オッサンは休日を満喫する
パパンのイメージは織〇無道と武〇敬司だったのにどんどんアームがストロングな錬金術師になって行く(/;ω;\)
アレックスなんて名前にするんじゃなかった…!
グルルルルっ!ギャアギャアギャア!カロロロロロ!
ワォーーーン!
くそ!どこも魔物でいっぱいじゃあねぇか!?
何なんだよこの森!?
10匹、20匹、まだ増えるだと?
くそ!完全に囲まれてる!!
ここら辺の魔物のレベル帯は結構高いんだぞ!
左舷の弾幕どころか全方位で弾幕足りてないんですけどぉ!?
ちょっとどうなってるんです艦長さぁん!?
鬱蒼と生い茂る木々の背は高く、実に数百メートル規模の大樹が乱立している。
森の中は昼間だと言うのに木々が太陽の光を遮り、常に夜のような体相だ。
その暗がりのそこかしらから魔獣の唸り声が聞こえ、俺が常時発動している探索魔法に表示される攻撃性存在の数が増え続けている。
うっわ。完全に補足されてんじゃん…。
こりゃあもう集団暴走が起こりかけてる…!
「な、なんでこんな事に…。わ、私そんなつもりじゃなかったの…。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…。」
俺の利き腕である右腕にしがみつき、的確に足を引っ張りつつも護衛対象が壊れた人形のように謝り続ける。
別にコイツが本当に悪い訳でもないし、3歳の子どもがこんな状況でパニックになるのも分かるが、鬱陶しいものは鬱陶しい。
「先ずはその呪われそうな謝罪をやめろ。お前が悪くないのは分かってる。あ、でも賠償はしろよ!人の家の軒先でBBQしても問題になんのに、お前らはパレードを引き起こしたんだからな!! 」
「え、あ、は、はい…。わ、私に出来ることなら、な、なんでも、します…」
護衛対象は蒼玉の様な大きい瞳を伏せ、消え入りそうな声で謝罪する。
ピンクブロンドの長い髪から見えるその瞳には大粒の涙が浮かんでいた。
………いや、別に俺は決して悪くないんだが、可憐な美少女に泣かれると何だか罪悪感が…。
「はぁ、しょうがねぇな。とりあえず、生きて帰ってお前の兄ちゃんとオジサンを仲直りさせること!約束な!」
「え、で、でも…。」
コイツも幼いながらも今が絶体絶命の状況なのかは分かっているのだろう。
繋いだ手からコイツの震えが伝わってくる。
「――後、俺のパパとママの事、頼むわ。」
周りの魔物の叫び声に飲まれてしまいそうな俺の本音が伝わったのだろう。
「う、うん!絶対何とかする。あ、アルくん。」
誰かを助ける為に力を振るう。
それが主人公であるコイツの在り方なのだろう。
先程までの震えの代わりに力強く握られた手からコイツの温かさが伝わってくる。
「了解だ!お姫様!なら今だけは、俺はお前の騎士だ!
――複数属性刀剣魔砲、発射準備!!」
自由な左手でパチンと指を鳴らすと、俺と護衛対象を中心に炎、水、風、土の4属性の魔力で編まれた剣が無数に現れる。
挫けそうになる自分の心を奮い立たせるため、無理矢理口の端を釣り上げ、大口を叩く。
「俺を誰だと思ってんだ?『粉砕万魔』と『氷嵐剣舞』の息子だぞ!こんなはじめてのおつかい、さっさと終わらせてやんよ!!」
さぁ噛ませ犬の取り巻きAの底力を見せてやんよ!
良く見とけよ!お姫様!いや、
ドキドキめもりあるの主人公、ユーリ・アナスタシア!!!
