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コイン / 星祭 / 涙雨

『口直し、ボーダー、裏表』 250字以内で書いてください。


【コイン】(空白・改行含む 130字)


 彼の立ち位置は常にボーダー。どちらにつくかを決めるのは、放ったコインの裏表。だが今回の仕事はマズかった。話がまるで違っていた。後口の悪い弱いものいじめだ。口直しのジンをショットで一息に煽り、空に向かってコインを弾く。仕切り直しだ。このままでは男が廃る。



 ***(空白・改行含む 250字)


 流れ者の男の仕事はその場限りの請負いだ。昨日と今日とで、敵、味方がガラリと変わるのも常のこと。男の立ち位置はボーダーで、そこに彼の意志などない。誰かの事情などどこ吹く風で、仕事を決めるのは、気まぐれに放ったコインの裏表だ。

 だが今回ばかりはマズかった。事前に聞いていた内容と話がまるで違っていたのだ。後口の悪い弱い者いじめだと、気がついた時には後の祭りで。苦い想いだけが口を汚す。口直しにジンのショットを一息に煽り、空に向かってコインを弾いた。仕切り直しだ。このままでは寝覚めが悪すぎる。








『駐車場、屋根瓦、星占い』 1000字以内で書いてください。


【星祭】(空白・改行含まない 138字)


 駐車場はどこも一杯だ。やっと見つけた場所は、白い土塀の横の停め辛い場所だった。なんとかその狭いスペースに滑り込ませ、車から降り一息ついた。眼前に迫る土塀の屋根瓦に不思議な模様が見える。星座? 鬼部に家紋を入れるのは良く見るが、これは…。星占いの稼業でもしているのか、この家は…。



***(空白・改行含む 995字)


 年に一度の星祭は、この山奥の村の門外不出の神事だった。

 祭りの期間中はよそ者は村に入れない。破られると祟りがあるとまで伝承されていた。その割りに、高名な民俗学の教授が訪れ、神事の行程を論文にして発表すると、その神秘的な行事にオカルトマニアの間で人気が高まり、あっという間に観光地化された。今では観光ガイドブックにまで掲載されている。かつての過疎の山村に、こじゃれたオーベルジュなるものまである。とは言え、祭りの開催期間だけ人口が異常に膨れ上がるのだ。宿はどこもいっぱいで予約なしでは泊まれない。キャンプ場のテントまで人で溢れ返っている。



 いい気なもんだな。こんな商魂たくましい金儲け行事に浮かれてこんな山奥まで来るなんて。


 男は動かない車の前方を睨みつける。村の駐車場も、当然のことながらどこも満杯だ。神社に隣接する空き地に臨時で設けられた仮設駐車場の順番を苛立ちながら待っている。



 男は今回の仕事の内容を、頭の中で反芻していた。これはフリーカメラマンの男にとって、短期間で金になる有難い仕事なのだ。一般に公開される観光用の神事ではなく、この村の住人ですら知らない、神社の神官一族にのみ伝承される秘儀中の秘儀、本当の星祭の神事を隠し撮りする。その神事は神社の裏の山中で行われる。そこで行われるはずの……。


 そこまで思い返した時、やっと前の車が動き出した。男も続いて誘導された位置へ車を動かす。白い土塀横の停め辛い場所だ。なんとかその狭いスペースに滑り込ませ、車から降り一息ついた。


 頭上に広がる澄んだ青空に、とんでもない山奥まで来たものだ、と妙に実感する。ひんやりとした空気は森と水の香りがする。ふと、目が留まった。眼前に迫る土塀の屋根瓦に不思議な模様が見えたのだ。

 これは星座か? 北斗七星のような……。鬼部に家紋を入れるのは良く見るが、これは…。 

 たしか、星占いで金を稼いでいるのだったな、この神社の神主は。頭の中の情報を探る。それにしても、瓦の一つ一つに幾つもの星座が刻まれているのは、なんとも不可思議だ。こういう占いが売りのオカルト神社でも見たことがない。照りつける夏の陽射しを跳ね返す灰色の連なりに、男はなぜかぞくりと鳥肌が立っていた。山の傍まで続くこの甍の波、その上に散らばる星々が、この世とあの世を隔てる天の川のように思えてならなかったのだ。



【感想】1000字。短編一本分。なのに、ほぼ長編の導入部……。起承転結つけようよ……。さすがにプロット立てようよ。







『約束、団子、涙雨』 250字以内で書いてください。


【涙雨】(空白・改行含まない 140字)


約束の時間からもう二時間も過ぎていた。赤い毛氈の敷かれた茶屋の前に私はひとり。人気店の軒を独占しているのだ。団子のおかわりはもう四皿目。唇を噛み締めたまま天を仰ぐ。私を憐れんでくれたのか空からは涙雨。これで終わりにしよう。皿に残っていた最後のひと串の団子を、口いっぱいに頬ばった。



***文字数(空白・改行含む 248字)


 無理なのは最初から解っていたような気がする。でも、ちゃんとした思い出が欲しかったのだ。

 約束の時間からすでに二時間。赤い毛氈の敷かれたこの店の軒に陣どって動かない私を、茶屋のご主人がちらちらと見ている。


 ごめんなさい。


 団子をもう一皿頼んだ。


 後、少しだけお願い。


 涙が零れないように、唇を噛み締めて空を仰いだ。

 かわりに、空から涙雨。

 心が緩んだ。これで終わりにできる。最後のひと串の団子を、口いっぱいに頬ばった。


 茶屋のご主人は、黙って熱いお茶を継ぎ足してくれた。







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