勇ましいチビのグライド、王都に行く
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結局、王都に行く準備が整うまで一週間かかった。アーメスのエネルギーが溜まらなかった所為もあるが、王都の場所の確認、フロイデルさんの友人、 (イエスタさんというらしい)の家の位置や特徴、王都での注意点や色々な下準備に時間を費やしたせいである。
「それではケーチ殿、気をつけてな。あ〜、それとイエスタに会ったらよろしく言っておいてくれ」
「はい、フロイデルさんもお気をつけて」
まだ恐竜もどきが出るかもしれないしドラゴンの件もあって忙しいはずなのに、態々見送りに来てくれたことは嬉しい。
「ケーチ、お土産わすれないでね〜」アーウラさんが言う。
まだ畑仕事の手伝いもあるはずなのに見送りをサボりの口実にして、態々来てくれたことは正直あまり嬉しくない。
「それじゃ行ってきます」二人に手を振って別れると、グライドに乗り込む。
「ハイパーキャパシティの容量は0.3%、王都キャリオンまでは省エネ飛行なので約1時間ほどです」
グライドを飛行させるとエリシエルがそう告げてきた。
エネルギー問題はなかなか厳しい。って言うか少なすぎないか?
「エリシエル。なんかやったろう?」
「けっこう時間があったので、今後の事を考えて武器を用意していました」
グライドの背嚢には武器や弾薬などが積まれていたが、この世界に転移するときに捨ててしまったので、何か余計なものが積まれていればすぐわかる筈だ。
「武器?背嚢にはそれらしいものは積まれてなかったぞ」
「そこがミソなんです。実は今回作った武器は見えない剣なんです」エリシエルが妙に誇らしげに語ってくる。
「この辺りでは鉄があまり取れないので、代わりに何か使える物がないかと探してみたらちょっと面白い鉱物を見つけたんです」
「勿体ぶるなよ。で、何を見つけたんだ?」
「ボーキサイトです。村の近くでボーキサイトを含む地層を見つけたのでそこで採掘して来ました」
「ボーキサイトってアルミニウムの原料だろう。アルミで剣を作ったのか?」
「いえ、違います。ボーキサイトからナノマシンを使い酸化アルミナを抽出しました」
話が見えてこないなぁ。
「酸化アルミナを特殊な製法でガラス化し、それを使って透明な剣を作りナノマシンで表面処理して屈折率を空気に近づけました」
「なんだかよくわからんが、ガラスで剣を作りそれを透明化したって事?」
「exactry」
「何カッコつけてるんだよw。しかし何故透明な剣なんか作ったんだ?」
「弾薬不足で銃火器の使用が制限せざるを得ない現状で、使える武器という事で剣を作ってみたわけですが、光学迷彩を使った場合、剣が見えたままになるので位置が特定されてしまうわけです。グライドのボディが消えても剣が消えずに宙に浮いた様に見えるわけですね。それはそれでシュールで面白いのでありかな、とか個人的には思いますが実際問題それじゃまずいので、剣を透明化したわけです」
そんな話をしているうちに王都に近づいてきた。広い田園地帯を過ぎると王都らしい町並みが見えてきた。
「前方より三体の機人が接近してきます」
「おそらく王都の警備隊だろう。下手に振り切ったりすると後々厄介になるから、このまま飛んで行こう」
少し飛ぶと向こうもこちらのグライドに気がついたらしい。近づいて来て下に降りる様促してくる。
相手の指示通りに下に降りると、今度は外に出てくる様、指示してくる。
「注意してください」
「ああ、わかってる」グライドのハッチを開け地面に降りると、正面に三体の機人が降りて来た。
中央の機人は白くほっそりしたデザインで、左右の機人は灰色でごつい感じだ。おそらく中央のがリーダーだろう。そのまま見ていると、それぞれの機人から人が降りて来た。驚いた事に中央のリーダー機と思われる機体から降りて来たのは女性だった。
「私たちはキャリオン守護隊の者だ。王都になんの用事があってやって来た?」
ヅカヅカと俺に近づいて来たその女性は、偉そうに俺に訪ねて来た。ちょっとムッとしたが、我慢して問いに答えた。
「エイブリフ村の機構騎士フロイデル殿の依頼により、王国中央機関の技師イエスタ殿に会いに来た」
「フロイデル殿の知り合いか。紹介状はあるのか?」
フロイデルさんから預かった紹介状を見せると、急に態度が軟化した。
「すまなかったな。最近隣国との状況が不安定で色々トラブルが多いので少し過敏になっているのだ。おい!アー、べー、お前達彼を王国中央機関まで案内してやれ」
アーとベーと呼ばれた二人が敬礼し俺の側まで来た。
「では案内するので俺達の機体の後ろからついて来てくれ」
「ありがとうございます。お手数かけますがよろしくお願いします。アーさん、ベーさん」
と言うと、二人は少し微妙な表情をした。何か変な事でも言ったのだろうかと思っていると、俺のそばに来て小声で囁いた。
「俺の名はアルフレッド、こいつはベルリンド。隊長は未だに俺達の名をちゃんと覚えてくれず、イニシャルのアーとかベーで呼ぶんだ」と苦笑いしながら言った。いきなり砕けて来たな、この人。
「隊長は決して悪い人ではないんだが、必要ないことは極力覚えようとしない。女性で機構騎士、それも隊長なんてやってると色々大変なので仕方ないのかもしれないが」とベルリンド。
