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祟り神

登場人物

新田義貞(五領徳業):主人公。新田義貞に転生して、犬死人生を回避するため悪戦苦闘する。物語開始時33歳。口調が荒いのは、国定忠治などの渡世人を意識した性格設定をしているから。

祟り神:新田義貞の怨霊。ネズミを使役することができるので、こいつがいれば城攻めで無敵となる。

脇屋義助:新田義貞の弟、32歳。

船田義昌:義貞の執事

新田四天王:栗生顕友、篠塚重広、畑時能、由良具滋

岩松経家:新田一族。先祖が足利家から新田家に婿入りしているので、足利寄りの行動が目立つ。子孫は猫絵の殿様として有名。


「・・・・・」

さて、義助も部屋から出ていき一人きりになったところで、俺は部屋の隅にいるネズミに視線を移した。

前世の最期にも縁があった、やたら邪悪な気配を発する義助には見えていないネズミ・・・。

「もしかして、貴殿は祟り神殿でしょうか」

『いかにも、我は新田義貞の怨霊、祟り神であるぞ。徳業よ、おぬしが死ぬ間際に散々抵抗するものだから、おぬしを完全に転生させるのに三十余年の年月がかかってしまったのじゃ。全く、散々苦労をさせおって。義貞といえばネズミじゃから、まさに窮鼠猫を噛むといったところかな、ハハハハハ。では、四苦八苦した挙句新田宗家を滅亡させて、我を笑わせるがよいぞ。さらばじゃ』

そう言って去ろうとする祟り神を、俺は呼び止めた。

「お待ち下され、祟り神殿。先日の失言について謝罪させていただきたい。貴殿の苦労も知らずに大言壮語を吐いたことは、俺にとって一生の不覚。誠に申し訳なかった。その上で、貴殿と取引したい」

『何を言いたいのじゃ』

「祟り神殿は、この世に対して尽きぬ恨みや不平不満をお持ちだからこそ、怨霊と化してこの世に災いを振り撒いているのでしょう。俺は、そんな貴殿の心残りを解消したい。貴殿の心残りは、『二心なく主上(後醍醐天皇)のために戦ったというのに、太平記のせいで後世まで犬死した情けない武将という烙印を押されてしまった』とか『主上や足利高氏らにいいように使われてしまった』ことですね。だから、俺が新田宗家を滅亡から救うことで、祟り神殿のお心も救って見せましょう。その代わり、祟り神殿には俺の仕事を手伝って貰います。なあに、俺のために怨霊の力を少々振るってもらうとか助言を貰うとか、その程度の簡単な仕事ですよ」

『ふん、口先だけなら何とでも言えるわ。言っておくが、この時代の足利家はおぬしが思うよりずっと強力で、新田家など足利家の庶流ぐらいにしか思われていないぞ。我の手助けぐらいで歴史を変えられるものか』

「まあ、その辺は努力しますとしか言えませぬが、実は俺自身も世の中に色々と不平不満を持っているのですよ。前世では、人生が上手くいかぬことの全てを時代や他人のせいにして、半ば投げやりで生きた結果、情けない死に方をしてしまった。世の中に不平不満があるなら、もっと積極的に行動すべきだったのです。だから、今世こそは悔いの残らぬ生き方をしたい。俺は、新田宗家を滅亡から救うだけでなく、日本でも屈指の名門へと育て上げて見せましょう。こうすることで、就職氷河期世代は決して無能な集団ではなかったと証明したい。これが俺の望みですが、俺一人で新田宗家を救うことなど出来るはずがない。やはり、多くの仲間が必要でしょう。ですので、まずは祟り神殿、貴殿に仲間となっていただきたい。俺の判断誤りによる新田宗家の滅亡を再度見たところで、祟り神殿の心は救済されませんぞ」

『おぬしは、日本の最高神にして祟り神である我を救うというのか。大言壮語も、ここまでくると面白く思えるのう。まあ、確かに新田宗家が滅亡するのを見ても気分は悪くなるだけじゃからな。そこまで言うなら、おぬしには新田宗家を滅亡から救う手立てがあるというのか』

