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漆黒に映る  作者: 夏雪
一章
7/12

閑話 王子なあの人の憂鬱

気づけば半月も更新放置しておりました…!申し訳ありません!

今回は閑話。記念すべき第一弾は王子なあの人です!

閑話は長めでお送りします。



─────────


「ハイ。 2、3日はゆっくりするんだろ?その間は動かしすぎないこと。…いいな?」

「チッ、分ぁったよ。使いモンにならなかったらシャレになんねェからな。 サンキュ、フィオ」

「これも俺の仕事だから。お大事に、セキ」


ひらり、軽く手を振るのが見えたのを最後に、バタン、と扉が閉まった。捻くれているように見えて、存外、素直なんだよなぁ、セキは。…まあ、これを生業としている以上、自分の身体が第一だから、ってのも大きな理由なんだろうけど。…素直なのに素直じゃない。

それは何も、セキに限ったことじゃないけどな。

さて…と。

ふと、休養室に繋がる扉に目を向けた。その先に居る少女を思い描いて、思わず表情筋が緩む。


「…一週間、か」


他愛もなく交わした会話の中で示された数字は、長いようで短いようで。流暢な喋り方を思い出すと、まだそこまで時間が経っていないことに少し驚いてしまう。…きっと、頭が良いんだろう、と憶測が立つ。





───一週間前。


珍しいやつがここにやってきた。その腕に、あどけなさの残る、どこか不思議で独特で、何かが”違う”、一人の少女を抱えて。

普段は女を寄せ付けることすらしないあいつが、誰にも滅多に頼ろうとしないあいつが、初めてと言ってもおかしくないくらいに、頼ってきた。…それも、一人の少女のことについて、だ。前者の理由にしろ、後者の理由にしろ、断る理由も道理も、なかった。

それから一夜明けた昼過ぎ。何度か空き時間に様子見に行っても、未だに起きる気配を見せていなかったその少女が、上半身を起こしていた。よかった、と声を漏らして軽く息を吐いた。

─その直後、’それ’はやってきた。俺一人で背負うには大きすぎる、彼女の異変…否、’違う’もの。


──「××…」


…何を。俺は、今。何を、言われた?

声を発したのは間違いないのに、それが分からなくて。それから、口元に手をやり頭を指し示し、腕で×を作る。

分からない─否、きっと、自分が分かりたくなかった─。何を伝えたかったのか─理解しているだろう?俺なら、さっきのこの子の仕草だって。それで何を伝えたかったのか─。彼女は何を伝えたかった?─声は音になって耳に届いたのに、分からなかったのはその言葉、意味で─

そこまで思い至ったとき、かんかんかんかんかんかん!!!、頭の中で盛大に、警鐘が鳴った。

導き出した結論。

嘘だ、そんなまさか。そんな、拒絶を表すことばかりが、頭の中を埋め尽くした。


…のに。

ジッ…、と、視線を感じて我に返ると、不安げな、気不味そうな表情と、目と、かち合って。

ざわり、心が騒いだ。

そうだ。分からないのも、混乱しているもの、不安なのも、拒絶したいのも…この子だって、同じはずだろ…?まして、自分より一回りほど幼いような少女だ。

例え、それが…’分からない’ことが禁忌だとしても。こんな子を放っておく、なんて…。

医者として、人として。そんなこと、出来ない。けれど、禁忌で。だけど、何より、あいつが初めて俺を頼ってきた。任せろ、と言ったあの言葉に偽りはない。けれど、禁忌で。だけど……。……。

…っああ!!まどろっこしい!!大の大人が例え禁忌でも子どもの、少女のたった一人、放って良いのか?答えは否。─こうしちゃいらんない。


そこからの自分の行動は早かった。治療室に誰も居ないことを確認してから、ガサガサ、部屋の隅々まで漁って辞書やら文法やらの本を引っ張り出して、彼女のもとに向かってそれを差し出す。ペラペラ、ページを捲り本を読む少女の食い入るような様子に、理解できているんだろうと思った。

邪魔になることを考えて、治療室に戻り、椅子に座り、背を凭れる。


「…マジかよ…」


天を仰ぎながら、今更どうにもならない独白が、零れた。

──こうして俺は、彼女─リル─を受け入れることにした。


それから、夕刻にもう一度尋ねれば、ありがとうございます、と告げられ、それが理解できたことにもホッとした。休むように促したのに、彼女は頑なに譲らず、結局俺が折れるしかなかった。

一人で背負うには重すぎるものを持つ彼女だったけれど、彼女と居るのは思いの外、楽しくて。彼女が異なる存在で、禁忌であるということすら忘れそうになるほど、彼女はこちらに、此処に、馴染んで。

だから咄嗟に、一週間経っていることを、まだ、なんて思ってしまったんだろう。


「…ん、?」


今、何かが引っ掛かったような…。……何だ?

