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きっとよくある異世界転移

 ぼすっと、どこかから落ちたような感覚がした。


「ん……」


 眠気は残るが、落ちた感覚で少し目は覚めた。


(落ちる夢でも見たのかな……。夢、覚えてないけど)


 敷布団がふわふわのさらさらで肌触りが良いと思ったけど、掛布団が上にないから、きっと下に敷いてしまっているのが掛布団だな。夢現のまま、そう判断して、ごそごそと掛布団と敷布団の境目を探っていると、布団とは違う暖かいものに手が触れた。


「ん……?」


 枕元に何か置いていたっけ……? そう思いながら目を開けると、目の前にとんでもない美形の寝顔があった。


「!?」


 思わず体を後ろに引いて、落ちそうになって慌ててバランスをとって、と、バタバタする。少し物音もたっていただろうが、美形はすやすやと寝たままだ。掛け布団から手が出ているから、おそらく、さっき触れた暖かいものはこの手だったのだろう。さらさらした金髪で鼻筋の通った美形さんだ。目を開いたらまた雰囲気が変わるのだろうか。


 目の前の美形に気を取られていたが、周囲を見渡すと見たことのない部屋だった。部屋の雰囲気としては、少し古めかしい西洋風の部屋のイメージが形になったような感じだ。その部屋の中にあるベッドの上に私はいて、隣には金髪の男性が寝ている。最後の記憶を思い起こしてみても、自分の部屋で寝ていたはずで、こんな部屋にいる心当たりがない。もちろん金髪の男性にも見覚えはない。


「えぇ……何、ここ、どこ……?」


 応える人はいないとわかりきっていても、思わず言葉が口に出てしまう。どうりで布団がふわふわのさらさらだったはずだ。うちの布団があんなに肌触りが良いはずがないと、現実逃避にどうでもいいことを考える。


 とりあえず、知らない部屋で知らない人と一緒にベッドの上というのも居心地が悪いし、そうっとベッドから降りる。


 見覚えのない部屋にいるということや、部屋の雰囲気や状況などを考える限り、異世界転移とかいうあれかなーと思いながら部屋を見渡し、おそらく外につながるであろう扉に目を向ける。ベッドに寝ている金髪の美形さんが起きたときに知らない人が部屋にいるのも泥棒とか疑われそうだし、起きる前に誰にも見つからずに外に出られるならその方がよいだろうかと思いながら、ベッドに背を向け、扉の方に向かおうとしていたときだった。


「動くな」


 後ろから声がして、首元にひやりとしたものが触れているのを感じる。


(これは、美形さんが目を覚まして、刃物を突き付けてきているとかそういう感じかなー。わー、よくある展開)


 異世界転移もののお約束的なやつですよねー、とは思いつつ、実際自分の身に起きてみるとどうすればよいのかわからずに体がこわばる。


(「動くな」と言われたから、何も持っていないことをアピールするために手を上げるのもダメなのだろうか)


 ベッドに背を向けた状態だったため、声をかけてきた背後の様子をうかがうこともできず、動きは見せないようにしつつ、何か言い訳をするべきかと言葉がぐるぐると頭の中を回る。


「どうやって部屋に入った」


「ええっと、私もよくわからないうちに、ここにいてですね……」


 そのままの状態で詰問が始まる。何とか疑いを晴らせる説明はできないかと考えるが、寝て起きたら知らないところにいたという以外に説明のしようがなく、答えあぐねる。


「自分の部屋で寝ていたはずなんですが、起きたらここにいたという感じで。いや、信じてもらえないのもわかるんですが……」


 正直、こちらが説明してほしいくらいだ。若干涙目になりつつ、どうにかあやしいものではないことをわかってもらって、異世界転移らしきこの状況を説明しなければと、言葉を継ごうとしたとき、扉がノックされて即座に開かれた。


「おっはよー。なんか魔術師の方から変な反応があったって報告が来てるんだけどさー――――って、あれ、取り込み中?」


 なかなか陽気なお兄さんが部屋に入ってきた。赤色で少し長めの髪を後ろでくくり、少し暗めの緑色の目をしている。目があったのでとりあえず会釈しておく。


「はぁ……返事の前にドアを開けたらノックの意味がないだろうが」


 背後の美形さんはため息をついてあきれた声を返す。なんだか苦労性の雰囲気を感じる。


「まあいいじゃん。どうせ起きてたでしょ。で、どしたの、この子。あんまり見ない感じの子だね」


「……部屋にいた」


「へぇ。夜這? もう朝だけど」


「ち、違います!」


 美形さんの端的な返答を聞いて、陽気なお兄さんがこちらを見ながら、予想もしなかった疑いをかけてきたため、思わずぶんぶんと首と手を振りながら否定する。


「目的はともかく、不法侵入は事実だからな。あとで話を聞くから空いている部屋に入れておく」


「んじゃ、ちょっとまって」


 扉の近くにいたお兄さんが部屋の外に出て行き、私は美形さんに背中を押されて扉のところまで連れていかれる。いつの間にか首元に当てられていたものは下ろされていたようだ。


 しばらくすると、お兄さんが他の人を連れてきた。ちなみに、その間、私と美形さんの間に何の会話もなかった。


「この子ね。じゃ、よろしく」


 話は通っているようで、それ以上の会話もなく、お兄さんが連れてきた二人に両脇をはさまれて、私は別の部屋へと連れていかれることになったようだ。連れていかれる前にちらりと美形さんと赤髮のお兄さんの方を見ると、美形さんはこちらを見ることなく部屋に戻るところで、お兄さんの方は目が合うと笑顔で手を振ってきた。とりあえず会釈をしておいた。


 * * *


 連れていかれた部屋は思っていたよりも普通の部屋だった。さっきまでいた部屋と同じような、少し古めかしい西洋風の部屋のような感じで、ソファーやテーブルなどの家具も配置されている。牢屋的なところに入れられるかと思っていたから、少し安心した。


(「空いている部屋に」ってあの美形さんも言っていたからかな。今のところはそんなに扱いも悪くなさそうでよかった……)


 この部屋まで連れてきてくれた二人は、私にしばらくこの部屋の中で待つようにと伝えたあとは、同じ部屋の中ではあるが扉の前で立ったまま待機している。監視のようなものだろう。特に行動の制限も言われなかったが、さすがに部屋をうろつくのもためらわれたため、部屋の中にあるソファーに座って待つことにする。


(今、何時くらいなんだろう)


 窓の外が明るくなっているのは見える。さっきの部屋で赤髮のお兄さんがもう朝だと言っていたから、朝なのだろうとは思うが、時間の見当がつかない。


「ふぁ……」


 そんなに扱いが悪くなさそうというのもあって、気が抜けたのか、眠気とともにあくびが出てしまう。


(昨日、何時に寝たっけな……。変な起き方したせいか、寝足りないのかな……)


 とはいえ、眠ってしまうわけにもいかないため、目をこすったり首を振ってみたりして、何とか眠気を飛ばそうとする。


(監視の役割もあるだろうから、お兄さんたちに話しかけるのはよくないだろうし、部屋の中を歩き回るのも迷惑かもしれないし……でも、じっとしてると眠くなる……)


 うつらうつらしては、はっと目を覚ますということを繰り返して何とか起きていようとしたが、結局いつの間にか眠ってしまっていたようだった。


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