終わりなき戦い
10
王城の中を色々見て回り警備兵の控室まで戻ってくると、丁度国王との相談を終えたイエスタさんと出会った。
「国王から増援の機構騎士を送る許可を得た。至急に部隊を編成しなければならないのだが、私は機構騎士の人員などについては詳しく知っている訳ではないので、彼等二人に編成をお願いすることになった」
そう言って二人の機構騎士を紹介した。
「あっ、アーさん、ベーさん」
「いや、アルフレッドにベルリンドだって」と、アーさんことアルフレッドさんが言った。
「おやっ、知り合いなのかね?」イエスタさんが聞いてきた。
「王都に来る途中でたまたま出会って、王都まで案内してもらったんです」
「目的の人物には無事会えたようだね。良かったよ」とベーさんこと、ベルリンドさん。
「国王からの命を受けて、俺達が部隊の編成をすることになった。しかし、君の村は大変なことになってるそうだね。なんでも、ドラゴンが出たとか聞いたが」とアーさん。
「大変と言うか、現在ではその可能性があると言うだけなのですが、フロイデルさんは、その可能性は高いと言っています」
そこで俺は、気になったことを聞いてみた。
「ところで隊長さんが居ないようですが、どうしたのですか?」
「あ〜、その、なんだ。隊長はこの手の仕事が苦手でね、自分の部隊の仕事があるとか言って、俺達に押し付けてきた。多分今頃は、中庭で機構人の訓練をしていると思う」と苦笑しながらアーさんが言った。
「女性騎士は人一倍努力しないと、すぐに置いていかれるからねえ。隊長も苦労してるんだよ」とベーさん。
ベーさんはそう言うが、実は苦労しているのはこの二人の方ではないのだろうか。
「それでは二人に編成の方は任せた。よろしく頼むよ」
とイエスタさんが言うと、二人はビシッと敬礼し「「了解しました」」と言って部屋を出て行った。
「さて、次は君の機人についてだが、フロイデルの手紙によるとマジックリアクターの改修?増設?のようなことが書かれているのだが、どうにも内容が意味不明なのだよ。なので、君の方から詳しく説明してもらいたい」と、イエスタさん。
ふうむ、フロイデルさんは俺が異世界人であることをぼかして手紙を書いたようだ。俺に気を使ってのことだが、それではキチンと状況がわかるように説明するのは難しいだろう。
「説明するのはいいのですが、色々込み入った事情があって話が長くなりそうなので、別の場所で話をしませんか?」と、俺はあたりを見渡して言った。
特に隠し立てするつもりも無いのだが、こんな場所で「俺は異世界人です」とかカミングアウトしても、変人扱いされるだけならまだしも、色々厄介なことになるかもしれない。
「そうか。ならば私の屋敷に行って話そう」とイエスタさんが言ってくれたので、俺達は王城を出てイエスタさんの屋敷に向かうことにした。
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城門の前に降ろしたままにしたグライドに乗り込むと、ここに来た時と同じようにイエスタさんを、両腕で抱き上げた。
そのまま離昇し、イエスタさんの屋敷に向かう。
「しかし不思議だ。これだけ高速で飛んでいるのにも拘らず、風がほとんど当たらない」
「ははは、不思議でしょう。色々仕組みがあるのですが、それは秘密です」
ゼオフィールドの説明をするのが面倒なので、適当に誤魔化すことにした。
ちなみにイエスタさんとの会話は、外部センサーと外部スピーカーを使って行なっている。正確には外部スピーカーではなく音波兵器用の発振器だ。敵の固有周波数に合わせた音波を発生させ、相手を破壊する兵器だ。これを超低出力で使ってスピーカー代わりにしている。
音波兵器以外にも、例えばグライドの駆動音の位相を反転させたものを発生させ駆動音を消す、などと言う使い方も出来る。
だが兵器としての使用は、エネルギー不足で現在は使えない。
「あそこが私の屋敷だ」イエスタさんが指差す先には、こぢんまりとしているが、しっかりとした作りの屋敷があった。
「村のフロイデルさんの屋敷wとは大違いだ」などと失礼なことを言うエリシエルに対し
「王都にあるフロイデルの屋敷はこれより大きく立派だぞ。あれでも奴は貴族だからな」
