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竜の子守唄

15


胸の真ん中に突き立ったちっぽけな剣。しかしこれが決め手になる。


「よ〜し、全員散開。エリシエル、レーザー準備」


「了解」


胸に刺さった剣にレーザーを撃ち込む。ガラスで出来た剣はプリズムのようにレーザーを反射させ内部に送り届ける。

胸を焼かれたドラゴンが暴れ、のたうちまわる。


「効いてる効いてる。レーザー連続発射だ」


レーザーが命中し苦しむドラゴン。しかしそのうちに、俺はおかしなことに気がついた。あれだけ暴れ、苦しみながらもドラゴンは一定の範囲から動いていない。まるで、何かを守っているかのように。


「ケーチ殿、とどめを刺すんだ!」フロイデルさんが叫ぶ。


俺は頷き、とどめを刺すべく出力を上げたレーザーをドラゴンに撃ち込んだ。その一撃でガラスの剣は溶け砕け散った。そして、ドラゴンは動きを止めゆっくりと倒れ落ちた。


「やった〜」


周囲の機人から歓声が上がる。


「ドラゴンのエネルギー反応低下。生命活動停止確認。やりましたね。遂にドラゴンをたおし …? 景一、どうしたのですか?やっとドラゴンを倒したのにあまり嬉しくなさそうですね」とエリシエル。


「う〜ん。どうも気になることがあって」


俺はグライドを倒れたドラゴンから少し離れた位置に降ろした。


グライドを降りた俺は辺りを見渡した。ドラゴンが暴れまわり荒らされた地形の中に、一画だけ踏み荒らされておらず不自然にきれいな場所がある。近ずくと、そこは擬似物質で丁寧に防御され、その場所の中心にこんもりと砂が盛られている。俺はそこにゆっくりと歩み寄った。


「やっぱり」


そこには50㎝くらいの乳白色の卵が、たった一つだけあった。


「奴はこれを守っていたんだな。文字通り自分の命を賭けて」


機人から降り立った機構騎士達も、こちらにやってきた。


「ブレスを食らった奴らの様子を見てきたが、機体はだいぶやられていたが、中の騎士の命に別状はなさそうだ。救護班を呼んだので、後は彼らに任せれば大丈夫だ」隊長が言った。


「あれだけの大きさのドラゴンだ。解体して、角や外骨格などを売れば相当な儲けになるぞ」


「俺もこれで正式にドラゴンスレイヤーになるな。騎士として箔がつく」


などと他の騎士達もてんでに話している。すると、その中の一人が卵に気がついた。


「これはまさか、ドラゴンの卵なのか?」


「ドラゴンは数十年に一回しか産卵しないと聞く。非常に珍しい」


「だがドラゴンの卵だぞ。人々に危害を及ぼさないように、今のうちに壊してしまう方が良いのではないか?」


一人の騎士がそう言った時。


「だめ〜!この仔を殺さないで」


マリエちゃんが卵を庇うように、両腕を広げ卵の前に立つ。


「しかし、この卵の親は沢山の人を殺した凶悪な竜だぞ。この卵から孵った竜は、人々を襲うかもしれない」


「この仔の親は罪深いドラゴンだけど、この仔には罪はないわ。私がこの仔を優しいドラゴンに育てます」


すごいなマリエちゃん。対人恐怖症のはずなのにちゃんと応対している。


「どうするね、ケーチ殿?」とフロイデルさん。


「えっ、俺が決めていいのですか?」


「ドラゴンを倒した者が倒したドラゴンの所有者になる。もちろん、卵もだ。我々もドラゴンを倒すのに協力したが、貴殿が居なければドラゴンを倒せなかった。だから、ケーチ殿が決めてくれ」


マリエちゃんがこちらを見る。自分でドラゴンを育てるとまで言い切ったのだから、それなりの覚悟があるのだろう。気弱な彼女がそこまで言うのには相当な勇気がいっただろう。


「わかりました。俺は、この卵を壊すことはしたくない。この卵から孵ったドラゴンが人々を襲うようなら、その時は俺が責任を持ってなんとかします」


「うむ、では上にはそう報告しておく」


「ところで、このドラゴンの処置はどうするのですか?」


「王都に連絡して解体班が来てもらうことになるだろう。死んだ後もドラゴンの肉体はなかなか腐らない。ひとまず、このまましばらくは放置していても大丈夫だろう」


と言うことなので、俺達は卵を回収し村に帰ることにした。


村は大騒ぎになっていた。そりゃあそうだろうなあと思う。遠く離れた村からでもブレスやビームの光は見えただろうし、地響きやドラゴンの叫びも聞こえたかもしれない。村人が不安になるのも仕方ない。

村人にはドラゴンは討伐され、もう危険は無い事を伝える。そうなると、今度はうって変わってお祭り騒ぎになる。その後の対応をフロイデルさんに押し付けて、家まで逃げるようにして戻った。


「ただいま〜」


「お帰り〜」アーウラさんが迎えてくれた。


「あれ。その卵は何?今夜のおかず?」


「食べない。私が育てる」マリエちゃんが怒ったかのように言う。


「マリエ、怪我はなかったか?」心配そうにギーベルグさんが言う。


「ケーチ君がマリエを怪我させるわけないでしょう。もちろん、何かあったら責任は取ってもらうけどねっ」とミシェールさん。ニコニコ笑いながら言ってるけれど、責任を取ってもらうの件が妙に怖いんですけど。



その後、納屋の隅に卵を孵化させる場所を作り、そこに卵を設置した。納屋から出ると外はもう暗くなっていた。風に乗って淡いピンク色の花びらが舞っているのが見える。この世界にも桜ってあるんだなあ、と思っていると。


「あれ?歌声が聞こえますね」


細くか細い声で誰かが歌っている。


「マリエちゃんの声だ。子守唄のようだけど?」


「卵に歌っているのですかね?」


「多分そうだと思う。胎教って奴かなw」


その歌は、決してうまいわけでは無いが、妙に心に残る。


「優しい歌だな」


「ええ」


その歌声は、三日月がほのかに照らす夜空に吸い込まれるように消えていった。






いつからアーウラさんがヒロインだと錯覚していたw

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