オッサンは鍛え出す
そんな感じで意気込んでみたのは良いが、何をすれば良いのだろうか?
結局の所、俺の死因の原因は噛ませ犬王子の取り巻きポジションにいた事だと言える。
つまり、あのピッ〇ロ野郎の取り巻きにさえならなければ、もっと言えばゲームのシナリオに巻き込まれさえしなければ俺の人生は安泰と言えよう!
何せ今の俺は子爵家の長男だからな!
仕事に困らないどころか一生食うに困ることはないだろう!
漫画やゲームで子爵なんて言うと貴族階級の中でもしょぼい扱いを受けるが、実際は普通に偉い。
しかもアーネスト家は王家の直臣だったはずだ。
イメージは超大手企業本社の幹部クラスみたいなイメージか?
悪くない!悪くないぞ!
ドキめも公式設定資料集(5,840円税別)によれば、アルが噛ませ犬王子の取り巻きになったのは、5歳の頃父親に連れていかれた王城で、王子に暴れ馬から助けられた事が切っ掛けだったらしい。
王城にさえ近づかなければ問題はないと思うのだが――。
実は、王城には行ってみたいのだ。
あの城の地下にはDLCで追加された武器がある。
この世界がまだなんなのかは分からない。
追加DLC要素がないのかもしれないし、そもそもアルフォンス・アーネストと言う名前が一致しただけでドキめもとは一切関係のない世界かもしれない。
その辺を確かめる為にもどこかで王城には行ってみたい。
それに、ほら、王城に隠された最強剣とか心が惹かれるじゃないか?
とりあえず何が出来るか確かめようと、ベビーベットの柵を持ちつかまり立ちをしてみる。
や、やべぇ!足がガクガクする!
ストンとベットに尻餅をついてしまった。
くそっ!立ち上がることすら出来ないのか!
それに何だか頭がグラグラする。
これはもしかして首も座ってないのか?
くそ!この軟弱な身体め!
まだガクガク震える自分の足をペシペシ叩いていると、
不意に、ふわりと大きな手に抱き上げられた。
「ふむ。いかんぞ?アルフォンス。自分の身体を傷つけるような事をしては。」
俺の小さな視界いっぱいに、スキンヘッドでカイゼル髭の厳しい顔のオッサンのふにゃりと笑った笑顔が広がっていた。
だ、誰だ!?
あれ?このオッサン…。
「しかし、赤子とは言えやはりアーネスト家の嫡男である!
その心意気は良し!流石は吾輩の息子よ!」
呵呵と笑う厳ついオッサン。
あー、やっぱりこの人父親のアーネスト子爵だわ。
廊下の肖像画と同じ顔をしてるわ。
仕事の合間にやって来たのだろう。
真っ黒い軍服に身を包んだ偉丈夫がそこに立っていた。
「良いか?アルフォンス。お前はまだ産まれたばかりで筋肉が備わっておらぬ。いきなり立ち上がるは出来んのだ。しかし――」
言い聞かせるようにゆっくりと俺に語りかけるアーネスト子爵(推定パパ)は、ふむと呟き、立派なカイゼル髭を撫でる。
「魔力を鍛えれば別だ。」
魔力!来た魔力!
古今東西のファンタジー作品に必ず出てくる不思議パワー!
当然、ドキめもの世界にも存在する。
「あらゆる生物の身体には血とは別に魔力が流れている。
東の方では気と言われる概念だな。」
ジャパンファンタジー作品には必ずと言って良いほど出てくる極東に住む不思議部族もいるのか!
もちろんドキめもにも出てくる。
交流も普通にあるそうで、何ならサムライとかも出てくる。
「丹田と言われるへその下の部位に意識を集中させるのだ。
そこから全身に流れる魔力を意識せよ。そして全身に魔力を張り巡らせた状態を維持するのだ!そうすれば――!」
アーネスト子爵は俺を抱いたまま空いた腕で拳を突き出す。
豪っ!
丸太のような太い腕が生み出した烈風が部屋に吹き荒れる。
す、すげぇ…!
「生身で岩を砕くことも雑作ない!赤子のお前とて立ち上がるどころか、飛び回ることも容易だろう!これぞ無属性魔法!肉体強化魔法の基礎!東方では気功とも言われる戦士の必須技能よ!!」
ガハハと笑うパパン。
うん。赤子に教えるこっとゃあないよね。
何でこの人赤子に言葉が伝わると思ってんだ?
筋肉?脳まで筋肉なの?
「アルフォンス!お前はアーネスト家の男だ!これくらい出来て当然である!!さぁやってみせよ!」
豪快に笑いながら俺をそっと地面に置く脳筋パパン。
よ、よぅし!やってやる!
丹田、つまりへその下だな!
意識をへその下に集中させる。
すると身体の奥底の方からじんわりと暖かい何かを感じ取れることが出来た。
こ、これか!これが魔力!
ようし!次はこれを全身に張り巡らせれば良いんだな?
「そうだ!それが魔力だ!良いぞ!アルフォンス!
お前は天才だ!さぁ立ち上がれ!!」
俺の魔力の循環を感じ取ったのだろう。
パパンが嬉しそうに叫ぶ。
俺は床を踏みしめ、さらに魔力を身体中に張り巡らせる。
うぉおおおおおおおおおおおおっ!!!
ぷりっ。
「………………………だぶっ。」
「………………………ふむ。マーサを呼ぶか。」
いきみ過ぎた様だ。