ヴァンデルワースの陽のもとに
話がなかなか進まないためか、今回の話は状況説明部分が多くなってしまった。
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アーウラさんは兵士として訓練された俺とほとんど変わらないほどの健脚だった。
かなり足場の悪い山道もひょいひょいと登っていくのだ。
山道と言っても色々な動物が歩いて出来た道、要はけもの道なので足場がいいはずもない。
そのけもの道をかなりの速度で進んでいく。
「¥¥¥¥¥-##@@@¥¥¥¥######%%%」
「%%¥¥######@@@-/〜〜¥¥¥¥¥¥####@」
どうやらエリシエルとのおしゃべりが気に入ったようで、端末はアーウラさんに取られてしまった。
胸もとに入れた端末でずっとエリシエルと話している。
一応予備はあるので大丈夫ではあるが、俺のことは無視されてるみたいでちょっと悲しい。
しばらくいくと、少し開けた場所に出た。
立ち止まったアーウラさんが指差す先を見ると狭い平地の中に建った家と山の斜面に作られた畑が見える。
村まではもうすぐだ。
村に着いた俺をアーウラさんが村人に紹介していた。
この村はエイブリフと言い、本当にまだ出来たばかりらしい。
そうしているうちに、アーウラさんの家族と思われる人々がやってきた。
おそらくアーウラさんの母親かなと思う人が、泣き笑いの表情でやって来てアーウラさんに抱きついた。
父親だと思う髭面の男がアーウラさんにゲンコツを落とした。
まあ、なんだかんだで家族が無事再会できたようで良かった。
ある程度落ち着いたと思ったので、俺はこれまで気になっていたことを彼らに訪ねることにした。
それはここが地球なのかと言うことだ。
少なくても俺の見る限り彼らは間違いなく人間だ。
だが、全く異なる地形、地球では滅んだ恐竜ににた生物。そして魔法。
確かにヴァーンの重力兵器で300年ぐらい未来に跳ばされた。
だが逆に300年でここまで変わるはずがないのだ。
そして彼らから帰ってきた答えは、俺の予想していた通りだった。
ここは地球ではない。
地球とよく似た、ヴァンデルワースと言う異世界だった。
それから俺は、しばらくアーウラさんの家にやっかいになることにした。
畑の開墾に人手がいるためだ。
アーウラさんのお父さんはギーベルグさんといい灰色の髪を短く切った、いかつい親父だ。
お母さんはミシェールさん。ちょっと天然が入った、黒髪の優しそうな人だ。
アーウラさんが歳をとったらこんな人になるんだろう。
あと妹が一人。
マリエと言い10歳くらいの可愛らしい娘だが、対人恐怖症らしくあまり人前に顔を出さない。
とりあえず狭いが個室をもらうことができたので、ここにしばらくは落ち着くとしよう。
この世界では技術の発達の仕方に差異があるが地球より科学技術は遅れている。
ここの文明の程度は地球で言うと17〜18世紀くらいじゃないかと思われる。
地球には魔法がないため比べることができないが、魔法を使った技術に関してはかなり進んでいる。
魔法を動力とした機械、自動車、そういったものが都会では作られているらしい。
高密度多層魔法陣を使った演算装置、言わば魔法コンピュータのようなものも作られている。
それどころか、魔法人工知能と呼べるもの(魔導知能)すら作られているのだ。
無線端末に驚いたアーウラさんが、エリシエルにはすぐ馴染んでしまったのは、既に魔導知能の存在を知っていたためである。
印刷技術の発達していないこの世界では、魔法陣の作成がほぼ手書きなので小型化、大量生産出が難しいため数こそ少ないが、地球にあるコンピュータより高性能な魔導知能は既に作られていた。
魔導知能には車を使った機械より、馬や人間などの動きを真似する方が楽のようで、魔導知能によって制御された大型の人型機械、機構人と呼ばれるものが作られていた。
一般には機人と呼ばれている。
鍬や鋤で畑を耕すその横で、魔導知能を使った機械が動いていたりするのだ。
実に偏った技術進化である。
そのためかグライドを村まで持ってきた時も、ほとんど驚かれることはなく、それどころか畑の開墾や耕作を手伝わされる羽目になった。
まあそれでも、俺やエリシエルが村に馴染みやすくなったと考えれば良かったのかもしれない。
ちなみにこの村にも機人は既にあった。
王国から派遣された機構騎士と呼ばれる人が、村の防衛のため駐留しているのだ。
この前俺と遭遇した恐竜もどきや大型の獣などから村を守るためである。
こんな辺ぴな村なので機人は一台、機構騎士は一人だけだ。
名前はフロイデルさんと言うらしい。
だが王国から来ているだけあって、機構騎士はプライドが高い。
俺がグライドを使って畑を耕しているのを見ると
「そんなことに機構人を使うんじゃない」
と言って辞めさせようとするのだ。
まあ普通に考えれば戦車をトラクター替わりに使っているようなものだし、泥だらけになって余計なメンテがかかったりするのだからやらない方がいいのだろう。
グライドはナノマシンによって整備されているのでメンテナンスフリーだが、普通の機人は相当手間がかかるだろう。
その辺を心配して注意してくれてるのかもしれない。きっといい人なんだろう。
毎度おなじみ、裏設定のコーナー
魔法陣と魔法
現在において魔法を使う最も一般的な方法は、魔法陣を使うものである。
魔法陣を使わないで魔法を使うことは可能だが、その場合脳内で膨大な量のイメージを構築する必要があるため、使える人は極一部の特殊な才能を持った者だけになる。
非常に長く難解な数式を暗算のみで行うようなものである。
普通の人が数式を解くときは黒板やノート、時には計算機やコンピュータなどを使う。
この場合のノートや計算機にあたるものが魔法陣と考えれば分かりやすいと思う。
最近使われる積層立体可変型の魔法陣は、それ自体が膨大な量のデータを蓄え演算する能力があり、まさに魔法コンピュータと呼べるだろう。