えっフロイデルさん貴族だったの!村ではそんな事まったく言ってなかったぞ。
「フロイデルの家は王都でも名門と言われる貴族なのだが、そんな奴が辺境の村で貧乏暮らししているのは、やっぱりあれのせいだろうな」
「あれのせいって?」俺が聞くと
「すまない、今のは私の独り言だ。聞かなかったことにしてくれ」
いや、なんか凄く気になるんですけど。
だが、それ以上聞ける雰囲気ではなかったので俺は聞くことを諦めた。
グライドを屋敷の横の空き地に着地させると、腕に抱えたイエスタさんをそっと降ろした。
屋敷に着くと、燕尾服に似た服を着た初老の男が迎えてくれた。
ロマンスグレーの髪をオールバックにまとめ、口髭は上品に整えられている。
「お帰りなさいませ、旦那様」とお辞儀する男に対してエリシエルが「執事だ、執事がいる」と妙にはしゃいでいる。
「私の世話と屋敷の管理をしているセバスチャンだ。ここには彼と私しか居ないので、遠慮せず寛いでくれ」
「しかし、なんで執事の名前ってみんなセバスチャンなんでしょうねえ」
と小声で聞いてくるエリシエルに。
「それがお約束ってもんだ」と返した。
セバスチャンに居間に案内された俺達は、これまでいきさつや状況、その他必要と思われることを説明した。
話を聞いたイエスタさんは、しばらく考え込んでいたが、やがて俺達に向かい言った。
「信じ難い話だ。しかしフロイデルが信じたと言うのなら、きっと本当のことなのだろう。とにかく君達の機体の改修は私が責任を持って行おう」
「ありがとうございます。ですが、どのくらい費用が掛かるものなんでしょう?」
「私達、ここでは無一文同然ですからねえ。この前採掘したボーキサイトをナノマシンでルビーにして売り払いますか」とエリシエルが言うと
「費用については心配しないでもいい。機人開発の一環として申請しておくから。もし足らないようなら、フロイデルに出させるよ」
胸をなでおろす俺にイエスタさんは言った。
「君達が見つけた魔法陣を見せてくれないか」
俺が魔法陣を渡すと、それを手に取り調べ出した。
魔法陣を調べながらイエスタさんはゆっくり話し出した。
「大森林の開発は今回が初めてではなく、今までに何回か行われていた」
「そうでしょうね、俺達が見つけた古い機人はその際使われた物なのでしょう?」
「そうだ。今まで二回植民が進められた。一回目は百年前、二回目は二十年前。二回とも失敗した。君達の村は三回目の試みになる」
「失敗の原因って」
イエスタさんは顔をおこし、俺を見ると言った。
「ドラゴンだ」
やっぱりな。そうじゃないかなあとは思ったのだけど。でもそれなら、何故また植民を進めたのだろう?
「最近の調査でドラゴンがあの地域に生息していないことが確認された。それで三回目の植民が進められたが、フロイデルは最後までその植民を反対していた」
魔法陣をテーブルの上に置き、そのまま黙ったままのイエスタさんに俺は尋ねた。
「何故フロイデルさんは反対していたのですか?」
「ドラゴンの活動範囲は非常に広い。今いないからと言ってまた戻ってこないとは限らない。そう言っていた」
「ふむ」
「だが、結局三回目の植民は進められ、フロイデルは植民村の護衛を志願したが、それは叶わなかった。貴族が植民村の護衛をすることに反対するものが多かったためだ。フロイデルが植民村の護衛をすれば、他の貴族もそれに習って植民村の護衛任務につかされる。腑抜けた貴族どもはそれを嫌がったのだ。それでもフロイデルは諦めず食い下がった結果、条件付きで護衛をしてもいいことになった。護衛の機構騎士はフロイデル一人、国からの援助も無しだ」
そうか、それで合点がいった。フロイデルさんがなんであんなボロい家に住んで貧しい生活をしているのか。何故機人一体しかいなく、整備を手伝う人すらいないのか。
だがまだわからない点がある。
「でも、そこまでして護衛やる理由があるのですか?」
「それはな、第二回目の植民の際、護衛についたのは奴の父親だったからだ。奴の父親は、その護衛任務でドラゴンにやられて命を落としたのだ」
フロイデルさんの父親がドラゴンに殺された。って話は実は今思いついたw
その割に、前の話と整合性が取れててじぶんでもビックリ。