幼女期の終わり
0話と5話にイラストを追加しました。
6
朝になってもアーウラさんの機嫌が悪い。
こちらから話しかけようとしてもプイッと顔を背けて、すぐにどこかに行ってしまう。
「エリシエル〜、お前アーウラさんと仲いいだろう。なんとかならないか?」
エリシエルはすぐ図に乗るので、あまり貸しは作りたくないがここはやむを得ない。
「仕方ないですねえ。なんとか機嫌を取っておきますよ」
「ああ、頼むよ」
「あっそうだ。景一のビデオライブラリを少し借りますよ」
「いいけど、アーウラさんに映画でも見せるのかい?」
「まあそんな感じですw」
エリシエルの返事が微妙に気になるが、とりあえず任せることにした。
エリシエルとの会話を終え、端末を胸ポケットにしまうと柱の影からマリエちゃんがこちらをうかがっているのに気がついた。
前にもこんなことがあったような気がするが、何か俺に用事でもあるのだろうか?
マリエちゃんに近づこうとすると、さっと部屋の奥に逃げて行ってしまった。猫みたいだ。
う〜む、なんなんだろう?
「おはよう、ケーチ君」
アーウラさんのお父さん、ギーベルグさんがやってきた。
「おはようございます。ギーベルグさん」
ギーベルグさん、普段から陽気と言うわけでもないが今日はやけにうかない顔をしている。
「どうしたのですか。なにか心配事でも?」
気になったので聞いてみると
「ああ、実は最近村の周囲をモンスターが徘徊してるらしく、危なくって農作業がし難いのだよ」
「モンスター?」
「でかいトカゲらしい。東の平原の方で見かけたと言うのだが、そこはうちの畑の近くなので困ってるんだ」
でかいトカゲって。まさかアーウラさんを襲ったティラノもどきか。奴はまだ生きていたのか。
「フロイデルさんには頼んでいるのだが、なかなか見つからないようだ。意外と利口で機人に見つからないように上手く隠れているらしい。そのくせ、機人が周りにいないとわかるとすぐに村人を襲ってくるのでタチが悪い」
「俺もグライドで探すのを手伝いますよ」
「すまん、お願いする」
と言って頭を下げてくるので
「俺だって、村で世話になっているのだからあたりまえですよ。村に来れなかったら、今でも虫とか草でも食ってるしかなかったのですから」
何処の誰かも判らぬ俺を迎えてくれた村の住民達には感謝している。蜘蛛やら蛇を食って生き延びていたあの1週間には戻りたくない。
とにかくフロイデルさんと合流してモンスターの捜索をしようと思う。
東の平原につくと、上空を何か黒いものが飛んでいるのが見える。
それは俺のグライドに気がついたのか、すぐ近くの場所に降りてきた。
濃紺のボディに黒のラインが入ったなかなかセンスのいい塗装が施されている。両肩には可動式の盾がまるで羽のように拡がっていた。
俺のグライドが高さ4mくらいなのに対して、これは6〜7m程の高さがある。けっこう大きい。
これがフロイデルさんの機人か。
ハッチを開け外に出ると、フロイデルさんも機人から降りてきた。
「モンスターがいると聞いたので、自分も何か出来ないかと思い来たのですが」
「うむ、貴殿が協力してくれるなら助かる。だが奴は吾輩の機体を見つけるとすぐに逃げ隠れてしまうので困っているのだ」
「ええ、聞いています。それについては自分に考えがあります。俺の機体アーメスには光学迷彩機能がありまして」
「光学迷彩?吾輩は不勉強で聞いたことがないのだが、どんなものなのだね?」
こちらの世界では光学迷彩はまだないだろうから、知らないのも当然である。俺は光学迷彩について説明した。
「機体の表面に周りの景色を映し出すことによって、見え難くする機能のことです。百聞は一見にしかず。実際にやってみますね。エリシエル、光学迷彩起動」
「了解、光学迷彩起動します」
グライドが周りにとけこむように見えなくなった。
「おお、消えた。いや、よく見ると何かあるのがわかるな」
「ええ、完全に見えなくなってしまうわけではないのですが、非常に見えにくくなるのでこの状態で藪に隠れればまず見つかることはありません」
「なるほど、貴殿が隠れて奴が現れるのを待つわけだな」
「モンスターが現れたら俺が取り押さえます。そうしたら俺がフロイデルさんに連絡しますので二人で奴を倒しましょう」
「わかった。だが吾輩にどうやって連絡するのかな?」
「連絡用の端末を、ってアーウラさんに予備端末取られたままだったな。どうするかな」
