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オッサンは決意する


「アルフォンス。さっきのパパとの遊びの中で剣を生み出す新しい魔法を使っていたな?」



サンドイッチを取り分けながらも、鋭い眼光でママンが質問してくる。見た目は完全に良い所のお嬢さんみたいな格好なのに口調と目付きと横に置いた剣が全てを台無しにしている。



って言うかママンからはさっきのは遊びに見えていたらしい…。この人達の手加減した一撃は岩も砕くので、まぁそうなのだろう…。



「あー、うん。でも新しいって言っても基本的には火球(ファイヤーボール)とかの球系攻撃魔法の形を剣にしただけなんだけど…。そ、その…、か、格好いいかなって…。」


そうなのだ。

ハッキリ言えばあの魔法、剣である必要はまるでない魔法だ。

むしろ動きをコントロールするのであれば球形の方が楽ですらある。



「ふははははははは!なるほどなるほど!格好いいからか!

確かに無数の剣が宙を舞い、戦列を成す姿は格好が良い!」


何か変なスイッチを押したのか、いきなり大声で笑い出すママン。こ、怖ぇよ…。



「いやいや、決して悪い意味でママは笑ったのではないぞ?アルフォンス。魔法はイメージが大事だ。己が格好いいと思った現象を魔法にするのは大事だ。竜や鳥や馬何かを形どった魔法も多いしな。」


大きな口で唐揚げを頬張りながら、パパンがフォローを入れてくれる。


あー、そう言えば主人公チームの最終技とかでも炎の竜が敵に突っ込むなんて魔法もあったな。


しかし、見た目に反してパパンたるアレックス・アーネスト子爵は実に知的で優しいな。

見た目はゴリゴリのプロレスラーだけど、ゲームでもチョイ役ながら論理的な発言をしていたキャラだった気がする。



「くっくっくっ。許せアルフォンス。悪気はなかった。

齢3歳にしてアレックスと渡り合える天才児の新魔法開発の切っ掛けが、格好いいからとはな!年相応で可愛いじゃあないか!くくくっ。」


まだちょっとツボに入ってるのか、笑いながらも珍しくママンが謝罪する。


あれ?今褒められた?

チラリとパパンを見ると、パパンはニヤっと笑って頭を撫でてくれた。


「このまま順当に育てば、吾輩達を超える世界有数の魔法戦士になるだろうな。精進せよ、アルフォンス。お前は吾輩達の自慢だ。」




あー、くそ。突然こんな風に褒めるなんてズルい。

歳をとると駄目だな。泣きそうだ…。



切っ掛けはいつだって単純なのだろう。


何でもないある晴れた日。


家族3人でピクニックに行って、家族で笑って最近頑張っていると褒められた。


言葉にすれば別にドラマチックでもないし、特別でもない単なる日常の一コマだ。


でも、きっと俺は今日の事は忘れることはないだろう。


この世界に生まれて3年。


今この時、間違いなくこの2人は俺の両親で、自分は2人の息子、アルフォンス・アーネストなのだと自覚したのだ。




「どうした?アルフォンス。惚けた顔をして。」


「な、なんでもない!そうだ!ねぇママ!そろそろ剣を教えてよ!やっぱり剣を覚えたいんだ!」



潤んだ目を誤魔化しながら強引に話を変える。

流石に今の一言に感動していたなんて知られるのはちょっと恥ずかしい。



「くっくっくっ。やっぱり剣は格好いいものな。

…あー、分かった分かった。もう弄らない。ちゃんと帰ったら剣を教えてやるから許せ。」


俺の不機嫌な目を見てママンは苦笑しながら折れてくれる。



「ほぉ!『氷嵐剣舞』に剣を教えて貰えるとは!アルフォンス!これは王ですら叶わなかった事だぞ!」


わっはははと笑って俺の頭をワシワシと撫でるパパン。

嬉しいけど、結構痛い。



この氷嵐剣舞とか粉砕万魔と言うのは2人の二つ名だ。

王国軍でも一騎当千と謳われた兵士に王から直接送られる一種の名誉称号だな。


ドキめもの設定資料集(分厚さ鈍器レベル)によると、直接役職には関係ないらしく一般兵でも二つ名付きはいるらしい。


しかし、将校クラスで二つ名を持っているのはパパンとママンを含め4人しかおらず、王国四大騎士と呼ばれているらしい。


あまりの無双っぷりに王すら気を使うとか何とか…。


まぁ普通前線で戦うことのない将校クラスが一騎当千の活躍をしている時点で何かがおかしいのは間違いない。


前線で戦う前に陣頭指揮して下さいよ…。



「――って言うかママ、王様が教えてくれって言ったのに断ったの?」


「うむ。吾輩達は四大騎士と呼ばれていてそれなりに自由な発言を許されているが、あの時ばかりは不敬罪で殺されるかと本気で思ったわ。わははははは!」


「ふん。教えを乞う側にも最低限の力量は必要だろう!」



あはははと笑い合い、家族の団欒は続く――その時。



ヒュボっと間の抜けた音と共に少し離れた森から光の柱が天を突いた。



なんだあの光の柱?あんなのイベントにあったか?

