人生 / 終焉の地 / 待ち人
*『味つけ、口癖、引退』です。140字以内で書いてください。
【人生】(140文字)
「酸いも甘いも噛分けたい」が口癖だった、天衣無縫の遍歴でその名をはせた老作家が、その筆を折った。多くの人間を生み出し、その人生を多彩に味つけてきた彼は、思うがままに味わい、堪能し尽くしたのであろうか? その数週間後、自ら命を絶った作家の思惑を知る術は遺稿の中にすら見いだせない。
*『広葉樹、後悔、帰り道』です。280字以内で書いてください。
【終焉の地】(139文字)
生い茂る広葉樹に阻まれ僅かばかりの日光も届かない薄暗い森を、僕は息を弾ませ進んでいた。ここに来たことを、後悔してなどいない。もうすでに帰り道などない。行き着く先だけを求めて来たのだから。力尽き倒れた場所が僕の目的地。だが、こうして進み続けるのは、何かを目指すのはなぜなのだろう。
***(空白・改行含む):280文字
生い茂る広葉樹に阻まれ僅かばかりの日光も届かない薄暗い森を、奥へ、奥へと、僕は息を弾ませ進んでいた。何時間も彷徨い続けもうすでに、帰り道などなくなっている。
この選択に後悔などない。
行き着く先だけを求めて来たのだ。力尽き倒れた場所が僕の目的地。そう心に決めて。
だが、こうして進み続けるのは、何かを目指すのはなぜなのだろう。こんな苦しい想いをしてまで、進み続けるのはなぜだろう? この場にへたり込んで衰弱するのを待っていたって同じことだろうに。
そう自分に問い掛けてみても、返ってくる言葉は同じ。
ここではない――。
ここではないのだ。
*『黒雲、広葉樹、待ちぼうけ』です。250字以内で書いてください。
【待ち人】(140文字)
腕時計と空を見比べる。立ち込める黒雲に舌打ちして、丘に立つ一本の広葉樹に駆け寄った。間一髪で降り出した。叩きつけるような土砂降りだ。水煙で視界が遮られ、雨音が全てを遮断する。閉じ込められ苦笑する。すぐにでも立ち去りたかったのに。これでは待ちぼうけを食らっているみたいではないか。
***(空白・改行含む):249字
この樹のしたで求婚すれば必ず成就する。小高い丘にそんな伝説の樹があった。
この曰くつきの地で契約だなどと、依頼人の神経を疑ってしまう。
苛々と腕時計と空を見比べる。
立ち込める黒雲に舌打ちして、聳え立つ広葉樹の、生い茂る枝先に駆け入った。ピクニックに来ていたカップルが、次々と駆け込んでくる。
間一髪で降り出した。叩きつけるような土砂降りだ。水煙と雨音が全てを遮断する中に閉じ込められて苦笑する。
一人で立っているのは俺だけ。
振られて、待ちぼうけを食らっているみたいではないか。
(何の依頼なんだろう……)




