過去への扉
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作者のやる気になります。
8
フロイデルさんの家は村の西の外れにあると聞いたので、歩いて行くことにした。
日も暮れて暗くなって来たのでアーウラさんには先に帰ってもらい、帰りが少し遅くなる事を伝えてもらう。
大きな一本杉が目印だと聞いたのだがなかなか見つからない。
人の多い村の中心部ならともかく、こんな村の外れでは街灯なんていう便利な物もなく、辺りが真っ暗になってしまい全然見えない。
胸ポケットから端末を取り出しライトをつける。
「エリシエル、迷ったかもしれない」
「少し行き過ぎたのではないでしょうか?」
少し辺りを見渡すと、後ろの方に明かりが見える。
「あれかな?」
明かりに向かって歩いて行くと、どうやらフロイデルさんの家らしいものが見つかった。
「なんか随分とボロくて汚い家ですね」エリシエルが言う。
確かにフロイデルさんが住む家にしては小さくてみすぼらしい。
「こんばんわ〜」と言ってドアを叩いてみるが反応がない。
「居ないのかな?」ちょっと困ったな、と思っていると。
「こんな時間に誰だね?」と後ろから声がする。
「どわ〜!」びっくりして振り向くとそこにはフロイデルさんの姿があった。
「ケーチ殿ではないか。どうしたのかね?」
「あ、こんな夜分にすみません。実はちょっと急いで聞いておきたい事があって来てみたのです」
「ふむ、今機構人の整備中なので屋敷で待ってもらってもいいのだが、何やら急ぎの様だ。機体を整備しながらでも良ければ話を聞こう」
「屋敷ってこのボロ小屋がですか?」
「こ、こらエリシエル。失礼な事を言うな」
「ほお、その板の様なもので君の機体の魔導知能と話すことが出来るのか。トランシーバみたいなものかね?」
「私は魔導知能ではありません。もっと高度なハイブリット生体システムです」
「ははは、ケーチ殿の魔導知能はなんとも変わっていて面白い」
フロイデルさんは、エリシエルの失礼な物言いにも怒った様子はなかった。
「これは小型の通信端末でトランシーバの様な機能もありますが、もっと様々な事が出来ます」
「ふむう、トランシーバと言いその通信端末と言い、そしてアーメスと言う貴殿の機構人。全てが非常に奇妙で興味深い。ところでケーチ殿はこれらを一体どこで手に入れたのかね?」
いつまでもあやふやにしておく訳にはいかないだろう。
しかし俺はこれまでの事を全て話すかどうか迷っていた。フロイデルさんは信用できる人だとは思うが、全てを伝えても理解できるとは思えないし、返っておかしな事を言い出す男だと思われ、不信感を持たれてしまうかもしれない。
「まあ、こんな所でいつまでも立ち話をしていても仕方ないな。吾輩も機体の整備の途中だし、続きは倉庫でするとしよう」
悩んでいる俺を見て、フロイデルさんはそう言って倉庫に向かって歩き出した。
倉庫はフロイデルさんの家に並ぶ様にして建てられていた。
扉を開けて中に入ると、倉庫内は昼間の様に照らされ暗闇に慣れた目にはとても眩しかった。
様々な機材が並び、その奥にいくつかの部品が外されたデュッケバインが立っているのが見える。
「これ、一人で整備を行なっているのですか?」
思わず問いかけた俺に
「ああ、こんな辺境の地に何人も人を送れるほど王国は裕福ではないのでね。それでケーチ殿が聞きたいと言うのはそれのことかな?」
と俺の持っている魔法陣を指差して言う。ドラゴンについても聞きたかったが、まずこの魔法陣が先だろう。
「ええ、そうなんです。この魔法陣にどんな機能があって、そしてキチンと使えるのか?それを確認したかったのです」
「かなり古いもの様だが、ちょっと見せてもらえるか?」
魔法陣をフロイデルさんに手渡す。
「これは100年くらい前に王国軍の機構人に使われたものによく似ている。機構人専用の魔法陣の様だ」
「見ただけで判るんですか?」
「まあ、多少はな。吾輩は魔法陣の専門家と言う訳ではないが、機構人を動かすために少しは魔法陣を知る必要があるのだ。そもそも貴殿も機構人に乗っているのだからこれくらい判ってもいいはずなのだが?」
う、なんか怪しまれてしまった。
グライドは魔法で動いてる訳じゃないし、魔法陣のことなんてわかるはずもない。というか俺、魔法自体使えないし。やはりある程度話をしないと分かって貰えないな。だが、どう話したらいいのか。
「え〜と、フロイデルさん。魔法が使えない人、っていますよね」
「ああ、事故などで頭を怪我したり強く打った人が魔法を使えなくなった、と言う話を聞いた事があるが」
「それでですね、実は俺、まったく魔法が使えないんですよ」