今の俺は3歳。物語開始は15歳だから、今はゲーム開始の12年前にあたる…。


12年前!?


主人公の襲撃イベントか!!



「何だあれは?魔力の柱?属性は光…。攻撃性はなさそうだが…。恐らく回復系の光だな。」


「そうなると危険性は低いのか?しかし、とんでもない魔力量だ。アレックス。お前の10倍はありそうだ。」


険しい目をしながらパパンとママンが話す。



違う!!


一瞥しただけで正解を導き出す2人には脱帽ものだが、この光の本質はそうじゃあない!



「パパ!ママ!反魔法か闇属性の結界を張って!今すぐ!!

これは――――」



叫びながら俺達を包み込むように全力で結界を張る。


チラリと自分の腕を見ると、先程の訓練(じゃれ合い)で出来た擦り傷が異様な速度で修復されて行く。


クソ!俺じゃあ防ぎ切れない!



「なるほど!そういう事か!!」


パパンが拳を突き出すと目の前に光さえ飲み込むような真っ黒な結界が出来上がる。



「この光は過剰回復!暴走した光魔法が引き起こす魔法災害か!」


「なるほど…。アレックス!私の魔力も使ってあの光を遮る結界を作れるか!?」



そう。この光は確かに回復魔法。

だが、暴走した過剰なまでの回復は生物にとって毒となる。


木々は異様な速度で成長し、魔物(モンスター)はその凶暴性を増し、最後には集団暴走(モンスターパレード)を引き起こす。


そして――。



「任せろ!全力で行く!!」



ママンの手を握ったパパンがその剛腕を前に突き出すと光の柱を中心に黒い光のオーロラが森を包み込む。


す、すげぇ!光が飲み込まれて行く!


瞬く間に闇のオーロラは森をすっぽり塞ぎ、過剰回復の光を覆い隠してしまった。



「や、やった!凄いや!パパ!ママ――」



喜び勇んで2人に駆け寄ろうとした瞬間、俺の目に映ったのはゆっくりと倒れる2人の姿だった。



そう。この光の本質は過剰回復。


木々を過剰に成長させ、魔物を凶暴化させ、人を急速に老いさせて老衰させる悪魔の光だ。



「くそ!くそ!くそ!俺がもっと早く気付いていれば!!」



悪態をつき、泣きながら抱き合う様に倒れた2人に駆け寄る。


よ、よし!見た所問題はない!



要は、あの光に晒されると細胞分裂が異常促進されるのだ。


寿命の長い植物であれば異様に成長するし、生物と精霊の中間のような存在である魔物は暴走する程度で済む。


人間に当たった場合、強制的に細胞分裂を繰り返され最終的には老衰する。


見た所2人は多少爪や髪は伸びているが、極端な変化はない。

恐らく2人の高い魔力に対する耐性能力と咄嗟の結界が功を奏したのだろう。


咄嗟の思い付きで2人の手を取り、体内の魔力を探査する。


やっぱり!2人の身体の中に2種類の魔力を感じる。

恐らくあの光の魔力がまだ2人の身体の中に残っているんだ。


この魔力が抜けきるまで2人は目を覚まさない。

場合によってはその分だけ寿命が削られてしまう。



あー、クソ!どうすりゃあ良いんだ!?

こんな展開ゲームにはなかったぞ!


…いや、待てよ?ゲーム開始は12年後。

その時には間違いなく2人は生きていたんだ。


別にこのまま放置しても問題はないんじゃあないか…?




『お前は吾輩達の誇りだ。』


『帰ったら剣を教えてやる。』




逃げ腰な考えに陥ろうとした瞬間、2人の顔が頭をよぎる。



……………あぁそうだ。


俺はあの2人の息子だ。


あの脳筋で化物みたいに強いあの2人の自慢の息子なんだ。



――いいぜ。やってやろうじゃないか!


この世界の運命(ストーリー)ぶっ壊してやる!!


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