……………………………………
………………………
俺が産まれて3年の月日が流れた。
いやぁもう地獄の様な3年間でしたよ。
パパンの徹底した魔法訓練と、地獄の鬼すら泣いて逃げ出すママンとのお外遊びと死にのぐるいの自主練習の毎日だった。
基本的に忙しい2人は毎日家にいる訳では無い。
それぞれ軍の重要な役職に付いており、演習やら会議やら会合やら何だかんだで週の半分以上は家に帰ってこない。
そんな時は1人で自主練習だ。
基本的には複数の魔法を常に発動、維持をする練習。
そして身体操作訓練の2つを徹底して行っている。
前者は当然、索敵と潜伏だ。
両親曰くこれを息をするように展開、維持出来て半人前らしい。
身体操作については、要は走ったり飛んだりしているだけだ。
ただ、その際に肉体強化魔法が自分のイメージ通りに身体が動いているかを確認しながらやっている。
と言うのも、俺くらいの歳の子どもはグングン背が伸びるので、日々の確認を怠ると肉体強化魔法の感覚がズレるのだ。
少しのズレが命に直結するのでこっちは必死だ。
ウチの両親曰くは単なる子どもとのじゃれ合い、俺的には地獄の訓練は1歩間違えると普通に死ねるレベルだ。
自主練習と言えど本気で行っている。
そんな児童虐待レベルの遊びを強要してくる両親だが、それでも家にいる時は家族の時間を作ろうとしてくれており、何だかんだで2人の愛情は感じている。
ただ愛情はあれど、熊とライオンにウサギの子供を育てさせようとするのが間違いと言うか、多分ゲーム本編のアルフォンス君が引っ込み思案のぽっちゃり君なのはこの両親の反動何じゃないかなぁと思う。
「吾輩を前に油断とは!余裕だなアルフォンス!?」
ハッと意識を戻すと、パパンの巨大な手が目の前に迫っていた。
「うわっ!危ない!………なんてね!」
俺の目の前に光の壁が現れ、パパンの拳を受け止める。
ギャリギャリギャリと光の壁から魔力で編まれた鎖が飛びててパパンの全身を締め上げる。
よぉし!このまま絞め―――!?
バギャン!!
パパンがグッと力を込めると鎖が全て弾け飛んだ。
うそぉ!?俺の全力だぞ!!
「吾輩を誰だと思っておる!王国軍随一の反魔法の使い手!
『粉砕万魔』とは吾輩の事だ!ちょっとやそっとの新魔法程度でこの身を拘束出来ると思うなっ!」
反魔法。
要は敵の放つ魔法に相反する属性を同等量身体から放出して相殺する技術全般を指す。
当然、反魔法の使い手は全属性に対する親和性と魔法に対する深い造詣が必要になって来るし、相手の魔法に込められた魔力と同等量を着弾までに放出しなければならない玄人向けすぎる変態技法だ。
そういやゲームでも使ってたな!
だったら手数で勝負!
「複数属性刀剣魔砲、発射準備!!」
俺の掛け声と同時に、パパンと俺の間に魔力で編まれた無数の剣が現れる。
炎剣、風剣、土剣、水剣、光剣、闇剣、その数優に百以上。
ふはははははははは!
喰らえ!何故か弓兵なのに無限に剣を作り続ける英雄の必殺技をモチーフにした俺の新魔法!!
複数属性刀剣魔砲!!
まぁ単によくある炎球とかの球の形を剣に変えただけのお手軽魔法だが…。
「これは壮観!しかぁし!!」
ドパパパパパン!っと軽快な音を立ててパパンの左手が鞭のように振るわれ、滞空していた魔力剣が次々と撃ち落とされる。
フリッカージャブ!?
ってか嘘だろ!?あの数を全部相殺するってどんな魔力操作技術だよ!!
俺の魔力剣1本1本に合わせて、瞬時に拳に乗せる魔力量と属性を調整してるのか!?
ビッ!と俺の目の前でパパンの右拳が止まる。
「剣に込められた魔力属性が素直過ぎるな。同じ炎剣でも、炎と風の複合属性くらいにはしとかんと単なるハエたたきであるぞ?息子よ。」
くそ!論理的に力押しな事しやがって!!化け物かよ!
「アレックス!アルフォンス!一区切りしたのなら遊びはそこまでにしておけ!食事の準備ができたぞ!」
少し離れた丘の上からママの声が聞こえる。
今日は久しぶりに両親が休みなので家族でピクニックに来ている。まぁ屋敷の庭でだけど。(ただし、屋敷の周辺以外は魔物が跋扈する深い森である。)
今日は休みなのでママンも帯剣こそしているが、白のブラウスと黒のロングスカートと言う私服姿だ。
シンプルな格好ゆえに見た目の美人さが引き立つ好コーディネートだな。
丘の上でシートを引いてバスケットにサンドイッチや軽食を詰め込んでのピクニックだ。
……少し離れた所でうずたかく積まれた細切れのゴブリンの死体の山は無視する。
多分ランチの匂いに釣られてやって来てママンに切り刻まれたのだろう。
そう。全てはこのほのぼの(当社比)ピクニックから始まった。