【三題噺】蜂蜜色の幸福
マグネット! 第六回 三題噺参加作品転載。お題は「定食」「時計」「メンタル」
朝、熱くも温くもない紅茶を飲んで、固くなりかけのトーストを齧る。
溶けすぎたバターと、かけ過すぎの蜂蜜がぽたりと滴る。
べたつく指をねぶり、柱時計をちらりと眺めて慌ててネクタイを締める。
これまでと同じ。
だいたいそんなかんじで始まる一日。
変わったのは、きみがそこにいるってこと。
朝食の味も、忙しない時計の音も同じはずなのに。
鮮やかに日常を彩るきみの声。
きみの存在。
昼、行きつけの定食屋で昼飯。
お気に入りは鯖煮定食。
家では食べられないメニューだから、最近の俺は、これと白身魚フライのローテーション。ご飯は言わなくっても大盛りでくる。
たまたま居合わせた受付のマドンナの、天婦羅の油でぬるりと濡れたピンクの唇に、思わず見とれる。
同僚に肘で突つかれ、苦笑い。
分かってるって。高嶺の花を眺めるぐらい別にいいだろ?
夜、残業を終えて帰宅する途中、コンビニで買い物。
缶ビールと、弁当。総菜のパック。それからサラミ。
仲間の失敗で俺まで怒られ、尻拭いに今までかかった。
メンタルやられてもうぐったりだ。連帯責任? 冗談じゃない。
やっとこさ着いた安アパートのドアを開け、きみを探す。きみを呼ぶ。
俺の愚痴を聞いてくれよ。お土産にきみの好物を買ってきたんだ。
袋を破って皿に盛ると、やっときみの声が聴こえた。喉を鳴らして俺にすり寄る、気まぐれな奴。
つかまえた!
身を捩るきみ。伸びる肢体。そんなに怒るなよ。
愛しいきみ。
色のない俺の心にふわふわの綿毛を振り散らし、柔らかなきみの色で満たしてくれよ。
欲しいのは、片手で胸に抱けるだけの温もり。分をわきまえた幸せ。
甘い、甘い、蜂蜜色のきみ。




