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世尊寺家の姫君

登場人物

新田義貞(五領徳業):主人公。新田義貞に転生して、犬死人生を回避するため悪戦苦闘する。物語開始時33歳

祟り神(新田義貞の怨霊):ネズミや天狗を使役することができる

新田義顕:新田義貞の子、16歳

脇屋義助:新田義貞の弟、32歳

高師直:無類の女好き

世尊寺尹子:世尊寺経尹の娘で勾当内侍と呼ばれている

元弘三年八月二日


高氏たちとの宴会があった翌日のこと、俺は義助・義顕を連れて京の街に繰り出していた。

一応、京にも鍛冶工房とかガラス工房などを作りたかったからね。

そんなわけで、三人で京を散策していたのだが、路地裏の方からなにか言い争うような声が聞こえてきた。

「なんだ、喧嘩か?」

俺は路地裏に向かって走り出した。

「兄者、変なことに首を突っ込むのは、やめておいた方が良いですぞ」

義助は俺の行動を制止するが、争いごとを目の前で起こされて見て見ぬふりは、俺には出来ん。

路地裏では、十数名の武士が牛車を取り囲んでいた。

「よう、喧嘩かい?帝が船上山からお戻りになって約二ヶ月が経過し、ようやくこの国も落ち着いてきたというのに、帝の足下で争いごとを起こしたら意味ないだろうが」

俺が武士たちに呼びかけると、その集団の主らしき者が前に進み出てきた。そいつは、昨日の宴会で紹介された足利家の執事、高師直であった。

「誰かと思えば義貞殿ではないか。この争いは、貴殿とは何の関わりも無いことだ。部外者はさっさと立ち去るが良い」

師直の部下たちも『そうだそうだ!』と言って俺を囃し立てる。

俺は師直たちを無視し、牛車の供侍に声を掛けた。

供侍が言うには、『牛車に行く手を遮られた』と師直たちが一方的に因縁をつけてきたとのこと。そして、『主人を牛車から降ろして直々に謝罪させぬ限りゆるさん』と言われて困っていることを、涙ながらに訴えるのだった。

「供侍はこう言っているが、師直殿はどうお考えか」

師直は俺の問いかけに答えず、部下にひとこと『やれ』と命じた。

「「義貞さんよう、男女の機微に首を突っ込むから、こういうことになるんだ」」

「するってぇと、牛車の主人は女性なのかい?」

「「お前に説明する必要は無い」」

俺は、師直の部下たちに取り囲まれた。


(やれやれ、新田一族だけかと思っていたら、足利方も好戦的ではないか。こいつはもしかして・・・)

『そうじゃ。師直たちは、怨霊の力で色欲を増幅させられておるぞ』

(うわっ、祟り神殿いらしたのですか。では、退魔の力で師直どもの色欲を断ち切って見せましょう)

「出でよ、鬼切」

俺の前に現れた鬼切を手に取り、鞘から引き抜いた。

「「おっ、こいつ本気か?」」

師直たちが騒ぐが無視して、俺はいつも通りに退魔の力を放った。

「祓いたまえ、清めたまえ、顕現せよ退魔の力!」

師直たちが光に包まれ、その光が消えると同時に奴らは正気に戻った。

「あれっ、俺たちは一体何をしているんだ」

「師直様、いくら世尊寺家の姫君に興味があるからといって、一方的に因縁をつけるのは良くありませんぞ」

(ふーん、牛車の中にいるのは世尊寺家の姫君ね)

一方、師直は『覚えていろよ。それと、分捕切棄法を思いついたからって調子に乗ってんじゃねーぞ。ばーか、ばーか』と捨て台詞を吐いて真っ先に逃げ出したのであった。

師直の部下十数名も、主を追いかけてこの場から去っていった。


※分捕切棄法は、高師直が採用した新戦術と言われているよ。


「今のうちに行け」

俺が世尊寺家の供侍に早く出発するよう促すと、彼らは礼を述べつつ、この場から立ち去るのであった。

ふいに、牛車の物見が開いた。

牛車の主人は、自身を助けた者を確認したかったのであろう。彼女と俺の目が合った。

彼女は俺に会釈をすると、物見を閉じた。

俺はというと、しばらく硬直したままで、側に来た義助や義顕にも気付かぬ有様だった。

(今までに見たことの無いレベルの美人だ。まさに傾国の美女とでも言うべきか)

俺と勾当内侍世尊寺尹子が初めて出会ったのは、まさにこの時であった。


◇高師直視点◇

くそっ、義貞め。よくも拙者の邪魔をしやがったな。

おかげで、世尊寺家の姫君を手に入れることができなかったではないか。

思い出すだけでもはらわたが煮えくり返る。

「えーい、お前ら。早く新しい女を連れてこい」

「ハハー」

駄目だ。いくら新しい女を手に入れても、少しも満ち足りた気分にならない。

やはり、この世で最高の女を手に入れぬ限り、この渇きを癒すことができぬのであろうな。

以前、御簾の隙間から垣間見たあの姿が忘れられぬ。

この世で最高の美貌と強欲を併せ持つ女、三位内侍阿野廉子。

いつか、我が物にしてくれよう。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇


※高師直は、朝廷工作のため阿野廉子を訪ねた際に、廉子を垣間見てしまったようです。


元弘三年八月三日


あー、やる気が出ないぞー。

壬生寺に戻った俺は、部屋の中でひたすらゴロゴロしていた。

昨日見た世尊寺家の姫君の顔が、目に焼き付いて忘れられない。

何でだろう。

俺は、前世も今世も女性に執着するような性格ではなかったはずなのだが。

入京時に壬生寺(宿所)まで案内してくれたのも世尊寺家の侍だったしな。

ということで、お礼がてら世尊寺家を訪問したいとの文を出してみたのだが、今は御代始めの除目の準備で忙しいとのことで、訪問日は除目の翌々日の八月七日となった。

ふう、その日が待ち遠しいぜ。


◇脇屋義助視点◇

兄者がおかしい。

元々、『未来の知識』とか言って、よく分からぬものを作っては人々を驚かせている変な人であったが、そういう『おかしい』ではなく、兄者の様子が今までと全く違うという意味でおかしいのだ。

以前にも増してボーっとしていることが多くなり、口を開けば世尊寺家の姫君のことばかり。女に対しては奥手だと思っていたが、一度見ただけの女にこうも熱を上げるとは、正直驚きでしかない。

今、新田家は南蛮船建造や新田荘の開発など、金のかかる複数の事業を同時並行で進めている。

いくら金があっても足りぬというのに、女にかまけて兄者の新商品開発が止まってしまえば、新田家など一巻の終わりじゃ。

兄者には一刻も早く元に戻ってもらわねば困るのだが、いったいどうすれば良いのやら。

新田荘にいる保子様・知子様・宣子様のお三方に、京まで来ていただくべきであろうか。

それとも、他に何か良い手立てがあるのだろうか。

不出来な某には、何も思いつかぬ。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇


◇祟り神(義貞の怨霊)視点◇

ほう、徳業が女にうつつを抜かして、仕事も手に付かない状態か。

どれ、ワレが奴の頭をたたいて正気に戻すとしようか。

うん、おかしいぞ。人の世に顕現できぬではないか。

我の力を凌駕する怨霊もしくはその力の使い手が、我の行動を邪魔立てしているとでもいうのか。

だとすれば、奴の命が危ない。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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