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先生! 遅刻しました

作者: 時計職人

 遅刻をした場合どのようにして教室に入るか、これを考えなければいけません。

 『おっはよーみんな元気ー』とハイテンションでうやむやにするか。もしくはその逆に、『申し訳ありませんでした』と丁寧に謝るのか。

 うーん掴みが大切です。

 本日は入学式、恐らく教室では、初めて顔を合わせる生徒たちが、絶賛初めまして大会をしていることでしょう。

 そこに突入せねばとなると下手なことは言えませんね。つかみは大切です。ここは無難にいきますか。

 よし行くぞと頬を叩いて覚悟を決めるのです。

 ガガガッと扉を開く。

「先生! 遅刻しちゃいました」てへっとポーズもつけてやりました。

「お姉ちゃん!? 五十鈴より先に家出たのになんで遅刻してるの? それに服がボロボロのびちゃびちゃじゃん」



ーその日の朝ー

「鈴音ー。すーずーねー起きなさい」

 おきました。鈴音さんの名前が響き渡るのが、私鳥わたしどり家の日常なのです。

「ご飯出来てるから早く食べなさい。今日は入学式なんでしょー。五十鈴いすずはもう起きてるわよ」

 ベッドから這い出てリビングに向かいます。お肉の香りがしました。

「やっと起きた、母さんが何度も呼んでたよ。はい鈴ねえのパン」

 妹の五十鈴が食パンの上にベーコンエッグをのせたザ・朝食を持って来てくれました。本日もいい子いい子です。

 妹をおかずにパンを食べているとお母さんが来ました。

「鈴音も五十鈴も学校での服は、自由らしいけど今日はビシッとしっかりしたのを着なさい」

 ハーイと返事をして五十鈴が学校に指定されてる、新品な制服の袖に腕を通します。

 新品の服は着なれませんが私も遅れて着替えました。

「じゃあ鈴音さんは学校へ行ってくる」

「あれ鈴ねえいつもより早いじゃん」

 今日は用事があるからと五十鈴に説明して、家から行ってきますと飛び出しました。

 現在、鈴音さんが向かっているのは金子高校。学校へは15分ぐらいかけて歩いてで行きます。

 自転車で行くの方が早いですが、最近運動が疎かになってる気がするので歩きです。

 五十鈴には『ちんたら歩いていると遅刻するんじゃない』と言われてしまいましたが、鈴音さんをなめてはいけません。20分の余裕つまりは35分前に家を出たのです、遅刻などあり得ません馬鹿にしないでほしいですね。

