闇の左手
19
アーメスに乗って待機しつつ、さっきの機人の戦いを思い出す。
イエスタさんの話だと、現状の機人では上半身と下半身の同時制御は出来ない。にもかかわらず、あれだけの動きをする。長年の鍛錬でそれが出来るようになったとも考えられるが、それだけではない気がする。
「ケーチさん」不意にマリエちゃんが話しかけてくる。
「ん、なんだい?」
「ケーチさん、さっきの黒い機人のこと考えてますよね?」
「ああ、そうだ」
「私、あの機人に良く判らないのですが、何か不気味な物を感じます。他の機人と異なる魔素の流れと言ったものでしょうか?とにかく普通ではありえない・」
その時ドンドンと外装を叩く音がした。
「ケーチ様、もうすぐあなたの試合が始まります。準備お願いします」どうやら係員が呼んでいるようだ。
「係員が呼びに来たようだ。その話は後にしよう」
俺達は武闘場に向かった。
「エリシエル、エネルギー容量は?」
「現在45.8%です。通常戦闘では問題ありません」
「機体各部のチェックは?」
「オールグリーン。と言うかさっきから、同じ事聞いて来ますね。緊張しているのですか?」
そうなんだろうか?緊張する要素はないのだが、どうしたのだろう?
武闘場に着くと、そこには既にゲルダーが待っていた。
「さあ、皆さまお待たせしました。第6試合の開始です。両者準備は良いですか。では、ファイト!」
拡声器に乗って陽気な審判の声が響く。
ゲルダーが巨大な斧を振りかぶる。
「合体したゲルダーを只のロボだと思うなっうごぎゃ」
「うるさい」ゲルダーにパンチを食らわせる。大きく吹っ飛んだゲルダーはそのまま動かなくなった。
「秒殺〜! 勝者アーメス!!」審判の声が大きく響く。俺は倒れたゲルダーを顧みる事なく、そのまま闘技場の外に出る。
「荒れてますね」グライドを降り通路を歩く俺にエリシエルが話しかけてくる。
「……」
どう言うわけだか落ち着かない。その時不意に視線を感じ後ろを振り返る。しかし、特に何かがいるわけでもなかった。
「どうしたんですか。妙ですよ。今日は」
また視線を感じる。今度は間違いない。俺は背後の闇に向かって叫ぶ。
「誰だ、隠れてないで出てこい」
「景一、いったい何を」そう言いかけたエリシエルを遮り、背後の闇を見つめる。
「よく気がついたわね」闇と同化したようなぼんやりととした左手がユラユラと揺れながら現れ、人の姿となる。
「馬鹿な、光学迷彩だと」
光学迷彩を切ったのか、ぼんやりとした黒い人影は、黒いスーツを纏った女性の姿になる。
「女?」
「Guten Morgen。私はシュバルツシュテレンの操縦士ギオルギーネ」
「ドイツ語じゃないか。あんた何者だ」
「わかってるんでしょう」
「三人目…」
「正確には、私の方があなたより少しだけ早く着いているから、三人目は貴方だけどね。フフ」
「そうか、良かった。同じ世界の仲間として、これから協力して…」
パンッ
「馴れ馴れしくしないで」握手をしようと差し出した手は、思いっきり弾かれた。
「貴方は敵よ」
「どう言う事だ」
「私は今、ガーンバック帝国の騎士なの。この世界は面白いわね。私みたいな謂れも知らない人間が、あっという間に出世して、今では国王付きの騎士よ。ガーンバック帝国は近々この国に攻め込むわ。そうなったら、貴方と私は敵同士ってこと」
「……」
「もう、元の世界に戻れる見込みもないし、それならこの世界で栄誉を築きたいの。でも、そうなると貴方が邪魔なの」彼女の腕が素早く動く。
キンッ
彼女が投げたナイフを左手で払う。
「まあ、今日のところは挨拶よ。じゃあね、バハハーイ」光学迷彩を起動させたのか、彼女の姿が闇に紛れて気配が全くなくなる。
彼女がこの場から去ったことを確信出来るまで、俺はここから動けなかった。
「色々厄介なことになったなあ」
あの黒い機人、シュバルツシュテレンはどうやらグライドだったと言うことか。武闘大会どころじゃなくなってしまった。どうしよう。
とりあえずイエスタさんに相談してみるか。
途方にくれた俺は観客席に居ると思われるイエスタさんのところに向かった。
あ〜また何も考えずに話を膨らませてしまった。(まあ、いつものことだけどw)しかもドイツ人の女性とかにしちゃったが、ドイツ語なんて全く知らないぞ。どうする俺。




