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悪役令嬢・白鳥エリカの受難~真犯人は別にいる!~  作者: ハヤカワ
〈第一話 悪役令嬢と割れた花瓶〉
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 二人と協力することになったのはさておき、そうなると困るのは相談の場所だった。

 SNSでの意見交換は「嘘を見抜きにくい」と依然として私を一番に疑っている西門から却下されたので、相談は対面以外の選択肢を失ったのだ。休みの日はお互いの家を行き来するのも手ではあるものの、お金持ちネットワークは広くて狭い。それこそ結婚適齢期に片足突っ込んでいる私たちが休日にも逢瀬を重ねる仲だと、友人はもとより親にばれるのは非常にまずい。下手すると本人を他所に親同士で話を進め、気付いたら婚約者、なんて未来もこの白鳥エリカだと有り得てしまうのだ。

 そんなわけで、基本的には“学校内のどこか”で“平日”に会うことが大前提なのだけれど、そうそういい場所が見つかるとも思えない。まあ私としては、このまま場所が見つからなくてソロプレイに持ち越されるのでも一向に構わないのだけど。『わたとげ』メインキャラに近付けば近付くほど、破滅へ近付いていく気がするのよね……。


 ああ、また破滅の足音がする……と思ったら本当に西門の足音だった。



 結局場所の手配は出来てしまったらしい。残念だ。「行くぞ」と言われ、放課後の人気のないグラウンドを突っ切り行き着いた先は、この学校の温室だった。



 確かに、温室への出入りはそう多いもんじゃない。優雅に花の世話をする女子学生がいると期待している人がいたら申し訳ないんだけど、草木のある場所に必ずといって存在するのが虫である。虫が平気な深窓の令嬢はほとんどいない。私も得意なわけじゃないけど、まあ毒を持ってたり蚊柱みたいに煩わしくなきゃ耐えられる。温室にはテラス席もあるしね。この季節だと日差しが気になるぐらいかな。

 それに、温室は『わたとげ』で透子ちゃんと花山院がファースト・コンタクトを交わした場所だ。タイトル然り、透子ちゃんや花山院の名前に花が入っているのにちなんだ出会いで、映画の『秘密の花園』みたいだった。あれのケイト・メイバリーも超かわいいけど、透子ちゃんのかわいさったら。点描と花びらが舞いまくってたもんね。

 思わず感傷に浸っていたら、西門からの訝しがる視線に気が付いたので、軽く咳払いをした。


「温室なんて、よく思いつきましたわね」

「ここだけの話にして欲しいんだけど、僕と西門の溜まり場なんだ」

「へえ。まあわたくしは今後も用がない限りは来ないと思いますが」


 言外に来るつもりないから安心してね、と伝えてるつもりだけど伝わってるかなあ…。毎朝透子ちゃんがここに来てる事も知ってるけど、あんたらには教えてあげないよ。

 花山院が気を利かせてカフェテリアから飲み物を手配してくれていたらしい。テラス席に並んだカフェのカップと、アフタヌーンティーのセット。これはひょっとして、犯人扱いした事への罪悪感かな? まだ疑い晴れてないけど。


 ひとまず着席して喉を潤してから、本題に入る。


「情報を共有という事でしたけれど、お二人はもう、犯行時刻の件はご存知なのでしょう?」

「ああ。だからお前を疑ってる」

「カズ、その話すると逸れるから今は置いておこうか」


 私が反論する前に花山院が制止してくれたので助かった。こういうところは原作通りだなあ。

 油断するとつい原作ファンの中身が顔を出して惚けてしまいそうなので、意識を保つためにもスコーンへと手を伸ばす。この状況で食うのかよって目線を西門から感じるけど、無視無視!

 それに、私は、もうひとつ気になることを見つけている。


「昨日、お二人が仰ったでしょう? 花が生けられていたのは、花野井さまに水を入れされるため……つまりは花瓶に近付けるためじゃあないか、って」

「ああ」

「これはわたくしが犯人なら確かに上手い手かなと思うのですが、わたくしは白鳥エリカ犯人説を否定しますので、まずはこの“なぜ花は生けられていたのか?”問題について考えてみようと思っているんです」


 実はこれは、昨日透子ちゃんが言った事に着想を得ている。

 なんというか、例えば単に花瓶が割れていただけなら、ひょっとしたら不意の事故の可能性も追えたと思うのだ。それが昨日に限って花が生けられていたことで、透子ちゃんは犯人扱い、そこから逆算して私も黒幕扱い。この花の存在に、作為があるから、きっとそうなっているんだと思う。


「透を犯人に仕立て上げるため、以外の可能性があるってこと?」

「ええ。そもそも、花野井さまが水を入れることを想定出来たとしても、わたくしがそんな花野井さまとぶつかるなんて出来事は犯人からすれば想定外の事でしょう? それに事件が起こった時間も隣のクラスに聞けばすぐに分かること。わたくしが犯人なら、今回の時間に行うなら花野井さまを呼び出すなり用事を言いつけるなりして授業には向かわせません。本当に花野井さまを貶めたいのであれば、花野井さまのアリバイがない時間を選ぶはずわ」

「でも、現に花野井は疑われてるだろ」

「まあ、この学校の生徒は特待生への偏見もありますし、ほとんどは妬み嫉みだと思いますわよ。この件は現在在校生の格好の話題です。隣のクラスとささやき合えば皆さま犯人が花野井さまではありえない事に気付きます」

「じゃあ、白鳥さんは花が生けられていたのは別の理由だと考えているんだね?」


 紅茶を飲み干して、私は頷いた。


「それで思い出したんですが……お二人とも、水の色は覚えてらっしゃる?」

「水の色?」

「信じてもらえるか分かりませんが……」


 私は前置きして続けた。



「割れた花瓶の中に入っていたのは泥水だったんです」


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