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漆黒に映る  作者: 夏雪
一章
2/12

2─時間と彼

量的にも時短が必須です。



それから、こちらの世界の一週間が、経った。一週間もあれば、得るものは多い。特に、この世界の時間軸であれば、尚更。


この世界の時間軸は、あの世界とは全く違った。

1秒のカウントは同じ。一分は、100秒。一時間は、50分。一日は25時間。計算すると、100×50×25=125,000秒。元の世界は60×60×24=86,400秒。差は38,600秒。この世界の一日は、元の世界の一日と10時間と、約43分。一週間は6日。

つまり、元の世界の計算でいくと、8日と約14時間が経ったということ。

残りの時間軸、一ヶ月と一年。

一ヶ月は30日。前後することはない。一年は15ヶ月。つまり、一年は450日。

15ヶ月にも、元の世界と同じく、各々呼び方があるけど、それは追々として、今現在はその15ヶ月中の(とお)の月、染月(そまりづき)、というらしい。

元の世界で言う曜日、もある。この世界では暦日(れきじつ)と言って、(よう)(つき)(そら)()(しょく)(せい)の6つ。1日から順に陽〜生を繰り返す。

今日は19日なので、染月の四周目の初日、陽の暦日。


そして、世界のつくり、歴史、人々の暮らし、今の時代。色んなものを知り、理解した。






「───…リル」


テノールの透き通るような声に、紡がれた言葉に、本から顔上げて声がした方を向く。

そこには、白衣を着た王子フェイスの医者─初めて会った時に付けた予想は正解だったらしい─。

目が覚めた日から、その時から、私にとても良くしてくれた─それこそ怖いくらいに─、この世界で唯一接する人─というのもそれには理由があるのだけど─。


「フィオさん…」

「ぼうっとしていたみたいだけど、何かあった?」


穏やかな物腰からも、童話の中の王子様さながらのその人、フィオ。彼の名前を知ったのは、この世界に来て一夜明けた日の、昼時。

そういえば自己紹介をしてなかったね、と切り出した彼は名前と年齢、職業を告げた。

リル、という名前は、私は日本人なのだからして、本名ではない。けれど、私は元の世界の'私'を切り離すため、それから、この世界に居ても違和感なく過ごすために、名を偽ることにした。

それが今の私の名前。 リル。



「…いえ。ただ、もう一週間が経ったのかと思うと、時の流れが早くて」

「あぁ…、そうか、まだ一週間か。

リルが言葉が通じなかったのが信じられないくらい流暢だから、もう少し前のことみたいに感じる」

「そう言ってもらえると嬉しいです」


これでもまだ精一杯なんだけど、という言葉は呑み込んだ。違和感も然程ない、と言われてる気がして─いや、実際そうなのだろうけれど─嬉しかったのは事実だし。



フィオさんには私の素性を伝えている。…まあ、初めて会った日に’言葉が通じない’とわかった時点で、この世界の人間─喋る種族…というべき?─ではないのはほぼ─というか確実に─決定しているからだ。


この世界の言語は、一部の古民族を除いて全世界共通だという。元の世界では信じられない便利さだ。


古民族と呼ばれる人達は、秘境と呼ばれる程の砂漠・氷雪・高原・森・火山の5つの場所に一つの民族ごとに生活していて、他の人々が暮らす地に来ることはまずありえない。

それは、それぞれ5つの古民族に共通して禁忌であると定めてあるという。

その条約、誓約が、人々の国と古民族達のクニの間で取り付けられたのが、遥か大昔のことだとか。


つまり、この世界で’言葉が通じない’ということは、完全な異界のものである以外の何ものでもない、ということ。有り得ない存在。前例も何もない、’異’のものである、ということ。


そんな私を理解し、受け留め、受け入れてくれたフィオさんには、感謝の一言に尽きる。

きっと、相当な負担であるというのに。私が’異’である以上、彼に掛かる圧力と負荷は、私には計り知れないものだろう。



「ははっ。

…それじゃあ今日は、地理について話をしよう」


こうして、軽く笑っている今でも、私の存在が明らかになってしまったら、という恐怖に苛まれているはずなのに。

世間と自意識の狭間で板挟みになっているこの人に、どうやって報いればいいのだろうか。


…私のことなんて、切り捨ててしまえばいいのに。気にせずに、居ないものとして扱ってくれていいのに。

そうしない人だと、この一週間で私は知っている。

医者、という職に就いているだけあって、正義感は人一倍で。

関わりを持った人を簡単に切り捨てられない性質なのだろう、と思う。


「お願いします」


そして、フィオさんは、自分の時間が開くと、こうして私にこの世界について話をして、教えてくれる。…医者なのだから、多忙だろうというのに。

数日前にその旨を伝えて謝ったら、どうしてか怒られた。自分がやりたくてやってるんだから謝る必要なんてない、と。その怒りにすら、私に対する労りを感じて、申し訳なさが募ったのは、秘密だ。

…ほら、ここでも彼の正義感が垣間見えた。




二人の名前が出ましたね!

リルちゃんとフィオ(サブタイトルの彼)さんです。

リルちゃんの本名はいつか出ます(きっと)!

文中のクニ、は誤字ではありません。リルちゃんの名前の前のスペースも同様です。


2018.09.07 誤字、名前について修正しました。(平民で苗字ありって世界観的におかしくね?となりまして…)

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