足利高氏
登場人物
新田義貞(五領徳業):主人公。新田義貞に転生して、犬死人生を回避するため悪戦苦闘する。物語開始時33歳
祟り神(新田義貞の怨霊):ネズミや天狗を使役することができる
新田義顕:新田義貞の子、16歳
脇屋義助:新田義貞の弟、32歳
足利高氏:いい人。勇敢で戦に強く、人にやさしい。頭は良くない。力ある者が弱い者を従える弱肉強食の社会創造を目指す
足利直義:高氏の弟で策略家、政治向きの人。得宗専制時代の政治を理想としているので、バサラ大名と馬が合わない
高師直:無類の女好き
「ふーん、ここが東寺か。壬生寺より数倍でかいな」
俺は、義助と義顕を連れて、高氏のいる東寺にやってきた。
もちろん、土産も色々と持ってきているぞ。
取り次ぎの侍に来訪目的を伝えると、俺たちは高氏のいる大広間へ通された。
高氏はというと、挨拶に来た武士たちと宴会をしているようであった。
「新田義貞殿、ご到着」
取り次ぎの侍が俺の来訪を告げると、皆の話し声は消えた。
(おうおう、なんかやたらと見られてんな)
まあ、今の俺は戦上手で世に知られ始めた謎の武将だからな。
皆が、興味本位で俺を見るのも致し方あるまい。
まあ、そんな事はどうでもいいや。
俺は高氏の前に進み出ると、「高氏殿、挨拶が遅くなって申し訳ない。上野国新田荘の住人、新田小太郎義貞だ。これからは、ともに主上(後醍醐天皇)を盛り立てていこうではないか」と語りかけた。
一方、高氏は「義貞殿、よう参った。関東では、千寿王(高氏嫡男)が面倒をかけた様で、すまんな」と答えた。
その後は、互いの息子を褒め合うなどしていたのだが、高氏の後ろに気難しそうな武将がやってきて、自身を紹介するよう高氏に促した。
「義貞殿、この者は我が弟直義だ」
「足利直義にございます。義貞殿は、まれに見る発明家と伺っております。新しき物の作り方や使い方をお教えいただけたら、幸いと存じまする。特に、大音響とともに爆発する謎の武器について知りたいですな」
そんなことを言う直義に対し、俺は『軍事以外なら積極的に情報公開するつもりだ』と回答した。
一方、高氏は『難しいことは後回しだ。今から、義貞殿の歓迎の宴を始めようじゃないか。今日は飲み明かすぞ』と言って俺と直義の会話を打ち切り、宴会を再開させたのだった。
あれっ、俺は高氏に助けられたのか?
俺が土産に持ってきた梅酒は、早速周囲の者に振る舞われていた。
高氏は、俺に佐々木道誉、土岐頼遠、高師直らを紹介し、俺がこの場に溶け込めるよう配慮もしてくれた。
うーん、もしかして高氏は他人を思いやることのできるいい人なのか?
(祟り神殿、いらっしゃいますか)
『なんじゃ』
(祟り神殿が知る高氏とは、どのような人物ですか?)
『ふむ、我の知る高氏とは、いい人で、優しい人で、気前の良い人だ。家族を愛し、戦争では勇敢で、敵対した多くの者を許し、進物があれば全て人に分け与えておった』
(うーん、冷血漢の源頼朝や狸親父の徳川家康とは大違いだな。だけど、天下人として考えると高氏は頼朝・家康より遙かに劣るというのは不思議なものですね)
『そうじゃな。天下人とは、余程の悪人でないと務まらぬのであろうな。他に用が無いなら、我は帰るぞ。ではさらば』
祟り神はそう言うと、この場から立ち去った。
(それにしても・・・、高氏って良い奴なのかー。後で敵対した時、高氏を討ち取りにくいだろうが)
俺は、そんなことを思ったりした。
◇足利高氏と直義◇
「兄上、なぜあの場で謎の武器の追求をさせてくれなかったのですか」
「わざわざ、義貞の方から挨拶に来てくれたのだから、こちらも引くべき所は引いて義貞の義に応えるべきであろう。それに、お前が義貞の立場だったら、いくら味方であったとしても軍事機密を簡単に話すのか?」
「それはそうかもしれませんが、現在の立場は我らが上にございます。今の内に明らかにしておかないと、後日どのような不覚を取るやもしれませぬ。義貞軍が我らの存ぜぬ兵器を有するという現状は、はっきり言って危険です」
「直義よ、それ以上言うな。余と義貞は味方であって、義貞軍が誰も知らぬ兵器を所持するなら、これほど心強いことは無いであろう」
「しかし、我らの悲願である幕府開設・・・」
「直義、黙れ。めったなことを口にするな」
「失礼致しました」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