その3
「ふーん。たいへんだったんだね。」
四畳半のぼくのへやで、おねえちゃんは一部しじゅうを話した。ぼくはというと、パソコンをネットにつないで、メールをチェックしていた。
「そうなのよお。明日には、決着つけなきゃならないんだけどねー。」
「風前のともしび……。」
おねえちゃんの手がぼくのあたまをひっぱたいた。
「不吉なことをいうんじゃない!」
ぼくは気になっていた。
「おねえちゃんの、へ理屈はともかく、月ってやっぱり『女神』のイメージなのかなあ。」
「ん?」
「ちょっと検索してみるね。」
ぼくはGoogleに飛んで”月”と打ってみた。世間ではこれをググるというらしい。すると、月の専門サイトがでてきた。
「へえ〜〜。あんた小学生のくせに使いこなしてるじゃない。おじいちゃんにねだったかいがあったね。」
ぼくの名誉のために主張するが、おじいちゃんにパソコンをねだったのは、おねえちゃんだ。勉強に役立つとかいってねだって、そのじつ、ゲームがやりたかっただけなのだ。ところが、意に反して、おじいちゃんはぼくにパソコンを買い与えた。おねえちゃんには誤算だったろう。
それはともかく、専門サイトだけあって、月のことならなんでも書いてある。
「おもしろいなあ。北欧では、太陽が女で、月が男だって。」
「ホント?」
「エジプトでも、月は男の神さまらしいよ。メソポタミアでは、太陽と月が男で、金星が女だって。へえ。インドまで、月は男の神さまか。」
「すごいすごいすごーい!」
おねえちゃんが興奮してきた。自分のへ理屈が、ひょうたんからコマになったので、うれしいのだろう。
「ヨーロッパと日本や中国は女神なんだろうけど、あとはべつに決まってないみたいだね。」
「それじゃおとこが神さまでもいいんだよね!」
「そうだけど……、ひとつ聞いていい?」
「なによ。」
「台本読んだの?」
「読んでないけど話は知ってるよ。月の女神が太陽の神さまに求愛されるけど、女神は美しい人間の男性に恋をして、ふたりはかけおちするの。さいごは人間の男性が死んじゃうのよ。悲劇だよね。」
おねえちゃんは腕組みして悲しそうな顔をしたが、ぼくは納得できなかった。
「その役を男子にやらせるの?」
すると、おねえちゃんは、ふっふっふ……と、笑い出し、すっくと立ち上がるや、
「神さまがゲイでどこがわるい!」
とさけんだ。
後日、ぼくはおねえちゃんの中学でやったその芝居をみた。
『月の大王』の役をやったのは、成績のいい村田クンだった。けっこう美形で、メイクをしたのはおねえちゃんらしい。『月の大王』は人間の美少年とかけおちするが、美少年は天罰により死んでしまう。天を仰ぎなげき悲しむ『月の大王』のすがたを見て、観客はもうれつに感動していた。
芝居のさいごに、制服すがたの女の子が出てきて、天井からロープをひいた。よいんを残してするすると幕がおり、女の子はふかぶかと一礼した。おねえちゃんだった。
おわり




