聖夜 / 夏 / 運命
*書き出し:聖なる夜だと言うのに、不穏な空気に窒息しそうだ。
三題:スーツ/盛り合わせ/月光
台詞:「ご機嫌取りですか」
テーマ:唖然
字数:1,426字以内
【聖夜】
聖なる夜だと言うのに、不穏な空気に窒息しそうだ。
ステンドグラスから差し込む月光が、仄青く浮かび上がるテーブルの皿を浮かび上がらせる。
剣呑な会話に遂に誰もが黙り込み、美しく飾られたスイーツの盛り合わせが出る頃にはついに言葉を発する者も尽きていた。
沈黙に、カチャカチャとカトラリーの音が響く。
年に一度だけの一族の晩餐。今年も例年に違わず殺伐としている。耐えかねた誰かが口を開き、料理なりを褒めたところで、「ご機嫌取りですか」とすかさず瞬殺されるのだ。無意味な雑談さえ命とりになりかねない。
だが突然響き渡った甲高い哄笑に、ダークスーツに身を包んだ面々は唖然と顔を強張らせることとなる。
「もう茶番はやめにしましょうよ」
この中の紅一点である一番年少の娘が、席を立ち言い放っていた。
*『トンネル、乗り換え、夏休み』です。300字以内で書いてください。
【夏】
真っ暗なトンネルを抜けると突然開けた視界に息を呑んだ。海岸線が広がる。青が眩しい。一気に解放される。在来線を何度も乗り換え、不便極まりないこんな所まで来て良かったと、じんわりと喜びが広がる。これから夏休みを過ごすこの海はきらきらと、期待と開放感をもう充分過ぎるほど掻き立てていた。
***(空白・改行含む):300字
鬱蒼とした山中の、永遠に似た暗闇のトンネルを抜けた。突如広がる景色に思わず息を呑む。
海岸線がどこまでも続く。空と海。果てなく輝き連なる青。一気に解放されたのは視界だけではなかった。魂がこの身体から解き放たれたような感動が沸き起こっていた。
在来線を何度も乗り換え、不便極まりないこんな田舎まで来て良かったと、じんわりと喜びが広がる。これまで抱え込んいた鬱屈は潮風に吹き飛ばされ、軽やかな高揚感が全身を駆け巡っている。くすんだ想いは既にトンネルの向こう側だ。別世界が迎えてくれるのだから。
これから一か月間夏休みを過ごす海は、きらきらと、期待と開放感を充分過ぎるほど掻き立ててくれていた。
*『本、弁当、暇つぶし』です。140字以内で書いてください。
【運命】
人の一生を左右するきっかけなんて皆目判らないものだ。
僕の場合それは一冊の本だった。
長距離列車で隣り合わせた子どもに、自分のを買うついでに弁当を買ってやった。その子が降りる時、お礼にとくれたのだ。
終点までの暇つぶしと読み始めた時、僕の本当の旅が始まった。
その旅は未だ終わらない。




