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鳥の巣頭くんのこと

 ムーンに移行した「微睡む宵闇 揺蕩う薫香」も一日一話の更新を終え、完結を迎えることが出来たので、常々考えていた鳥の巣頭くんのことを書きながらまとめてみようと思います。


 登場シーンでは作者の中では全くのモブ。レギュラーになるとも彼に名前がつくとも思っていませんでした。

 そして、作者はずっと彼のことが嫌いでした。なので、鳥の巣くんのことを好きでいて下さる方は、回れ右して読まない方が良いと思います。


 ごく早いうちに、「純粋無垢」のお言葉を頂いた彼、作者の中ではそんなふうに思ったことはありません。ごく普通の子です。とりたてて信念もなければ、突出して優れたところもない。育ちが良く、人当たりが良いので周囲には好かれる、当たり障りのない男の子。


 一章の頃の彼は、マシューを腫れもののように扱い、ただただマシューに振り回されるだけ。

 変化が出て来るのは、子爵さまが登場する二章から。今までマシューの一番近くにいるのは自分だと思っていたのに、あっさりとマシューの心は子爵さまや梟に移ってしまう。おまけに「可哀想な子」のはずのマシューは、どんどん自分の手には負えない存在になっていく。平凡で常識的、道徳的な鳥の巣頭くんには、理解できない。自分の道徳的規範にマシューを従わせようと迷走しています。

 そしてあっさり梟に丸め込まれてしまう。子爵さまのことだって、本当は嫌なのに、「マシューを守るため」と言われたら認めざるを得ない。マシューが欲しかったら、兄や子爵さまのように他を黙らせるだけの権力を手にいれなければならない。こうして鳥の巣頭の権力志向が育まれていきます。


 そして三章。大鴉(吉野)が登場する段になって、作者ははたと困りました。

 マシューが好きなのは大鴉なのです。鳥の巣頭じゃない。この作者的には全く魅力のない彼が、マシューを振り向かせることが出来るとは思えないのでした。でも、最終的に彼はマシューを見捨てず傍にいなきゃいけない。どうすべぇ、と悩みつつ、毎日更新なので話はずんずん進んで行きます。マシューも、作者も相変わらず鳥の巣頭が嫌いなまま。困った、困ったです。



 そうしている内に、ふと気づいたのです。何で鳥の巣頭はマシューに執着するんだろうな、て。「兄に代る償い」「すぐ傍にいたのに助けることが出来なかった罪悪感」躰の関係がある訳だから単純な「所有欲」もあるでしょう。

 でも、ここまで自分を都合のいい時にだけ頼って甘えるだけで、好き勝手に振舞う相手を愛することができるのでしょうか? 

 社交的で表には出て来ないけれど友人の多い彼なら、「あんな奴にかまうな」くらいの忠告は友人からだって受けているはず。梟のいた頃ならともかく、マシュー入院中の一年間に、彼がマシューを想い切れなかった理由はなんだろう?


 鳥の巣頭はマシューが欲しいのではない。彼もまた、自分自身を取り戻したいのだ、と思い至った訳です。

 入学前に一目ぼれして、奇跡のように再会。憧れていた想い人を目の前で踏み躙られた。鳥の巣頭も、マシューと同じように傷ついていたのです。これはマシューへの同情や共感ではなく、自分自身の踏み躙られた自尊心の痛みです。マシューが他人から傷つけられる度に、彼は無力な自分を思い知らされる。彼もまた崩壊していく自我と闘っていたのです。


 一年間のマシューの不在時に、思い知らされたのでしょう。他のことでは補えなかった。奪われたマシューを取り戻すことでしか、打ち砕かれた自尊心を取り戻す事は出来ないのだと。


 ここにきてやっと、作者は彼に興味が湧いたのでした。

 マシューに対して、「助けてあげる」「更生させてあげる」、というような上から目線で係わり、自分自身の痛みからは顔を逸らし誤魔化していた鳥の巣頭、こうして真剣にマシューと向き合うようになります。


 そして本格的に二人の共依存的パワーゲームの始まりです。


 第四章。もともと努力型の鳥の巣頭、薬物依存症者への対応法や精神分析学を勉強して、戦略的にマシューと係わっていきます。

 銀狐を自分たちの間に置いたのもその表れ。鳥の巣頭、マシューの好みを知り尽くしている。外面的なものだけでなく、彼の権力志向、奨学生への過度のコンプレックスとかね。

 マシューが気に入るに違いなく、かつ恋をするには高潔過ぎる相手。そして鳥の巣頭にしてみれば、自分の想い人に手を出す訳がない堅物。銀狐は、申し分なく理想的。


 マシューと鳥の巣頭の関係性は、恋愛じゃないのです。どちらがより強く相手を支配できるか。


 この二人の関係性が変わるのは、鳥の巣頭の手紙からです。

 鳥の巣頭の心の傷、その痛みに初めて気づいたマシューは、彼の中に自分と同質のものを見出し、やっと彼に眼を向けます。でもそれは、鳥の巣頭という個人に向けられた愛じゃない。彼の中に見つけた自分とよく似た「傷」への共感であり、自己同一化です。今まで異質であった鳥の巣頭を自分の一部、自分の延長として愛し始める。


 鳥の巣頭には、自分の歩みたかった、そして歩めなかった、日の当たる場所を行って欲しいというマシューの想いは、同じ「傷」を抱えている鳥の巣頭を自己同一化しているから。自分自身は腐っていてどうしようもないと諦め、彼に夢を託している。

 それは天使くんに対しても同じ。初めの頃はあれだけ嫉妬していた彼をあっさりと受け入れ、大鴉との仲を応援するのは、自分と同一化しているから。



 鳥の巣頭は、そんなマシューをどこまで理解できているでしょう?


 鳥の巣頭、意外にしたたかな奴なのです。そうじゃないとマシューの相手なんてしていられません。マシューの弱さや狡さ、そして純粋さを冷徹に見ています。

 マシューに別れを告げられたって、別れる気なんてさらさらありません。一旦受け入れ退いたように見せながら、マシューが泣きついてくるのを待っている。そのために銀狐という見張り役がいる。


 自分の出番を身を伏せて待っているところで、この話は終わりです。

 彼はマシューを手放しません。きっとこれからも緩めたり、引っ張ったりしながらも、手綱を握り続けていくことでしょう。


 いつの日か、彼自身の傷が癒えるまで。


 マシューとの関係が次のステップに進むのは、きっとそれからです。


 




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