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漆黒に映る  作者: 夏雪
一章
8/12

閑話2 とある苦労人の憂鬱

長らくお待たせしてしまってすみません…!!2か月ぶりでしょうか、気まぐれ更新で本当に申し訳ないです…。

その分内容は多いはずです。よろしくお願いします。

「…来ねぇな」

「まぁ、夜にとは言ってたけど何時にとは言ってなかったしね。長期戦しかないでしょ」


曲がり角から顔を覗かせる2人にやれやれ、と溜め息を零す。

目立つオレンジが隠せているとは思えないけどな。エジプシャンブルーはともかくだが。


どうしてこんなことをしているのか、乗ってしまった俺も俺だが、ハルアードの好奇心の強さにはほとほと呆れる。

─パーティーを組んでいるハルアードが、依頼から戻った今日、仕事が終わったら必ず診せるように、と念を押されていたこともあり、ギルドの専属医であるフィオの所に立ち寄った。

そこから帰るとき、運が良かったのか悪かったのか(当人達と巻き込まれた側からしてみれば後者だ)、レオルドとフィオの会話を、ハルアードが聞いていたらしい。

内容というのが夜に話があるからプレマと来てくれ、と。フィオとレオルドが話してんのも、俺らからしてみれば珍しくて。夜に改まって、っつーのも意外。2人だけならともかくプレマも、っつーのも引っ掛かる。

元々の好奇心(悪戯心とも言う)と純粋な疑問が相まって、パーティー内だけでこっそり遅けて盗聴もしくは便乗しようっつー話になった。

最初は呆れていた俺ら(ハルアード以外)だったが、気にかかったのは確かだ。


そういうわけで今、同じパーティーのレオルドを除いた、ユーク、ハルアード、シンファと、医務室の扉が見える曲がり角で身を隠して待機中。


「うーん…」


隣から唸り声のようなものが聞こえ、首だけを動かす。そこにはシンファが(当たり前だが)居て、顎に片手を添え、もう片手で顎を持つ手の肘を支えて、深慮する格好をしていた。メガネをしているからか、妙にその仕草が似合っている…が。


「どうかしたか?シンファ」


眉間に皺を寄ってんぞ、とシンファの眉間を指差して言えば、あぁ…、と空返事が返ってきた。…なんか、割と深刻そうだな。


「僕達、今日まで依頼に行ってたのに帰ってすぐに話、って少し変じゃない?」


僕の考え過ぎかもしれないけど、と付け加えたシンファに、ユークとハルアードも振り向いて視線を向けた。…変、か?


「変って…何がだ?」

「依頼中の訪問者ならギルドの誰かが教えてくれる。なのに買い出し以外じゃ外に出るなんて殆どしないフィオが内容を伏せてただ話がある、それも戻ってきたばかりのレオルドに」


んー…?

フィオとレオルドの間柄上、俺としては何もおかしくはないと思うんだがな…。戻ってきたばっか、っつーのは多少気になるけど、レオルド(俺たち)が依頼に出てる間にでも何かあって、こんな仕事だし、早めのが良いと思ってそうしたんじゃねーのか?…まぁ、最悪の事態も想定は出来なくもないが、それなら街中で、若しくはギルド内ででも話題になってるだろうから、その確率は低いが。


「何が言いたいんだ?シンファ」

「…、や、気のせいなら良いんだけど、なんか、胸騒ぎがしてて」

「考えすぎだろー、シンファ」

「疑り深すぎだと思うけど?」


ピンとこない俺が聞くと、半ば諦めたのか、深く追求することはなくとも、煮え切らない様子のシンファに、軽い調子のユーク、ハルアード。…うーん、こればっかりは俺もこの2人に賛成だな。


「ま…、そんな考えすぎんな。あの2人も色々あるしな」

「んー…、それなら、良いんだけど」


ぽん、と肩に手を乗せて慰めるように言う。──シンファの胸騒ぎや違和感が正しかったのだと、この時もっとよく考えておけばよかったと後悔することになるのは、すぐ後のこと。

廊下の壁から覗き見ているオレンジとエジプシャンブルーがこそこそ話すのを、その後ろから、半ば呆れながら見る。

2人が話しているのは、レオルドとフィオの話の内容について、だ。

プレマも巻き込んでるから実は2人が生き別れた兄弟、とか、実は前科があるんじゃないか、とか、実はプレマとレオルドが親子、とか。…っつーか、まずプレマって結婚してんの?想像つかねぇな。長年ここに居るけどあの人女の陰とか一切感じられねーし…。


「──で、プレマが、」

「オレがどーかしたぁ?」


…!?!?!!?