「連絡だけであれば、小型トランシーバがあるのでこれを使いましょう」とエリシエルが言う。
「ふむ、じゃあそれを使うか」そう言って俺はグライドからトランシーバを取ってくる。
「ここのボタンを押すと、押している間話せます」
簡単にトランシーバの使い方を説明し、実際に使ってみることにした。
「こちらケーチ。フロイデルさん、聞こえますか?」
「おうっ、この箱から声がする。こいつは面白い」
「ボタンを押して話して下さい」
「う、うむ。ケーチ殿、聞こえるかね」
フロイデルさんはトランシーバが気に入ったようだ。グライドを藪に隠し待機しているとトランシーバを使って色々話しかけてくる。
「ケーチ殿、このトランシーバとやらはこれしかないのかね?」
「残念ながら今はこれしかありません」
「そ、そうか。これがあれば王国との連絡も楽になると思ったのだが。いや、こんな貴重なもの譲ってもらえると考えることがおかしいか。すまぬ、ケーチ殿。今言ったことは忘れてくれ」
なんか妙に律儀と言うか、固い人だなあw
「今すぐ用意は出来ませんが、数日いただけるのであればトランシーバ用意できますよ」
「おおう、ありがたい」
などと話していると「景一、モンスターが現れました」とエリシエルが報告してくる。
俺は慌てて外部カメラを操作する。
奴だ。手榴弾でつけた傷が顔面に残っている。間違いない。この前のティラノもどきだ。
「フロイデルさん、奴が現れました。俺が取り押さえるので、もう少しそこで待機しててください」
「わかった。十分注意してくれ」
「了解です」そう言って俺は会話を切った。
藪の中でじっと身を潜めて奴が近づいてくるのを待つが、なかなか近くに寄ってこない。
すると奴は、何かを見つけたのか急に走り出す。
まずい、村人がいる。俺は藪からグライドを出し、急いで追っかけた。
村人に襲いかかろうとする奴の尻尾を掴み、引っ張る。
懐に潜り込むようにして、伸び上がりつつ奴の顎にアッパーを入れる。
「しょーりゅー○ん」エリシエルが茶々を入れる。
腕に内蔵した機関砲を奴に撃ち込む。
「はどー○ん」エリシエルのボケは更に続く。
俺はつっこまないぞ。
ハンドガンと違い、大口径の弾を撃ち込まれたティラノもどきはその場に崩れ落ちるように倒れた。
そして勝ち誇ったようにエリシエルが言う。
「KO!」
ふうーっと大きく息をついた俺は、とどめを刺すべく奴に近づこうとした瞬間。
「背後から更に二体の敵が接近。ROUND2 ファイト!」
いや、もうふざけてる場合じゃないぞ。一体に後ろ蹴りを入れ、振り向きざまもう一体に機関砲をぶち込む。
「機関砲、残弾ゼロ。エネルギーも残りわずかです」
戦闘モードのため、エネルギーの消費が激しい。
機関砲を打ち込んだ方はだいぶ弱ったようだが、もう一体の方はたいしたダメージもなさそうだ。
弱った方の恐竜もどきに跳び上がりつつ膝蹴りを入れ、とどめを刺す。そしてもう一体に右ストレートを入れる。
「真空飛び膝蹴り、そしてアーメスマグナム」止まることを知らぬエリシエルのボケが続く。
左ストレートを打ち込むと恐竜もどきは大きく吹っ飛んだ。
「アーメスファントム」
もう、好きにしろよ…
最後の一体はなかなかしぶとく、なかなか倒れない。そしてついに
「エネルギーが規定値を割りました。休止モードに入ります」
休止モードに入り動けなくなった機体を、巨大な尻尾が打ち付ける。
強固な装甲を持つグライドの機体は、この程度で壊れることはないがコクピット内はしっちゃかめっちゃかである。
「やべえ、気持ち悪くなってきた」
「コクピット内で吐かないで下さいよ」
その時、間断なく続いていた攻撃が、急に止まった。
恐る恐るコクピットのハッチを開け外の様子を伺う。
最後の恐竜もどきは、首を切られ絶命していた。
その後ろには、返り血を浴びて、真っ赤になった機人があった。
「すまん、遅くなった」
「フロイデルさん、遅すぎですよ。危なくコクピット内で吐くとこでしたよ」
「そこは死にそうでした、とか言うところでは」エリシエルはボケからつっこみに変わったようだ。
「吾輩の方にも一体モンスターが現れて、それを倒すのに手間取ったのだ」
なんと、すると計四体もモンスターがいたと言うことになる。多すぎだろう。
「なんでこんなにいっぱい現れたんだろう」
「一つ考えられることがある」フロイデルさんはしかめっ面で言った。
「こいつらの住んでいた森の奥に、何かが来たんだろう」
「何かって?」
「おそらくはドラゴン。この世界最強の生物だ」