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岩松経家、登場

登場人物

新田義貞(五領徳業):主人公。新田義貞に転生して、犬死人生を回避するため悪戦苦闘する。物語開始時33歳。商業を重視し、海外貿易を活発にすることで国を豊かにする政策をとる。

祟り神(新田義貞の怨霊):ネズミや天狗を使役することができる。

脇屋義助:新田義貞の弟、32歳

船田義昌:義貞の執事

新田四天王:栗生顕友、篠塚重広、畑時能、由良具滋

岩松経家:新田一族。先祖が足利家から新田家に婿入りしているので足利寄りの行動が目立つ。

保子、知子、宣子:義貞の妻たち

そうこうしているうちに義助が経家を連れて戻ってきたので、早速本題に入ることにした。

「経家殿、お忙しい所お呼び立てしてしまい申し訳ない。貴殿なら足利高氏殿の意向をご存じかと思い、我が館まで来てもらった次第だ。単刀直入に聞こう。高氏殿は幕府に反逆するおつもりですな。そして、高氏殿が六波羅を、我ら新田一族が鎌倉を同時に攻撃することで、一気に鎌倉幕府滅亡にもっていくと、こういうことで相違ありませんな」

「義貞殿、数日見ない間に成長なされたか。見違えましたぞ。義助殿もそうは思わんか」

「兄者は、昔からいきなり妙なことを言い出す癖がありまして、『火薬製造』とか『椎茸栽培』とか言って騒いでいる兄者を知る某にとって、大した驚きではありませんな」

(えっ、俺って前世の記憶を完全に取り戻す前から、色々やらかしていたのか。そして、義助はそれを不思議に思っていたと、そういうことなのか。もし、火薬が製造済みだったりしたら、倒幕や足利高氏との戦いがかなり上手くいくかも。うー、早く義助を問い詰めたいが、経家殿との話しが先か)

「そういえば義助殿、義貞殿は一時期神の加護を受けし者という噂が立っておりましたな」

「いや、狐憑きの間違いでしょう」

「「ハハハハハ」」

経家と義助は、尚も適当なことを言い合っているが、それはもうよい。今は高氏のことだ。

「話を戻すが、高氏殿は何を望んでいるのか?俺にいったい何をさせようというのか?」

「うむ、わしも単刀直入に言おう。高氏殿は越後・甲斐・信濃において兵を集めるゆえ、義貞殿はその兵を率いて鎌倉を攻めていただきたい。義貞殿も感じている通り、幕府は間もなく滅ぶであろう。それもこれも、得宗である北条高時公が政道を顧みず、田楽や闘犬にうつつを抜かしているからだ。北条家は泰時公・時頼公・時宗公などの優れた政治家を多く輩出し、民は『徳政』の恩恵に浴してきたが、高時公に至ってその徳を失った。臣下が道違う時は、威有りといえども保たずというではないか。幕府が倒れるのは必然であろう。そして、北条家滅亡後に天下を取るのは、清和源氏嫡流である足利高氏殿をおいて他に無し。義貞殿はこれを良く理解し、高氏殿の天下取りを助けるのだ。さすれば、幕府に冷遇され続けた新田家の地位も上がるであろうし、高氏殿の下で出世できるかもしれんぞ」

「俺は、鎌倉を攻めるだけで良いのか?落とさなくて良いのかね」

「高氏殿の軍勢は、六波羅を落とした後に東海道を東に進んで、鎌倉に攻め込む手はずになっている。そもそも、義貞殿は万を超える兵を指揮したことなど無いであろう。高時公を討ち、幕府を滅亡させるのは高氏殿に任せれば良い。貴殿の役目は、大軍を鎌倉まで連れていくことだ。簡単なことであろう」

(ふむ、高氏は義貞の軍事能力を当てにしていなかったわけだな。つまり、史実の義貞が鎌倉を攻め滅ぼし関東を平定してしまったのは、高氏にとって計算違いだったということか。この辺、高氏に人を見る目とか政治的センスがないことが良く分かるね。それなら、未来の知識を用いて力を蓄えつつ史実通りに事を進めて、いずれは高氏と雌雄を決するのが良いのではないか)

ということで、俺は経家の言う『高氏が集めた軍勢を鎌倉まで連れていくこと』を了承し、今後の方針を周知するため、新田一族を安養寺館に招集することを決めたのだった。


◇ ◇ ◇


新田一族の主だった者を招集するとしても時間がかかるので、それまでの間、俺が今までどんなことをやって来たのか、義助を問いただすことにした。

「なあ義助。お前は俺が今日倒れたのを見ているな。それでだ、目覚めた時、俺の頭の中に未来の知識やら何やらが色々流れ込んで来たんだ。そのせいか、過去の記憶があいまいになっていてな。火薬製造や椎茸栽培とはどういうことか、それ以外にも何か変なことをやらかしていないか、そこら辺をはっきりさせたいんだが・・・」

「火薬でしたら完成していますよ。花火にして家族で楽しんでおりますが、大層きれいなものですな。兄者は、子供の頃から民家の床下土を集めたり、屋敷内に穴を掘って、その中に土・干し草・蚕糞さんぷんを交互に入れるなどしておりました。その土に水を加えて煮たり濾したりして硝石を作り、それに炭と硫黄を混ぜれば火薬の完成ですな」