バッ!!!と、ユークとハルアードは振り返り、俺とシンファはユーク、ハルアードのすぐ後ろを勢いよく見た。

そこには緑(正確にはメドウグリーン)のグシャグシャ頭(本人曰く天パ)の男がしゃがんでユークとハルアードの方を見ていた。


「「「「ぷっ…プレマ!?」」」」

「そうさ~。 プレマだよ?」


後ろからは見えないが、恐らくにっこり笑っているであろう、このゆるゆる…いや、ヘラヘラ星人で、まだ年若い男こそが、俺たちのギルド、ストレシギアックのプレマ、名は、セスロカ。…こんなふざけたのでプレマなんか務まんのかって思うこともあっけど、実際、凄ぇからな…こんなふざけてっけど。


「…ん?(今なんか貶されたような褒められたような…、まぁいいや)…ところで4人はここで何してんのー?レオルドにでも用事とか?」


…あ、やべ。登場があまりにいきなり過ぎて、こんなことしてんのバレちまったの、忘れてたわ。ま、今更遅ぇか。足音も気配もしなかった辺り、レオルドはわかりきってたものの、この人はやっぱり侮れねぇ。


「そうそう。フィオとレオルドの会話聞こえちゃってね?気になったんだって」

「上手くハルアードに乗せられた奴です」

「同じく、その2」

「お、同じくッ!」


変に罪をなすりつけられたち疑われる前にとっとと建前を言えば、そんな俺に便乗したシンファ、ユーク。…ユークは単細胞だが、その分、勘やら察しが良く、学ばねぇ奴じゃねぇからな。ハルアードに目ぇ付けられる前に咄嗟に反応していた。

そんな俺たちを見て、少し拗ねたようなハルアード。そんな簡単にお前には調子づかせるかよ。


「ふーん。だってよ?レオルド。これ、4人も一緒でいいの?」


後ろを振り向いてそう言ったのと同時に、音も気配もなく姿を現した、レオルド。ブロンドの目が、俺達を見て、その後、プレマに移る。…プレマが居んなら、って予想はしてたが、レオルドもそんなんだとちょい自信無くすわ…。今度またソロで依頼行ってみっかな…。


「…さあ」

「分かんねーの?うーん…、俺も呼ばれるのに心当たりないし…、フィオに直接聞いてみたらいーんじゃない?」


…プレマにも心当たりがない?曖昧な返事してる限り、レオルドにも内容までは分からねぇのか。プレマも分かんねぇって…、ギルド関係のことじゃねぇってこと、か?


──‘変じゃない?’‘何か胸騒ぎがしてて’