リルのことなら、あいつが依頼から帰ってきてからプレマに相談しようと思って…、そういえば、あいつ、いつ帰ってくるんだっけ。

リルを預けたその日に依頼に出て、そん時に確か バンッ


「うわっ!?」「フィオぉーッ!」


なんの脈絡もなく開いた出入り口の扉。それも、盛大な音を立てて。ビクッ、と肩が大袈裟なくらいに跳ねたと同時に思わず声を漏らした。

自分の名を呼んだ声は聞き慣れた、同じギルドの仲間の一人のもので。


「ゆ、ユーク…、吃驚した、」

「へへっ、悪ぃ。 帰ったぞ!」

「はぁ…。 ったく、お帰り」


毒気の抜かれる笑みに、しょうがない、と溜め息を吐く。

おう!と俺の言葉に、帰ってきてすぐにもかかわらず元気に返す彼。平均的な身長に、それには不相応の巨大な槍を軽々と片手で持ち、それ相応の、引き締まった筋肉の付いた身体。オレンジの髪に、グレーの目。

ユーク・ベルベロッサ。それが、こいつの名前。やんちゃでせっかちな奴だけど、成人しているのか?、ギルドの人間か?、と疑うほど無邪気。


「他の奴は?」


ユークは…いや、ユークに限らず、殆どの奴はパーティーで仕事に行く。理由は単純に、その方が生存率が格段に上がるからだ。それに必要なのは相性。最悪なら、生存率は確実に低くなるし、何ならソロでやったほうが高い場合だってある。そこら辺も考えて、皆、パーティー作ってんだけどな。

デメリットとしては報酬が割り勘になること、か。均等に分けられることもあるけど、大体は成果割になる。

…で、そのユークのパーティーは…。

……、あ?


「それなら今「あぁっ!」うおっ!どっ、どうしたフィオ!?」


そう…、そうだ!引っ掛かってたのはそれか…!!


「ユーク、あいつ…レオルドは!?」

「えっ、あ、おう…レオなら皆とこっちに─「俺らがどーかしたか?」遅ぇよぉー!」


ユークが答えるより先に、目当ての奴を引き連れてやってきた、ユークのパーティーメンバー。その数、ユークを含め、5人。

そのうちの一人であるあいつ─レオルドを見て、今すぐにでも話そうかと、喉元まで出かかった言葉を止めた。

それは、レオルド以外の4人のことがあったから。

何も知らないのは今の時点ではレオルドも同じだが、拾ってきた張本人だから、知る権利がある。だけど、他の4人には関わりのない話で、あれは、大人数に話して良い内容じゃない。

あの子は間違いなく、’禁忌’なのだから。それが明るみに出てしまったとき、何も知らない世界は、あの子を傷つける。…否、それどころか、あの子を消してしまうだろう。あの子と過ごした時間がある俺としては、今、必死に此処で生きようと頑張っている彼女を消すだなんて、許せなかった。心地良い時間をくれる彼女を消すことを、許せるわけがない。

思い留まって、一先ず自分の仕事を、と5人に声を掛け、怪我を診る。

5人とも、目立った怪我や異常はなく、ホッとする。…信頼してないわけでも、実力を疑ってるわけでもないけど、心配してしまうのはしょうがないことだろう。


「サンキュー!フィオ」

「ありがと」

「これが俺の仕事だから」


じゃなー!といち早く出ていったユーク。パーティーだからといって、ずっと一緒なんてことを、この荒れくれ者共がするはずもなく。依頼に行くかも自由なら、どんな時に誰が何をしていようとも自由。ギルド員ってのは、そんなもんだ。

元気だなアイツ、と呆れた声音で言葉を零す他の奴等も、各々部屋から出ていく。その波に乗っかかって出ていこうとするレオルドを引き留める。


「夜、話があるからプレマと一緒に此処に来てくれ」


ジッ、と、そのブロンドの瞳を、真剣な眼差しで見る。多分、このタイミングを逃したら、次はもういつになるかわからない。

レオルドはユーク達とパーティーで活動する傍ら、ソロでも仕事に出ている。殊の外多忙なレオルドを捕まえるのは至難の業だ。

それに…、それに、この’禁忌’を、俺一人で、これからも抱えていけるかと問われれば完全に否だ。俺一人で抱えるには、あまりに重すぎる。…情けない話が、耐えられる気がしない。いつか、自分の身を滅ぼしてしまうだろうから。だから、そうなる前に、せめてでも。


「……分かった」

「! じゃ、頼んだ」


俺のその藁にも縋るような思いが篭っていることに気づいたのかはわからないけど、頷いてくれたレオルドには感謝の一言に尽きる。同時に、酷く安堵した。

断られることも少なからず、想定していたから。…まあ、そうなっても無理やりこじつけられることは、出来てたけど。

そのまま、レオルドは颯爽と出ていった。

パタン、と扉が閉まった音がしたあとには、静寂が訪れた。


今は夕暮れ時、数字にすると19:00程度。夜まで2、3時間。それまでは、俺も、プレマも、仕事…いや、プレマはないかな。あんな人だし、大抵暇してるし。兎に角、俺は仕事がある。リルも、今頃は俺があげたもの見て、覚えてることだろうし。

一週間は、彼女について知るには、事足りた時間だった。

知識欲が旺盛で、努力家で。熱中したものにはいくらでも没頭できる。けれど周囲をよく見ているのか、少しの変化にもすぐに気づく。表情を変えることには変えても、大きく変わることはなくて、表面上の感情の起伏が少ない。

…様子見に行って音でも立てたら、邪魔になるのは分かりきってる。…次に行くのは夕食時にしよう。

今日の食事もリルの口に合うと良い、と頭の片隅で考えながら、自分の仕事へと再び取り掛かった。




途中でキャラ崩壊しましたね。しょうがない。だって’禁忌’ですから。

腹黒な一面をチラ見せできたかな?


新キャラも2人ほど出ましたね!

次回は新キャラ続出!…と言っても4人くらいかな?


2018.09.09 一部修正しました。

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