「そんなはずはない。ケーチ殿は機構人を動かしているではないか。魔導知能にせよリアクターにせよ魔法が使えなければ動かすことは出来ん」
フロイデルさんが訝しげに言う。
「それは、アーメスは機人ではないんです。グライドと言って、信じられないかもしれませんが別の世界で作られたもので魔法で動いてはいないのです」
フロイデルさんはちょっと考え込んでる様子だったが、おもむろに顔を上げると俺に向かって言った。
「そうか。色々不思議だと思っていたがケーチ殿の機構人、いやグライドと言ったな。今まで見たことも聞いたこともなかった機能やトランシーバや端末の秘密がそれで説明がつく」
あれ?意外とアッサリ納得した。
不思議そうにしている俺にフロイデルさんは言った。
「実はな、異世界からやってきたと言うのはケーチ殿、貴殿が初めてではないのだ」
フロイデルさんは俺をじっと見つめ、静かに語り出した。
「200年以上も前のことではっきりとした記録は残っていないのだが、隣国バージリアンに異世界から来た男のことが書かれていた書物があった。若い頃吾輩は武者修行でバージリアンに行ったことがある。その時国立図書館でたまたま見つけた書物がそれだった」
なんと!驚きの新事実である。
「その男はあちこちの国を漫遊し、様々な奇跡の様な行いをしていたらしい。色々な新技術による土地の開発や都市計画。死にかけた少年を奇跡の技で命を救ったともある。だが、彼の伝えた技術や知識はあまりに異質すぎて理解できるものがほとんど居らず、彼の死後失われてしまったらしい」
「景一、これって」エリシエルが問いかける。
「ヴァーンの重力兵器に近づいたグライドは、あと二体いたな。特異点に入る角度やタイミングの違いで転移時期が200年ズレることは考えられる」
「彼も運良く生き延びて、この世界ヴァンデルワースにたどり着いたと…」
「そう考えるのが自然だろう」
「吾輩はその書物に書かれた男と貴殿達の共通点の多さから、ケーチ殿は異世界から来たのかもしれないと思っていたのだ」
ふむう、けっこう簡単にバレてしまったな。まあ、隠していた訳でもないしバレたからと言って何か困ることがある訳じゃないし。
「機構人は、その男が残した機体を複製したのが始まりらしい」
なるほど、機人がこの世界にある理由が不可解だったが、これで少しわかってきた。
「それで、残された機体は今何処にあるのですか?」
「それはわかっていない。複製する際に壊されてしまったとか誰かが持ち去ったとも言われているが、本当のことはもうわかりようもない」
「当時の技術でグライドを破壊することは不可能ですから、何処かに隠されたと考えるべきでしょう」
エリシエルがそう言う。
その機体、なんとか見つけ出したいが今はそれより先にやらなければならない事がある。
「話がだいぶ脱線してしまいましたが、その魔法陣についてもう少し詳しく聞けないでしょうか?」
「ああ、そうだった。貴殿がこの魔法陣を持ってきた時点で薄々わかっていたが、この魔法陣を貴殿の機体のリアクターにつかうつもりなのだね」
俺はうなずいた。
「理解が早くて助かります。それでこの魔法陣はリアクターとして使うことは可能なのでしょうか?」
「魔法陣をリアクターとして使うことは可能だが、問題点が二つある。その一つ目は、リアクターで作ったエネルギーを君の機体で使用できるエネルギーに変換する装置が必要になること。そして二つ目は…貴殿、魔法が使えないのだろう。どうやって魔法陣を使うつもりだ?」
「グライドのエネルギーは電気なので、魔法陣からのエネルギーを電力に変換できればいいのですが」
「吾輩に友人に、そう言ったことに詳しい技師がいる。彼に相談してみよう」
「お願いします」
「だが彼は王都に居るのだ。吾輩は村の防衛の為、ここから離れることは出来ない。貴殿一人で王都まで行ってもらうことになる」
「わかりました」
「だが二つ目の問題はどうするつもりだ?」
「それについては俺に考えがあります」
「それでは、友人宛に紹介状を書いておくとしよう。明日、もう一度ここに来てもらえるかな」
「はい、よろしくお願いします。それから、整備の邪魔をしてしまって申し訳ありませんでした」
「何、いいさ」
そして、フロイデルさんと別れた俺は、家路についた。
「あ、しまった」
「どうかしました?」エリシエルが尋ねてくる。
「ドラゴンのこと聞くの忘れた」
次回予告
王都に行った俺達はフロイデルさんの友人に会い王城を見学する事になる。
そこには様々な機人がいたのだが、俺達はそこでとんでもないものを見ることになる。
次回タイトル『勇ましいチビのグライド、王都に行く』 期待せず待てw