ふむう、確かにグライド操縦手も女性は少ない。Gに対する耐性とかあって女性には向かないらしい。隊長さんも苦労しているのだろう。
そして俺達は二人の案内で王国中央機関にたどり着いた。建物の横にある発着場に機体を降し案内してくれた二人にお礼を言った。
「何、お安い御用だ。後は建物の中の受付で聞いてくれ」
俺は二人に手を振り建物に向かって歩き出した。
ーーーーーーー
「え〜と、受付の説明だとこの辺りなんだが」
「行き過ぎたんじゃないんですか?」エリシエルが言う。
一度止まって辺りを見ると、後ろに開発部と書かれた看板を見つける。
「あ、こっちだ」俺は戻って、もう一度探す。
「開発部2課、ここだな」開発部2課と書かれたドアをノックする。しかし誰も出てくる様子がない。
「居ないのかな?」そう思っていると後ろから声がした。
「何か用事かね?」
「うおっ」驚いて後ろを振り向くと、そこには一人の男が立っていた。
「ええっと、俺はフロイデルさんの依頼でイエスタさんに会いに来た者なんですが、イエスタさんはいらっしゃいますか?」
「私がイエスタだが、フロイデルの依頼?」
「これが紹介状です。そして、これを渡す様にと…」
「まあ、とにかく中に入ってくれ」と促されイエスタさんと一緒に部屋に入る。
部屋の中は膨大な量の本や書類が所狭しと詰め込まれ、更に使い方のわからない機材などが漫然と置かれていた。
「うわっ、汚い部屋。座るところもないですね」とエリシエルが言った。
「こ、こら。失礼な事を言うな。すみません、うちのエリシエルが変な事を言って」
「ははは、確かに汚い部屋だからな。ところでそれは魔導知能なのかな?」
「私は魔導知能より優れた、ハイブリッド生体システムです」
「ほお、それを少し私に調べさせてくれないか?」
などと言ってくるが、ややこしくなりそうなのでやめておいた。
「それより先にこの手紙を」と言ってフロイデルさんから預かった手紙を渡す。
「おお、そうだった。どれどれ」と言って手紙を読み出す。
自分が勧めたせいではあるが、客がいるのにほったらかしで手紙を読みふけるのはちょっとどうかと思う。
妙に居心地が悪い。
待つ事しばし。ようやく手紙を読み終わったイエスタさんは、頭を起こした。
「待たせてしまったな。手紙によると君がけい、け、け〜」
この世界の住人は、どういうわけか景一と発音するのが苦手らしい」
「ケーチでいいですよ」
「すまない。君がケーチ君でいいのかな?」
「はい、そうです」
「では早速だが、これからすぐに王城に向かう事にする。緊急の要件のようなので直接陛下にお伺いをたて増員を派遣したいと思う。君も一緒に来てくれたまえ」
慌てて部屋を出て外に向かう。暗く長い廊下を抜け外に出ると、乾いた埃っぽい風が吹き付けてくる。
「急いで行かねばならないので、君の機体に乗せてくれ。飛べるんだろう?」
「コクピットは二人入れる余裕はないですが」
「腕にしがみついていくさ。落とさんでくれよ」
なかなか剛胆な人だ。
グライドに乗り込んだ俺はイエスタさんを機体の腕で抱えるようにすると、王城に向かって飛んだ。
王城はこの都市で最も高く目立つ建物だ。特に迷う事なく王城まで飛ぶ。
機体を城門の前に着地させイエスタさんを降ろす。
「風も強くあたらなかったし、思ったより快適だったな」などとイエスタさんが言う。
ゼオフィールドを展開していたから風も少なくGもきつくなかったはずだ。
城門から警備兵士思われる人が駆け寄ってくるのが見える。
イエスタさんが警備兵の相手をすると、アッサリと城の中に入れてくれた。
「私は王に面会してくるので、その間城の中でも見学してくれ」
「それでは私が案内いたしましょう」
警備兵の一人が、そう申し出てくれた。勝手に部外者にうろつかれるのは良くないのだろう。有り難く案内を受けることにする。
城の中庭に行くと、沢山の機人が訓練しているのが見える。フロイデルさんのデュッケバインに似た形のものが多い。あれは標準的な機体なのだろう。しかし変わった形の機体も多い。三角形の大きな耳の様な物を頭の左右に張り出した赤い機体がある。
「あれはゲルダーだ」警備兵が説明してくれる。
「三体合体しそうだなw」と言ったら
「おお、その通りだ。よくわかったな」と案内の警備兵が言う。
「ゲッ◯ーロボじゃん」エリシエルが突っ込みを入れてくる。
「我が国の国王は、変わった機人を集めるのを趣味にしているのだ。あれなどは最近手に入ったアイアンマン mark28だ」
「マー◯ルから文句来そうですね」エリシエルがツッコミを入れる。
ずんぐりとした樽の様なボディに丸太の様な太い手足が付いている。西洋の兜の様な頭には尖った鼻が付いている。
「いや、文句が来るとしたら別のところからだ」
「他にも、赤男爵や、イチナナ、ワルキューレ、等々全て国王自慢の機体だ」
警備兵が自慢そうに言ってくるが、突っ込みどころ満載だろう。
「近々、王都で機人の武闘会が行われる予定なのだ。もちろん、これらの機体も出場する予定だ。みんな訓練に余念がない」
「へえ〜、しかし、よく見ると赤い機体が多いですね」
「ああ、それはな、赤い機体は三倍早くなると言う言い伝えが古くからあるせいだ」
おい、何処の専用機だ。俺は心の中でツッコミを入れた。