……もしかしたら、シンファの言ってたことと関係があんのかもしんねぇな。

それを感じつつ、プレマの提案に、そうするか、と同意して、3人も異論はないらしく、6人でぞろぞろ、プレマを先頭にフィオの居る医務室へ。

コンコン、とプレマが扉をノックして声を掛けると、中から返事がして、中に入る。


「…あ、えっ?なんで4人まで?」


目に少しの焦りを浮かばせたフィオに、俺が事情を説明。

はぁ、と溜め息を吐いたフィオに、すまん、と一言謝る。…が、この事態を引き起こした当の本人、ハルアードは反省の色を見せず、それどころか。


「ねぇ、駄目かな?っていうかこんな時間まで待ったし、ここまで来たし、良くない?」


と、のたまってくれやがった。そこまで言うなら初めっからしなきゃよかっただろ!と突っ込みをしたかったののは俺だけじゃないはずだ。頭を抱えるフィオも同じ心境だろう。


「そんなに‘言えないこと’なのかな?フィオ」


少し楽し気に、だがどこか真剣さを含ませた口調のプレマに、場の空気が一気に変わった気がした。

ジッ、と俺はフィオを見る。目に浮かぶ焦りは、そのシナモン色から消えることはない。態度は平静を貫いているが、その目だけは変わらなくて。


「…、」

「そんなに言えないくらい重いから、レオルドと俺にだけでも、って思ったんじゃねーの?」


プレマの言葉に、フィオは無言を貫く。それはまるで、プレマの言葉を肯定しているようで。…そう、なのか?フィオ。…そうだとしたら、それなら、いっそ。


「それならこの4人にも言って、少しでも軽くすればいいだろ?同じギルドの仲間、そんなに信頼できねーの?」


俺の思っていたことは、プレマと同じで。ギルドのことを思うから。フィオのことを思うから。レオルドとプレマだけに告げるつもりだと思うと、不甲斐なさすぎるから。だから、同じだった。

だが、プレマの口から出たそれは、俺が言うより、俺が思うより、遥かに重みがあるように感じて。それは彼が、このギルドのプレマであるが故なんだろう。


フィオは、プレマの言葉にか、それとも彼が纏うオーラにか、呑まれたようで、こくり、と固唾を飲んだのが見て取れた。

……ふぅ、フィオの息を吐く音が、やけに反響した気がした。


「分かりました。その前に約束してください。レオルド達もね。

大きな音を立てない、騒がない。勝手に手を出さない。それから、分かってるだろうけど、他言無用。例え同じギルドの仲間にでも、家族にでも、ね」


いよいよ折れたフィオが告げた言葉に、動揺を隠せなかった。

強く、固く。真剣な眼差しと声色。

その剣呑さは、今までのフィオを見てきても初めてのことで。相当の覚悟を、試されているようだった。

ごくり、唾を飲み込んだ。

数拍置いて、了承の意を口にしたプレマとレオルドに続き、俺達4人も同様に告げる。


「ありがとう。…情けない話、俺一人じゃ耐えられなくて」


緊張の中に、僅かに安堵を滲ませて告げたフィオは、自嘲気味に笑う。

その口で告げられた‘耐えられない’、は、肉体的にではなく精神的に、というニュアンスが込められていて、少し戸惑う。

ギルドの一員、それも、依頼に全く出ないわけじゃないフィオでさえ、耐えきれねぇ事、って…。

最初にヒトを殺すより重い…っつーこと、だろ?アレには、俺でも堪えた。


目に焼き付いて離れねぇ大量の、アカ。

刃物で肉を貫いた、悍ましいほどの、感触。

ぐにゃりぐちゅり、ぶちゅっ、と、何かが潰れたような、音。

死にたくない、やめてくれ、殺さないで、ぎゃああ

耳から離れない、懇願する、劈く、声。

迫ってくるような、呪ってやると訴えてくる、ヒトの、声。悪夢。


───それよりも重いことって…、一体。



「じゃあ、こっちに」


フィオが、誘導する。

そこは、奥の休憩室。

ドアノブに手を掛ける動作がやけにゆっくりに見えた。…じわり、手が汗ばんで、思わずぐ、と拳を握る。

再びプレマを先頭に、フィオの後ろに回る。



…がちゃり。



扉が開かれた音が、やけに大きく聞こえた気がして。

どくり、心臓が何故か嫌な音を立てて、跳ねた。




それが禁忌だと聞いたとき、ハルアードの奴に乗らなきゃよかったと、大いに後悔した。






閑話はひとまずここまでになります。

新キャラたくさん。名前とか容姿とか、分かるかっ!!って話ですよね。

エジプシャンブルーとは何ぞやって。…とりあえずブルーって付くくらいなので青系統なんだなーと認識しててください。


2018.09.07 登場人物の名前を一部変更しました。


次回からリル視点。

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