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悪役令嬢・白鳥エリカの受難~真犯人は別にいる!~  作者: ハヤカワ
〈第一話 悪役令嬢と割れた花瓶〉
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004

 ――“それ”は昼休みに起こった。


 透子ちゃんがいつも中庭でお弁当を食べている事や、残りの時間は勉強に宛てていることも知っていたので、先に中庭で用件を済ませることにした。私自身は食堂でいつもコースメニューを食べているけれど(食堂でコースメニューって本当に何なんだろう?)、正直購買のパンでも良いかなと思っていたし、何より食事の後にすると白鳥エリカの助さん格さんがついてきそうだったからだ。

 中庭でのお話はつつがなく進んだ。私自身が疑ってないしね。


「僕、てっきり白鳥さんは僕のことを疑っているのかと思ってました」

「あら。わたくし、証拠も動機もない方を疑うように見えました?」

「あ、いえ。白鳥さんというより、周りの方が疑っているようでしたので」

「ああ……」


 まあ、助さん格さんのことを否定はしない。白鳥エリカへの忠義心あってだとは思うから、私は二人のこともあんまり責めたくないけどね。


「それに花野井さま、水を入れたじょうろを運んでいらっしゃったでしょう? だから水やりの件も嘘じゃないだろうなあって」

「信じてくれてありがとうございます」

「でも水やりだとか掃除だとかは基本的に学院に任せていいと思いますわよ?」

「そうですよね……ただ今日突然花が生けられていたので、まだ校務員さんも知らないんじゃないかと気を回してしまいました。実際覗き込んだら水が入ってなかったんですよ」


 どこまでいい子なんだ透子ちゃん……。

 じーんとなってから、ふと気づく。


()()()()?」

「? はい。今までは花なんて生けてなかったでしょう? あまりにも壺……あ、いや、花瓶が大きかったからだと思いますけど」

「……すみません……」

「あ、いや、白鳥さんが悪いわけでは……」


 目に見えて私が落ち込んだので、透子ちゃんは慌てた。まあ私なんかに目を付けられたら大変だもんね。透子ちゃんには本来の目的もあるわけだし。

 これ以上話を続けても仕方がないのと、そろそろ私の空きっ腹も限界を感じたので、わざわざ時間を貰った事にお礼を言って、当初の目的通り疑っていないこと、犯人を捜すつもりもないことも念押しした上で透子ちゃんと別れた。


「でもそう思うと、僕は花瓶を割った人より、花を生けた人の方が気になりますね」


 夢と魔法の国のプリンセス然り、花を気にする辺りが少女漫画のヒロインらしいなあ。と、別れ際の透子ちゃんの言葉に癒されながら購買に向かっていた私は、助さん格さんに邪魔されることなく透子ちゃんと話せたことに浮かれきっていた。そう。白状しよう。浮かれていたのだ。はた目から見ると、どうやら計画が上手くいってニヤついている少年漫画のキャラクターに見紛うほどに。

 だから私は、まさかその時、こんな事態になるだなんて露程も思っていなかったのである。


「白鳥さん。ちょっといい?」

「………………え?」


 そう。私は、白鳥エリカの助さん格さんのことは覚えていても、透子ちゃんの助さん(花山院)格さん(西門)の存在を、すっかり忘れ切っていたのだ……。




 ◇ ◇ ◇



 絶対に『わたとげ』のキャラ――とりわけメインの透子ちゃん、花山院、西門――と関わることは止めよう、と決めていたのに、まさか一日でこんなに関わることになるとは誰が予想しただろうか……。

 私は購買に行き着く前に花山院と西門に呼び止められ、人気のない空き教室まで連行された。

 乱雑に積み上げられた机に腰を下ろす二人。花山院には「白鳥さんも座れば?」とは言われたけれど、さすがに白鳥エリカの身で机に座るのは無理だし、そもそも机も椅子も埃をかぶってそうだったので遠慮した。あともう一つに、早くこの場を去りたかったのも理由としてあるけど。


「あの……いったいわたくしに何の御用でしょう?」


 早く帰りたいの意を滲ませて尋ねると、二人は目線で会話をし始めた。どちらが話すのか相談しているみたいだ。それぐらい人に声掛ける前に決めとかんかい。

 しばしの攻防の後、結局西門が話すことにしたらしい。


「単刀直入に聞く。なんで花野井を呼び出したりした?」


 …………は?