「はい、何故か今の俺は最高に頭の回転が速いのです(理由は、就職氷河期世代の持つ全知識を自身の物としているから)。まず、後醍醐帝とは距離を取った方が良いと思います。後醍醐帝の目指す政治とは律令制の復活並びに天皇中心の中央集権国家設立であり、これは奈良~平安の昔に一度失敗したものなのです。軍事と生産の担い手である武士を無視した国家運営など有り得ません。建武の新政では目立たず、未来の知識でひたすら力を蓄えるのです。そして、建武の新政が失敗するのと同時に、持明院統の光厳上皇から院宣を貰いましょう。後醍醐帝の命令を無かったことにして、土地を元の所有者に戻すやつです。これで、後醍醐帝の政治に不満を持つ武士は、新田家が掌握することとなるでしょう。足利高氏との関係は・・・、共存できるならそれでよし。無理なら、未来の知識で高氏を蹴散らしましょう」

『随分と簡単に言いおって。そんなに上手くいくものかのう。まあ、我にも有益であることだし、上手く行っているうちはおぬしの言うことを聞いてやろう。それに、良い暇つぶしにもなりそうだしな』

ということで、祟り神が仲間になった。

早速、俺は怨霊の力で出来ることと鎌倉攻略について、祟り神に確認した。

『そうじゃのう、我は怨霊の力でネズミや天狗を使役できるからな。戦などで色々と役に立つと思うぞ』

ネズミ姿の祟り神は、宙を浮きながら俺に近づいてきた。

「あと確認したいことがいくつかあるのですが、どうやって鎌倉幕府を滅ぼしたのですか。岩松経家を通じて、足利高氏の命令があったのですか。千寿王(足利義詮)の影響力はどれほどありましたか」

『うむ、経家に目を付けたのは良いぞ。残念ながら、我の力だけで越後・甲斐・信濃の軍勢を動かすのは無理であった。高氏が六波羅を落とす故、我らは鎌倉を攻めるよう、経家を通じて高氏に命令されたのじゃ。しかも、後で分かったことだが、ワレが幕府追討の綸旨を得たのも凶徒退治のための費用六万貫の負担も、全て足利直義の謀であったのじゃ。つまり、我らは直義のせいで倒幕せざるをえない状況に追い詰められたのじゃ。全くもって忌々しい』

「左様でしたか。であれば、足利家の助けを借りずに新田一族をまとめ上げて鎌倉幕府を滅ぼすことができれば、高氏・直義兄弟に一泡吹かせることができるというわけですね」

『それが出来れば苦労せぬ。越後はともかく(越後は新田一族の勢力が強い)、足利家の呼びかけ無くして甲斐・信濃から兵を集めることはできんぞ。それとも、おぬしには何か秘策があるのか?』

「まあ、新田一族くらいなら未来の知識で纏めて見せますよ。それより、祟り神殿には越後だけでなく甲斐・信濃でも天狗を多数動員して、義貞挙兵を触れ回っていただきたい。確か、太平記にも『天狗山伏』が義貞挙兵を越後国中に触れ回ったと書かれているので、甲斐・信濃でも同様の対応をお願いしたい」

『フフフ、この世を乱すためであれば天狗共も我らに協力してくれよう。越後・甲斐・信濃の兵集めは、我に任せるがよい』

(あとは・・・、前世の退魔師の力ってまだ使えるのだろうか)

そんなことを考えながら部屋を見回すと、ひときわ立派な太刀が目に入った。

「これは・・・、遠祖義重(八幡太郎義家の孫)が帝から拝領したと伝わる『鬼切』か」

左手でズシリと重い鬼切を持ち、右手で刀を抜いた。

たちまち、退魔の力があふれ出てきた。

(さすが、酒吞童子を退治した太刀だけのことはある。前世とは比べ物にならぬ力を感じるぞ。試しに、退魔の力を使ってみるか)

「祓いたまえ、清めたまえ、顕現せよ退魔の力!」

すると、祟り神が俺の頭を叩いた。

『いい加減にせい、我を浄化するつもりか』

「いやー、すいません。まさかここまで力が上がっているとは思いませんでした」

祟り神はやたらと怒っていたけど、俺は確かな手ごたえを感じていた。

太平記には、怨霊や欲深い連中、身分の上下に遠慮せず好き勝手に振る舞うバサラ大名が沢山出てくるからな。

欲に振り回される連中を浄化しまくって、南北朝という戦国時代を秩序ある平和な世の中にして見せよう。もちろん、時代を主導するのは我が新田宗家ね。

(前世では、世の中に絶望して自暴自棄となり、挙句の果ては失言のせいで犬死してしまったが、今世では自分の思い通りにならぬことを他人のせいになどせず徹底的に抗って、この国を少しでも俺自身の望む形に変えてやるぜ。フフン、なんか面白くなってきたかも)

なんてことを思ったりした。

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