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漆黒に映る  作者: 夏雪
一章
5/12

5─思想とギルドシステム

本日二話目の更新です。

ところで皆さんGWのご予定はいかがですか…夏雪は家に引きこもる予定ですよ…。


ずっと黙っててごめん、と、謝罪をつけて言ったフィオさんに、やっぱり、とどこか納得した自分が居て、同時に、違う、と強く思った。

謝らせてしまった。なんの罪もないこの人を。寧ろ、助けてくれたこの人を。良くしてくれたこの人を。

違う。そうじゃない。違う、私は。謝ってほしいなんて、言ってない──。



「謝る必要は、ないです。そんなこと、簡単に言えることじゃありませんから。だから、教えてくれてありがとう、フィオさん」

「っ…リル…」


だから、と告げた自分の口元に笑みが浮かんだのを無視して、感謝の意を伝えると、フィオさんは泣きそうに顔を歪めた。そんな顔すらも綺麗だなんて、美形は本当に狡い。

ただ、そんな顔をされると、まずかったことをしてしまったような気がしてきた。

モヤモヤしたものが表れてきたとき、さらり、少しの重さと共に頭上に触れる、温もり。

いつ俯いていたのかも分からない顔を、はっとして上げると、─男の人に使っていい表現なのかは知らないが─花も綻びそうな程の笑みを浮かべている、彼。


「ありがとう、リル」

「…なんでフィオさんがお礼を言うんです?」

「んー…嬉しかったから、かな」

「嬉しい?」

「うん。…ふふ、分からなくていいんだ、今は、まだ」

「…はい」


何が嬉しかったのか、どうして今じゃなくていいのか。思い当たる疑問はいくつかあるけれど、心底嬉しそうな顔をされてしまうと、これ以上食い下がるのも野暮なことか、と頷くだけに留めた。

ぽんぽん、頭上で軽く跳ねる何か。少しだけ身を乗り出したフィオさんから伸びる腕に、それが手なのだと気づいて少し擽ったくなった。

こんなことをされるのも、初めてだ。

今度は、ゆるゆると円を描くように手が動く。


「…フィオさん、いつまで頭撫でてるんです?」

「嫌?」

「嫌と言うか…、…続きが気になって」

「あぁ…ごめんね。リルの髪、思ってた以上に気持ちいいからつい」


爽やかな笑みを浮かべながら言う彼に、…絶対に悪いと思ってない、と確信する。然りげ無く変態チックな発言が聞こえたのにそう見えないのは確実に整ったその顔のせい。…そんなことも初めて言われたから、変態なのかは分かり得ないが。


──この世界はどことなく男尊女卑で、どことなくレディーファーストだった、曖昧であったあの世界とは違い、男が尊ばれるのは同じだけれど、女は保護されながら媚び侍る、男尊女慈(だんそんじょじ)─こちらの世界ではイシュラカ・イソファナと呼ぶ─という思想・慣習がある。

女は身体に傷があってはならない、女は男を立てなければならない、女は男に愛されるよういなければならない。男はどんな女であれ、慈愛を持って行動しなければならない、男は女を守る生き物である。


矛盾しているようで筋の通っているそれは、あの世界のものより確実に明解で、あの世界の人間にとってはある種、天国とも地獄とも言える。…私には完全に後者でしかないが。

この世界では、その条理が'当たり前'である以上、それに違和感を覚える人はいないらしい。…まあ、女だから勉強するな、なんて極端なことがないからだろう。その分運動は制限されるがあくまで制限であって、してはならないというわけではない。…まあ、一部には願ったり叶ったりな話だろう。


そうなれば、元の世界のに比べ、男の人の女の扱いは上手い。手慣れたもの。

要はスキンシップが元の世界と比べれば過剰だ。下手すればあの世界の西洋、と呼ばれていた地域より過激だ。

どれくらいかといえば、行為に至ることはなくとも、手を繋ぐ、腕を組む、抱き締めたり抱き上げたり、何ならある範囲までならばキスまでもが、日常茶飯レベルになっているくらいだ。

…私には全員が遊び人にしか見えない…。


一度だけ額にキス─所謂デコチュー─をされた時に吃驚して聞いてみたら、そう言われて更に吃驚した。そして元の世界のことをフィオさんに教えたら、驚かれた。…でしょうね、こっちとは雲泥の差だ。

その(じけん)があってから、フィオさんは私にスキンシップを取ることはしなかった─偶に手が出そうになってたのを、必死に堪えていたのを知っている─。

実は今日頭を撫でられるこれが、あの(じけん)以降初めてのスキンシップだったりする。


温もりが引いて、じゃあ続きね、と話が進んだ。



「ギルドにも、色んなやり方があるんだ。

専属だけ、とか一時契約だけ、とか…もちろんこの二つの混合もあるし、もっと特殊な経営もある。中には、ギルド連盟の規定に反してるところもある」

「…規定…ですか」

「例えば依頼内容以外での殺人や犯罪、ギルド連盟の許可なくギルドを設立する、とか。

そういった輩をギルド連盟を始め、加盟ギルド…もちろんこのギルドの奴らだって許してないけど、こういうのはいなくなることがないからね…」


眉を下げて、今にも呆れと疲労の溜め息を吐きそうなフィオさんに、内心同情しながら、…あれ、さっきさらりと殺人って言われた、とそっちに思考が奪われた。

…まあ、この世界じゃ当たり前のことだろう。というか、現代の日本での殺人が大々的に取り上げられていて、それに対しての刑罰が大きかっただけ。昔の日本でも当たり前に殺人は起こってたんだから、不思議じゃない。他の諸外国では今でもあるわけだから…こんなところでショック受けてる場合じゃない。

聖人君子でもあるまいし、私はこの世界に馴染んで、生きていかなければならないのだから。




犯罪とか違和感とか恋愛感情無しにスキンシップを取らせたかった夏雪の欲望が爆発した話でした。

あとリルちゃんのデレはごく稀です。これ以降はしばらく出ないものだと思ってください。

フィオさんの変態!!(良い意味で)

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