその兵四、五十の待つ長楽寺本堂へと向かう。

俺が現れたのを見るや否や、黒沼彦四郎は早速六万貫の納入を迫るのだった。

「先日通達した通り、本日が有徳銭(富裕税)の納入期限である。義貞殿、今すぐ我らに六万貫を拠出せよ」

「黒沼殿、いくらなんでもそいつは無理な相談だぜ。五日のうちに六万貫を集められる者など、この国に居るはずあるまい。もし居たとしたら、それは北条高時公ではないか」

「義貞殿、幕府にたてつくと申すか」

「見ての通り、新田荘は長楽寺を再建したばかりで金などない。実際に、家々を回って確かめてみたらどうだ」

「ふん、幕府の命に逆らうなど、後でどうなっても知らんぞ」

黒沼彦四郎はそう言い放つと、兵を連れて世良田宿へと向かうのだった。

「具滋と義助はいるか?」

「はっ、ここに」

「具滋は、忍び数名に徴税吏を監視させ、何かあれば俺に報告せよ。義助は、何が起きても対応できるよう、郎党どもに出撃の準備をさせておけ」

「「承知いたしました」」

さてと、俺は安養寺館に戻って具滋の報告を待つとするかな。

そんなこんなで、一刻(二時間)ほど経過した。

俺の下には、世良田宿で乱暴狼藉を働いている徴税吏の情報が、続々ともたらされていた。

そのうち、町人たちも俺の屋敷に来て助けを求め始めた。

上州屋清兵衛も、俺の屋敷に来て徴税吏の無法を訴えた。

「義貞様、どうか我らをお助け下さい。このままでは全財産を幕府に奪われてしまいます」

そんな町人たちに対して『今暫く耐えるよう』伝えると、俺は再び時が満ちるのを待つのだった。

不意に、安養寺館の外が騒がしくなった。

(フフッ、ついに来たか)

俺が館の外に出ると、そこにいたのは世良田満義であった。

満義は徴税吏に館を打ち壊されたため、俺に助けを求めに来たのであった。


「満義殿、随分慌てているようだが、どうかしたのかい」

「義貞殿、助けて下され。徴税吏がわしの館にやって来るや否や、わしの言うことも聞かずに打ち壊しを始めたのじゃ。このままでは、わしは破産じゃ」

「幕府の徴税吏とよく話し合うんじゃなかったのかい?」

「奴らは、わしの言うことなど聞く耳も待たぬ。こうしている間も館は壊され、財産が運び出されているのだ。早く助けてくれ」

「じゃあ、世良田一族は倒幕に賛成するということでいいのかい?」

「賛成する。だから、幕府の連中を早く追い払ってくれ」

「うーん、それだけじゃ足りないな。どうだい、倒幕後に倍にして返してやるから、一万貫俺に預けてくれないか」

「畜生、こうなれば毒を食らわば皿までじゃ。一万貫貸してやるから、早くわしを助けてくれ」

「よし、交渉成立だな。義助、準備はできているな」

「兄者、いつでも出撃出来ますぞ」

「それじゃ、幕府相手に喧嘩と洒落込もうじゃないか」

こうして、俺と義助は郎党を二十人ほど連れて世良田宿へと向かうのだった。


世良田宿へ移動した俺たちが目にしたのは、屋敷を打ち壊し、金目のものを外へ運び出している徴税吏の姿であった。

「乱暴狼藉は止めよ」

俺が徴税吏どもの前に進むと、黒沼彦四郎が現れて俺にこう言った。

「義貞殿、今さら何をしに参ったか。そなたが六万貫を払わぬ故、こうして我々が自ら税を徴収して回っておるのだ。仕事の邪魔をするな。引っ込んでいろ」

「領民を守るのは領主の仕事であるのと同時に、御家人を守るのは幕府の仕事であろう。領民に対し乱暴狼藉を働く幕府に、どうして俺が従う道理があろうか」

「そうか、義貞殿は幕府に刃向かうというのだな。皆の者、この謀叛人を捕らえよ」

そして、彦四郎は俺に向かって刀を抜いた。

「よう、これ以上は戦になるぞ。それでも良いのかい」

出雲介親連は彦四郎にいったん引くよう促すが、彦四郎は『執権様の申し付けに従わぬ謀叛人など討ち果たせばよい』と言って、俺を捕らえるよう配下に命じた。

こうして、俺は倒幕への第一歩を踏み出したのだった。


刀を抜いた彦四郎とその配下数名が、俺に迫る。

俺は、由良具滋と忍者隊に合図をした。

すると、彦四郎たちに矢が降り注いだ。

彦四郎たちは、矢に射られてうずくまった。

俺は、徴税吏を捕縛するよう義助に指示を出した。

俺たちと徴税吏どもの小競り合いは、俺たちの勝利であっけなく終了した。

「彦四郎よ。よくもまあ、やりたい放題やってくれたな」

「くそっ。義貞、こんなことをしてただで済むと思うなよ」

彦四郎は、捕縛されてもまだ強気である。

「ここまで来れば、もうやるかやられるかしかないのは百も承知さ。では、彦四郎よ。幕府追討にあたり、まずお前を血祭りにあげるとしよう。覚悟」

「ちょっと待て。俺が高時公に執り成してやるから、刀を下ろせ」

「いいや、待たない」

そして、俺は鬼切を振り下ろして、黒沼彦四郎の首を落としたのだった。

ここでひとこと。

現代人の感覚を持つ主人公がいきなり彦四郎の首を取れるはずがない、という印象を持つ読者も多いと思うが、転生してから三十三年間新田義貞として生きていて、この時代の常識も心に叩き込まれているわけだから、主人公は普通に戦争もできるし、敵の首も取れるわけです。

話を元に戻そう。

その後、執事船田義昌の一族である出雲介親連の命は助け、配下の兵は追い払うなどして、徴税吏の後始末は終了となった。

そして、この騒ぎを聞きつけて世良田宿に集合した新田一族に対し、俺はこう告げた。

「どうだい、これで幕府の腐敗ぶりが良く分かっただろう。奴らは、俺たち御家人や民の生活のことなど一切考えておらぬ。やるのは、ただ奪うことだけだ。このような幕府など、存在する価値もない。徳を失った得宗に天命はなく、ただの平民と同様である。我らは民のために立ち上がるのだから、得宗を討とうが弑逆には当たらない。我らこそ正義の軍である。皆は、引き続き戦の準備に専念してもらうぞ。それでは、五月八日早朝に生品神社で会おう」

「「「おおーっ」」」

「では、満義殿も戦の準備をしてもらおうか。一万貫は、安養寺館に運び込んでくれ」

「・・・分かった」

こうして、俺は新田一族の結束を固めることに成功した。

挙兵の日である五月八日の、三日前のことであった。

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