「ええと……朝、花瓶が割れていた件がありましたので。ただ、その件は先ほど花野井さまと話して解決しておりますが?」

「解決? 解決ってどういうこと?」と入ってきたのは花山院だ。

「別に花野井さまを疑っていないこと、それからわたくしとしては犯人を捜すつもりもございませんことをお伝えいたしましたわ」


 寄贈したとはいえ、元々の贈り主である白鳥家の娘が「もういい」っつってんだから解決したも同然でしょうが。そもそも透子ちゃんのことだって疑ってないんだし。

 私の答えにその不満は滲ませなかったつもりだけれど、二人はまたアイコンタクトだけで会話をしている。いったいどういうこと? 正直、この世界で二人に目を付けられるとしたら透子ちゃんにまつわることだと思っていたから、透子ちゃんとのトラブルは全面的に回避しているつもりだし、二人から責められるような謂われはないと思うんだけど……。


 明らかに眉間に皺を寄せている西門に代わり、今度は花山院が口火を切った。


「あのね、今クラスの中では花瓶を割った犯人イコール透って事になっちゃってるんだよね」

「え!? どうしてですの?」

「お前が花野井に話があるとか言って呼び出したからだろ」

「それは……あの場では仕方ありませんでしたわ。助…菜々緒さんと加奈子さんの事もありますし、お二人を交えるよりはわたくし個人とお話された方が、花野井さまのためになると思って行った事です」

「だとしても、周りはそう受け取っていないんだよね。困った事に」

「えええ……」


 それは非常にまずい。何がまずいってみんなの疑念や不信感が透子ちゃんに向くことももちろんなんだけれど、何が一番まずいって、()()()()()()()()()()()()ということだ。


「でさ、僕達は初心に返って考えてみたんだよね。この事件について」

「はあ………」

「そもそもなぜ犯人は花瓶を壊したのか。白鳥さんは、白鳥さんのお祖父さんが寄贈した花瓶を壊す犯人の動機として考えられるものは何だと思う?」

「……ううん……不意の事故を除いて、ですわよね?」

「もちろん。そもそもあの重さの花瓶を不意の事故で壊す事はないと思うしね」


 確かに、壺という方が正しいようにも見えた花瓶だ。よく肘が当たったぐらいで倒れる花瓶もあるけれど、それぐらいじゃ多分落ちないだろう。おまけに、事件の時には花と水が生けられていたのだ。花があれば花瓶に肘が触れるよりも先にその存在に気付いただろうし、万が一ぶつかっても水の重みがある花瓶が事故で落ちるとは思えない。

 あの花瓶は、きっと故意に割られたのだ。


「……それならわたくしか、お祖父さまか、とにかく白鳥家への怨恨でしょうか」

「そうだね。だけどこの学校で、こんな形で白鳥さんに喧嘩を売る人がいると思う?」

「…………正直、思いませんわね…………」


 なにせ、女子の中では絶対的権力を持っているのが私だ。漫画の中みたいにいじめる側に回ることはあっても、こんな嫌がらせを受けるような存在ではないだろう。万が一バレたら身の破滅だ。明日転校するような身軽な存在でもなきゃ、あまりにもハイリスク・ローリターン。おまけに、お金持ち学校だからこそ、当事者同士の問題というわけにはいかないだろう。必ず親が乗り込むし、下手すると一家が路頭に迷う事だってありえる。特に、白鳥家が相手の場合は。まあだから私は犯人を捜すつもりがないんだけど……。


 あれ? でもそしたら矛盾する?


 私が気付いたのが分かったのだろう。花山院は頷いた。


「そう。いないんだよ。白鳥さん。この学校で、白鳥さんに恨みを持って花瓶を壊す人物なんて」

「でも……それならなぜ花瓶は割れたのでしょう?」

「そこで俺達は一つの結論に辿り着いた」

「カズ」


 黙りこくっていた西門が、机から腰を上げて私の元へと近づいてきた。

 これが普段なら、私だってときめきの一つや二つ覚えたりするだろう。


 ――西門が、こんなにも怖い顔をしていなければ。


「そもそも、動機は白鳥家への怨恨、そう思わせるためにあの花瓶を割ったのではないかと」

「そうですわね、そういう見方も出来ると思いますが……」

「誰かの信用を落とすため、誰かを犯人に仕立て上げるためだったらどうだ?」

「……そういう場合も、あるのかしら……?」


 西門が近付くのに合わせて、自然、身体は退路を求めて一歩ずつ退行してゆく。

 ああ、ミステリーを読み漁った前世の記憶が蘇ってくる……。犯人でないと思わせるために自分自身を傷つける犯人だとか……脳裏を過ぎったのはアガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』だけど、これ、もしかして私……。


「その場合、そう思わせるために白鳥家が寄贈した花瓶を割るにあたって、()()()()()()()()()()は――いったい誰だと思う? 白鳥さん」

「…………………………」

「さて、ここで聞きたいんだけど、白鳥さん」



 聞こえる………破滅の輪舞曲あしおとが………。



「お前はクラス全員が授業に出ている中、()()()()()()()()



 ああ私、この学園で一番の権力者・花山院平馬とその親友・西門和道に、想い人を陥れようとした犯人だと思われてる~~~~~~~~。

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