マッチョ売りの少女
新作で童話を扱う物語を構想中に突然閃いてしまい、ノリと勢いで書きました。
反省しているし、後悔しかしてませんが個人的にツボってしまったので投稿します。
アンデルセンさん、ごめんなさい(土下座
「マッチョは要りませんか? マッチョは要りませんか?」
ある日の大晦日の夜、小さな少女がマッチョを売り歩いていました。マッチョの首に紐を括り、その紐を手に握りしめマッチョと共に街をさ迷う一人の少女と十人のマッチョ。
この十人のマッチョを全て売り切らなければ少女は家には帰れません。いえ、少女は家にも帰りたくない気持ちで一杯でした。父親は酒に溺れ、母親は少女に家事を押し付け別の男の元へ消えて行く。帰った所で父親には暴力をふるわれ安心出来る居場所など家にはありません。
しかし、マッチョを売らなければ雪が積もりゆくこの寒空の下で凍え続けなければなりません。どんなに家が心身共に寒くなる場所であっても自分が今居る場所に比べればはるかに良いのです。
少女は凍える手を握りしめ、声を震わせながらマッチョを売り続けました。
「マッチョは要りませんか!? マッチョは要りませんか!?」
しかし、街を行き交う人たちは年の瀬の慌ただしさから誰も少女の声を聞く者は居らず、少女の前を無情に歩き去って行きます。
やがて世がふけ、通りには誰の姿も見えなくなってしまいました。少女とマッチョの体は芯まで冷えきり、とうとう少女と十人のマッチョは歩けなくなってしまいました。
少女は寒さに耐えられず、マッチョ同士を擦り合わせました。するとマッチョから熱気が発せられ蒸気が吹き出してきました。
すると何と不思議な事でしょう。マッチョの蒸気に街をもの悲しく照らす街頭の光が差し込むと、そこには暖かい暖炉や美味しそうなご馳走が浮かび上がってきたのです。
少女は驚きながら手を伸ばしますが、マッチョの熱は冷めてしまい蒸気と共に暖炉やご馳走は消えてしまいました。
すると空に一筋の光が流れて行きました。
「流れ星。今、誰かの命が終わったのね」
少女は凍える声で呟きました。少女を可愛がってくれていた祖母が教えてくれた事を流れ星を見て思い出したのです。
そして少女は再びマッチョをすり合わせました。
するとどうでしょう。マッチョから出る蒸気の中から可愛がってくれた祖母の姿が浮かび上がったのです。
少女は喜び祖母の元へ走り寄りますが、祖母の姿は消えはじめていました。
「おばあちゃん待って! 私も一緒に連れてって!」
少女は残りのマッチョを全てすり合わせて祖母の元へ駆け寄りました。辺りを覆い尽くす蒸気の中、少女は祖母の腕の中に飛び込みました。
祖母は優しく少女へ微笑みかけてそっと抱き締めると流れ星がいくつも落ちては消えてゆく中、二人とマッチョ達は天国へと登っていきました。
新年の朝、街に人が通るとそこには一人の少女と十人のマッチョが幸せそうに微笑みながら死んでいました。
「可愛そうに。マッチョで少しでも暖まろうとしていたんだ」
道をゆく誰かがそう呟きながら少女とマッチョ達の前を通り過ぎて行く。この少女がマッチョの蒸気に包まれて祖母と共に天国へ旅立った事をしらないまま。