君は無慈悲な夜の女王
5
開拓村であるエイブリフは、はっきり言って貧しい。
しばらくの間は国からの税の優遇措置、物資の援助などがあるが、そういった物が打ち切られるとたちどころに飢えることになるだろう。
農地を広げることが急務なのだが、とにかく人手が足りない。
グライドをフルパワーで動かせれば、農地の開墾などすぐに出来るのだがリアクター不調の現状、エネルギーはなかなか貯まらない。
リアクター不調の原因はわかっている。
ここが異世界だからだ。
グライドにはエイリアンテクノロジーと呼ばれる異星人の技術が多く使われている。
グライドのリアクターにももちろん使用されている。
エイリアンテクノロジーは便利ではあるが、非常に危険なものである。
そのため、無数の安全装置がつけられていて、暴走などを起こさないようにされている。
その安全装置が元の世界とこの世界のごくわずかな違いにより(物理定数のわずかな変化など)働いてしまったのだ。
安全装置を外すわけにはいかないし、故障ではないので治すことも出来ない。
何か別の方法でエネルギーを手に入れなければならない。
「よう!、ケーチ」
「あ、タゴーサクさん、こんにちわ」
俺が悩みながら道を歩いていると、村の住民の一人タゴーサクさんが大きく手を振りながら近づいてきた。
この村の住民達は、ケイイチと発音するのが苦手らしく、俺のことをケーチと呼ぶ。
「西の方の開墾が梃子摺ってるらしい。少し手伝ってもらえるか?」
西の方は大きな木が多く、切り株をどかすのが大変らしい。
「あ、わかりました。すぐ行きます」
「すまんのう」
日常会話はだいぶ出来るようになってきた。
アーウラさんとエリシエルの会話には、まだついていけないが、、、
納屋の裏で休止状態にしているグライドを取りに向かう。
納屋はアーウラさんの家の裏手側にある。
家の前を通って裏手に回ろうとした時、窓からマリエちゃんがこっちを見ているのに気がついた。
手でも振ってやろうかと思ったら、すぐ奥に引っ込んでしまった。
まだ俺には慣れてくれないようだ。
それはともかく、裏手に回ろうとすると
「ケーチ、ケーチ、¥¥¥¥#----&&&@@$$$€€€€」
胸のポケットに入った端末から、アーウラさんの慌てた声が聞こえる。
「ごめん、早口だと何言ってるかわからない。落ち着いてゆっくり喋ってくれ」
「すごいもの見つけたの。来て、すぐに来て」
「来てって言っても、何処に行けばいいのかわからないよ。今何処にいるの?」
「西の裏山の中で、¥¥££€@$〜$$@$」
「何を慌てているのかわからないが、今から開墾の手伝いに行かなきゃ行けないので、それが終わったら行くよ」
そう言って通信を切った。
何を見つけたのか少し気になるが、まずは開墾を終わらせないと。
急いでグライドに乗り込み開墾している場所に向かう。
タゴーサクさんは既に来ており、仲間のゴンースケさんとハーチベーさんと一緒に大きな切り株を起こそうとしていた。
「すいません、少し遅くなりました」
「おー、待ってたよ。早速こいつを掘り起こしてくれ」
早速グライドの腕を切り株の下に差し込み、力まかせに引っこ抜いた。
そしてそのまま切り株を端の方に放り投げる。
そうやって、いくつもの木の根を引き抜いていたらいつのまにか日もだいぶ傾いてきたのに気がついた。
「景一、アーウラさんとの約束があったのでは?」
エリシエルがそう、告げてきた。
「しまった、忘れていた。タゴーサクさん、そろそろ終わりにしていいでしょうか?」
「ああ、助かったよ。また頼むね」
タゴーサクさんとの挨拶もそこそこに、裏山に向かう。
日もとっぷりと暮れ、月が替わりに天を照らす。
約束の場所ではアーウラさんが待っていた。
彼女を一目見た瞬間に思った。これはやばいやつだ。
とにかく夜まで待たされた彼女にひたすらあやまり、グライドで家まで送る。
結局、彼女が何を見つけたのかは、わからずじまいだった。
毎度おなじみ、裏設定のコーナー
ヴァンデルワース
そもそもの始まりはビックバンから。
われわれの宇宙や、ヴァンデルワースのある宇宙も、一番初めはビックバンにより生まれた。
私の考えでは、ビックバンとは我々の宇宙より高次の空間で何らかの位相の変化が起こり、我々の理解できる物理法則になった状態だと思われる。
わかりやすく例えてみる。
ここに瓶に入ったサイダーがあるとする。
蓋を開けるまでは瓶の中の液体に泡は無い。
ふたを開けると、そこには無数の泡が現れる。
蓋を開けるまでは目に見えない状態、つまり我々には理解できない状態の物が蓋を開けることにより、目に見える泡、我々に理解できる宇宙に変化した。
これがビックバンなのではないだろうか。
じゃあ、誰が瓶の蓋を開けたのか?
それって神なのではないだろうか。
我々の宇宙とヴァンデルワースの星の位置が同じ理由
重力が、電磁力や強い力、弱い力などと比べ極端に弱いのは、他の空間、おそらくは超空間に逃げて行っているためだと言う説がある。
我々の宇宙とヴァンデルワースのある宇宙はごく近く、ほとんど重なるようにして存在しているため、その二つの宇宙の間にはほぼ同じ力の重力が働いている。
共通の重力が働くこの二つの宇宙では星の位置や運行はほぼ同じになる。
ちなみに地球とヴァンデルワースの地形が異なるのは誤差(w)である。
地球全体の質量に比べ表面の質量は0.何%くらいなので誤差って言えると思う。