鑑定と魔力
異世界転移してから数日後、鑑定持ちの人が到着した。ここ数日は文字の読み書きの勉強に集中していた。鑑定で異世界転移が証明できたら、国に提出する保護の申請書類も書く予定という話だったため、できれば自分で書類を読めるようになりたくて、頑張った。とはいえ、数日でできることには限界があり、今はまだ文章を読むためには辞書を引きながら、意味が正しいか人に確認しながらという状態だ。
鑑定持ちの人とは、応接室のようなところで会うことになった。クラウスさんとアロイスさんも立ち会ってくれている。鑑定持ちの人は、暗めの茶髪で緑色の目に眼鏡をかけている穏やかそうな雰囲気のヘルマンさんという人だった。
「では、鑑定を行いますね。気持ちを楽にしてください」
テーブルをはさんで向かい合って座った状態で言われる。転移直後に魔力を使った確認をアロイスさんからされたときは手をつなぐ必要があったが、鑑定のときはそういうのは必要ないようだ。しばらく何かを確認しているような視線の動きがあり、うなずかれる。
「確かに、種族名が異世界人となっていますね。異世界から来たというので間違いはないでしょう」
そう言ってヘルマンさんはテーブルの上の書類を記入していく。異世界転移の証明書と国の保護を受けるための申請書のようなものを作成するという話だった。ヘルマンさんが記入した書類をクラウスさんが確認し、私も署名をする必要があった。書類の記載内容すべてを自力では読み解けないため、クラウスさんから説明を受けつつ書類を読んで、署名する。
「さて、これで手続き的なことはおしまいですね。他に何か確認しておきたいことはありますか?」
鑑定での証明は信頼度が高いらしく、異世界転移者に対する国からの補助や生活の保障などは、鑑定で証明されたことで手続き的にも簡単に済むという話で、特に私自身がどこかに手続きに行ったりする必要もないようだった。他に何か確認したいことを聞かれて、アロイスさんから話が出る。
「あ、それじゃあ、魔力量と魔術の適性を見てもらえますか? 俺が見てみた感じ、魔力量はかなり多い方だと思うんですけど」
「魔力量と魔術の適性ですね。――ああ、確かに、魔力量はかなり多い方ですね。アロイスさんほどではないですが、この国のほとんどの人よりは多そうです。魔術の適性は――大抵のものは使えそうですね。細かいところはこちらに書いておきますね」
「ありがとうございます」
最後の部分は私に向けて言われたため、お礼を伝える。魔術の適性があるということは魔法が使えたりするのだろうか。この世界での魔力や魔術の位置づけについてはあまり詳しく聞けていないため、使えるようになるかわからないが、わくわくする。ヘルマンさんが書いている紙をのぞき込んで見ていたアロイスさんから話しかけられる。
「魔力量も十分だし魔術の適性も幅広いから、素質だけ見れば、たぶん魔術師としてもやっていけると思うよ。仕事先の候補にできるね。これだけ幅広い適正があるなら、魔術の研究を仕事にしてみるのもいいと思うけど。元の世界の道具も活用して新しい魔道具の研究とかもよさそうだし、何かやってみたいこととかある?」
「魔術は使ってみたいです。端末の充電をできるようにしたいので、魔術の研究でそれができるようになるなら、やりたいですね」
一緒に異世界転移してきた携帯端末と充電器はあるが、今のところ充電する方法がないため、充電が切れてしまったら端末が使えなくなってしまう。以前、アロイスさんが魔術を使って充電できる方法がないか調べてくれるという話だったが、自分でできることがあるなら、やってみたい。
「そっか。魔術のことなら俺が教えられるし、一緒にやってみようか。まあ、まずは文字の読み書きからだね。だいぶできるようになったけど、研究するためには魔術書を読めるくらいにはなっておきたいから」
「はい。よろしくお願いします」
アロイスさんとの話が一段落つくと、鑑定や私の署名などが必要な作業は終わったということで、部屋を退室することになった。クラウスさんたちとヘルマンさんはまだ何か話があるらしく、私はお礼を伝えてから部屋を退出し、自分の部屋に戻ることにした。
* * *
鑑定で異世界転移の証明もしてもらい、国の保護の申請書も出せたため、この世界で生活していくための最初の手続きは片付いた。魔術の適性もあることがわかり、仕事にできる可能性も出てきたが、そうするにもまずは文字の読み書きを身に着けて、魔術についても基礎から教わる必要があるため、しばらくは勉強の日々が続くことになる。
クラウスさんとアロイスさんとも話をして、働くために必要な最低限のこの国の知識や技術が身につくまではいてもよいと言ってもらえたため――「なんなら、うちの部隊に魔術師として就職しちゃう?」とアロイスさんには言われたが――、文字と魔術について学びながら、この場所で引き続きお世話になっている。
ちなみに、この場所は国の中心からは少し離れたところにある軍の駐屯地のようなところらしい。クラウスさんが隊長だと聞いたときに、隊長職に就くには若いのではと思っていたら、実際そうらしく、なんでも、魔術も使える兵士と剣術も使える魔術師の混合部隊を試験的に運用している部隊のため、隊全体として比較的若い層で構成されているという話だった。この場所に来ているのも、ここが魔獣の出現の比較的多い地域のため、実際に混合部隊で活動することで実運用に耐えられるかの確認をするのが目的ということらしい。
そんな環境で、文字と魔術の勉強をしつつ、たまに部隊の訓練を見学してみたり、同じ建物に住む人たちと交流してみたりとしながら、私は異世界での日々を過ごしている。