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いざ実践、と思っていたのに

 そういうわけで、いざ実践である。演習で防壁の外に向かう部隊のみなさんと一緒に防壁まで移動したあと、私はアロイスさんと一緒に防壁に残っていた。演習の邪魔にならないように攻撃魔術は避けつつ、今まで使えなかった大規模な魔術を試す予定だ。アロイスさんは防壁の上から演習の様子を確認しながら、私の魔術の練習も見てくれている。


「クラウスさんから、演習中には攻撃魔術はなるべく使わないでほしいと言われているので、最初はこのあたりを試してみようと思っていて」


 そう言って用意してきた魔法陣を見せる。


「探索魔術? そうだね、リンちゃんの魔力量なら、今日の演習で行く予定の森の範囲一帯を探索の範囲にして発動できそうだし、いいかも」


「えーっと、今日の演習って森のどのあたりまで行くんですか?」


 探索魔術の実践は了承が得られたため、発動範囲を決めるために確認する。


「正面に少し飛び出て見える大きな樹があるでしょ。だいたいそのあたりまでかな。いくつかに分かれて行動するから、ここからあの樹までの距離を目安に同心円状の範囲に発動させれば、探索魔術の範囲にほとんど収まるんじゃないかな」


「うーん、そうなると……」


 手元のメモで計算して発動範囲と必要な魔力量を求めるが、結構な魔力量が必要になりそうだ。


「これって、同心円状じゃないとダメなんですかね?」


 探索魔術を教わったときは、自分のいる場所を中心として円を描くように探索範囲を指定していたのだが、今いる場所――防壁から森の方向にのみ範囲指定できれば、同じくらいの魔力量でも森の多くを発動範囲に入れることができそうに思えた。


「んーと……?」


 言葉足らずでうまく伝わらなかったらしく、アロイスさんが首をかしげて困った顔をする。


「こんな感じで、防壁から森の方向に範囲指定できないのかなって思ったんですけど……」


 魔法陣を書く紙とは別のメモ用の紙に防壁と森の図を簡単に描き、探索魔術の範囲を防壁から森に向かって四角形を描くように書き込んで見せる。


「あー、なるほどー……魔法陣の範囲指定の書き方を少し変える必要はあるけど、できそうだね――じゃあ、今日の課題その一は探索魔術の範囲指定の書き換えね」


 思い付きを話しただけで、課題が降ってきた。


「えっ……あの、ヒントとかは……」


「んー。今まで教えた知識でできるよ? どの範囲に発動したいのかはわかってるんだし、それを魔法陣の範囲指定に当てはめて方向の指定のやり方をちょっと変えるだけだしね。まあ、実際に魔法陣に書き込む前に確認してあげるから、がんばって?」


「うー……わかりました……やってみます……」


 アロイスさんは意外とスパルタなのだ。基礎となる知識は丁寧に教えてくれるのだが、教わった範囲でできるような応用であれば、基本的に最初は自分で考えさせられる。ヒントも望めそうにないため、いったん、探索魔術の範囲指定の書き換えは置いておいて、先に確認できそうなことを相談することにする。


「演習が終わったあとに範囲回復魔術を使う許可はクラウスさんからもらっているんですけど、発動する範囲はアロイスさんと相談するように言われていて、どうすればいいですかね。この魔法陣なんですけど」


 発動範囲を除いて書き上げた範囲回復魔術の魔法陣を渡す。範囲と必要な魔力量を計算したメモも用意してきた。


「うん。魔法陣自体は問題ないね。発動範囲は、今日の演習での怪我人の数にもよるだろうから、それを見てから決めようか。――あ、今日の課題その二」


「え゛……」


 魔法陣は問題なかったのに、突然にっこり笑って課題を増やされる。


「回復魔術の種類を、これよりも軽い、簡単な体力と魔力の回復だけにしたものと、重傷者にも対応できるようにしたより強いものの二種類を追加で作成しよっか。もちろん、別々の範囲回復魔法陣でね」


「そんなぁ……」


 今日の課題その二と言っているが、実質その二とその三ではないか。


「あれ、物足りない? じゃあ、そうだね、重傷者用の回復魔術は範囲回復魔術と通常の回復魔術と二種類作ろうか。全部で三種類追加だね」


「ぜんっぜん、物足りなくなんかないです。なので、せめて二種類追加に戻しましょう!?」


 にこにこしてさらに課題を追加したアロイスさんに交渉を持ちかける。


「んー、それなら、解毒の範囲魔術も追加する?」


「いえ、いらないです、十分です」


 何が「それなら」なのだろうか。全力でご遠慮申し上げたのだが、にっこり笑ったアロイスさんにとどめを刺される。


「じゃあ、解毒の範囲魔術も追加して四種類ね」


「……はーい。……………………アロイスさんの鬼……」


 これ以上増える前にあきらめて返事をする。小声で恨み言はつぶやいてしまったが。


「え、何? 状態異常解除の魔術も追加してほしい?」


「言ってないです! 何も! 四種類で! 四種類でお願いします!」


「うん、じゃあ、状態異常解除の範囲魔法陣も追加して、全部で五種類か。がんばろうね?」


「うぅ……はいぃ……」


 小声で言ったのも聞こえていたらしい。五種類に増えてしまった。探索魔術の範囲指定の書き換えも含めると全部で六種類の課題だ。魔術の実践をしに来たはずなのに、防壁まで来て魔法陣の書き換えの課題をすることになってしまった。


(回復魔術の強さ違いとか範囲回復と通常の回復魔術は別々で作るとして、解毒と状態異常解除はまとめられないかな……範囲回復魔法陣のどれかともまとめられれば、三種類――探索魔術の書き換えも含めて四種類の課題に減らせるはず……難しいかな……)


 忘れないようにと課題をメモに箇条書きにして、まとめられないか考えてみるものに印をつけておいた。


----メモ----

・探索魔術→範囲指定の書き換え(同心円状から四角形に)

・簡単な体力と魔力の回復だけ(範囲回復魔法陣)

・重傷者用(範囲回復魔法陣) ○

・重傷者用(通常の回復魔術の魔法陣)

・解毒(範囲魔法陣) ○

・状態異常解除(範囲魔法陣) ○

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