「えっ、そうなの。火薬があれば、戦を有利に進めることができるぞ。ところで、火縄銃や大砲はあるかな。火薬を爆発させて、鉛の弾を遠くに飛ばすやつなのだが」

「火縄銃?大砲?聞いたことがありませんな」

(さすがに、火器の開発までは手が回らなかったか。じゃあ、挙兵までに焙烙玉を作れるだけ作っておくとしよう)

「兄者、次の椎茸栽培に移りますぞ。椎茸については、3尺(約1m)程度に切断したクヌギ・コナラ・ミズナラに椎茸の傘から出る白い粉(胞子)を蒔いて金山カナヤマ(太田市金山町)の森林内に放置しておいたら、春と秋に収穫できるようになりました。今では、新田家の主な収入源の一つになっております。尤も、椎茸を売って得た金は、ほとんど長楽寺再建で消えてしまいましたがね。それと、金山では松茸も採れますが、椎茸ほど高値で売れないので、松茸は自分らで食べていたぐらいですかね。それがしは、椎茸より松茸の方が好みですぞ」

「椎茸は誰に売っている」

「販売は、世良田の商人上州屋清兵衛に任せております。清兵衛は、鹿田天神山の石材を手広く商っているので椎茸販売も任せましたが、何かまずいことでもありましたか?」

「いや構わんが、俺も後で清兵衛とやらに会うとしよう。うむ、火薬製造と椎茸栽培については良く分かった。他には、何かあるかい?」

「吾妻郡(群馬県吾妻郡)で人を集めて、忍びの部隊を作るよう兄者に言われました。そこで、吾妻荘の棟梁である吾妻太郎行盛を通じて吾妻郡の住人を五百名ばかり集めて忍びの術を叩き込み、その者らを由良具滋(新田四天王の一人)の配下に加えておきました。ちなみに、火薬製造や椎茸栽培は全て忍びにやらせております。忍びは意外と忠誠心が高いので、なかなか使い勝手が良いですぞ」

(吾妻郡(特に東部)といえば、優秀な真田忍者を輩出した地として有名だからな。それにしても、忍者隊五百があれば、情報収集・破壊工作・夜討ち朝駆けなど、戦術の幅が広がるぞ)

「それでは、倒幕について新田一族の了承を得たら、由良具滋と忍者隊を呼んでくれ。作って欲しい武器があるんだ。火薬・椎茸・忍者以外にも、俺は何かやっていたかね」

「うーん、大根は体に良いなどと言って、毎朝焼いた大根を二本食べておりましたぞ。なんでも、大根を信じれば、危機に陥った時助けに来てくれるとか。後は、思いつきませぬ」

(徒然草(第六十八段)かよ。もし、俺が危機に陥った時『大根の兵士』が助けに来たら、吉田兼好に礼でも言うとするか)

「義助よ、大体わかった。まとめると、新田家には火薬と椎茸と忍者隊五百があるということだな」

「左様にございます」

(こいつは、鎌倉攻めに当たって北条軍よりかなり優位に立てるぞ。天狗山伏を使った祟り神の兵集めが上手くいけば、高氏の支援や三浦大多和義勝の寝返り無しでも鎌倉を落とせるかもしれん。まあ、新田一族を集めた評定で皆を説き伏せてからの話だけどね)

俺はそんなことを思っていたのだが、あともう一つやらなきゃいけないことがあるんだよな。

そう、これから幕府に反旗を翻して鎌倉攻めをすることについて、妻たちの了承を得ておかないといけないんだよね。あー、でもいきなり倒幕とか言い出したら、頭おかしい扱いされないかな。

そんなことを考えていると、ふいに外が騒がしくなった。

何事と思い部屋の外に出ると、やってきたのは妻の保子、知子、宣子であった。

ちなみに、保子は甘楽郡地頭安藤重保の娘で御内人安藤聖秀の姪ね。そして、知子は常陸国小田城主小田政知の娘で、宣子は上野国一宮抜鉾神社神職天野時宣の娘だよ。

彼女らは、俺が倒れたと聞いて、様子を窺いに来たのだそうだ。

まあ、俺としてもちょうど良かったということで、体調は問題ないが、倒れた時に頭の中に未来の知識が流れ込んできて過去の記憶があいまいなことと、退魔の力が使えるようになったことを説明した。そして、幕府が五日以内に六万貫を納めるよう無理難題を言ってきたため、幕府に反旗を翻して鎌倉を攻めることに決めたと彼女らに伝えたのだった。

「俺が挙兵するのは、民に重税を強いる幕府を倒すためであって、私利私欲からくるものではない。決して君たちを悪いようにはしないから、倒幕に協力してもらえないか。頼む」

そう言う俺に対し、妻たちは

「「「義貞様が望むなら、地獄の蓋でも開けて見せましょう。最後までお供します」」」

と、賛成してくれたのであった。

よっしゃー!これで、懸念が一つ減ったぜ。

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