 この先には大きな坂道があります。地元では『自転車泣かせの地獄坂』と呼ばれる、L字カーブです。

 だがしかーし。歩きではさしたる脅威ではありません。階段を使って上の方にある公園を抜ければ坂道をスルー出来るのです。鈴音さんは10年前にこの方法を編み出しました。

 階段を登ろうとすると空からみかんが降ってきました。今日の天気はみかんではないでしょう。

「あーわたしのみかぁーん」

 どうやらおばあさんが落としたミカンらしいのです。

 なんとベタな展開でしょう。階段を転がり落ちるみかんを1個、2個、3個と拾いました。

「おばあさん。全部拾いましたよ」

 おばあさんの方を見上げると、視界はみかんで埋まりました。

「バヘッ」こめかみに直撃。みかん部隊の後に伏兵のみかんがいたようです、失態です。

「お嬢ちゃん大丈夫?」

「大丈夫です。柑橘類に負ける鈴音さんではありませんよ」

「お詫びにほらみかん受け取って」

 おばあさんはみかんをくれると、ごめんねと言って去っていきました。少し痛かったですがみかんをもらえたので結果オーライです。

 ああ、柑橘類特有の香り、いいものですね。みかんを楽しみながら公園につきました。

 公園では犬と朝っぱらから遊んでいる人がいます。平日なのに暇なのかなーなんて考えながら歩いていると、こちらに犬が走ってきました。チワワさんです。

 犬はそんなに好きではありませんが小型犬は別です。小さい者はみな愛らしく見える性格ですから。まあ虫はだめですけど。

 体制を低くして撫での姿勢に入ります。さあ来いチワワ思い切り可愛がってやろう。

 「バヘッ」ところがここでチワワさん渾身のジャンプ。押し倒されてしまいました。

 まあチワワさんのやったことです。微笑み慈悲で許しましょう。そんな聖母のような心で体の上に乗った。チワワを眺めました。しかし次の瞬間、私の中の聖母は何処かに行ってしまわれました。

「こいつぅぅ私の上でみかんを食い散らかしやがった。あーわたしのみかぁーん」ハチャメチャです。破天荒です。

 せかっく新品の服を着ていたのに台無しです。

 思わずキャラ崩壊してしまうほどの驚きでした。

「フォフォフォ。ケガはありませんかなお嬢さん」

 なんだよフォフォフォって煽ってんのかぁと思いましたがここはぐっと我慢です。

「だ、大丈夫ですよー。小型犬に負ける、鈴音さんではありませんよ」

「フォフォフォ。お詫びと言ってはなんですがこれ慰謝料です」

 次フォと発言したらこいつどうしてやろう。と悪魔のような考えを巡らせて封筒を開くとそこには諭吉さんが25人。計25万が入っていた。初任給と同じくらいの値段です。

「フォーフォーフォーご満足いただけましたかな」

「ありがたく頂戴します。怒ってなんていませんよ。チワワさん可愛らしいですね。うふふ」心の中の聖母が絶賛カムバック中です。

 お金持ち様はフォォと笑いながらお帰りになりました。

 なんだか良い日です。悪い日かもしれませんが良い日です。みかんが20万になりました。フォフォフォ笑いが出ます。封筒を胸ポケットにしまいました。

 おっと時間を確認しないと、そろそろまずいかも。腕時計で確認します。

 なになに、そうかヤバい。全力疾走です。全力少女です。

 よしこの橋を超えれば学校です。ギリギリになってしまいましたが、なんとか間に合いそう。収入もありましたしルンルンです。

「ばふっぼへっだっだれがぁーばはっだずげでぇ」女の子のこえです。

 何か聞こえた――。助けて? 女の子の声は下から聞こえた。そうか川だ。きっとおぼれているんだ。まずいまずいまずい。はやく助けないと。急いで川を覗く。人影はない。でも声は聞えた。もしかして橋の下。飛び込まなきゃ。でもお金が濡れちゃう。脱ぐか?いや早くしないと。そのまま飛び込む。人の命に比べたら安いもんだ。今助けるから。

着水すると橋脚部分きょうきゃくぶぶんに小学生の女の子が掴まっていた。

「助けに来たから、落ち着いて」

 水難事故は例え20㎝の水でも起きる。それはパニックになり冷静な判断ができないからだ。

「あっおねいちゃん」こちらに手を伸ばしてきた。

「だめっそのまま掴み続けて」

「おねえちゃんも溺れちゃう」

「大丈夫。川の流れに負ける鈴音さんではありませんよ」

 幸い流れは速くない。女の子1人だったら抱えて泳げる。

「私がそこまで行くから。安心して落ち着いてね」

 パニックに陥れば、例え水泳選手だろうが1人たりとも助けることはできない。

 泳ぎは中高と習っていたので問題はない。すぐに橋脚までたどり着けた。

「ランドセルを枕のようにして背泳ぎできる?」なるべく不安にさせないように優しく声を掛けた。

「うんできる」

「おねえちゃんが引っ張るから口を閉じてリラックスしてね」

 うまく落ち着いてくれたおかげで無事に陸までたどり着くことができた。

「鈴音おねえちゃんありがと」

「こちらこそ。助けさせてくれてありがとう」

 落ち着いてきました。それと遅刻が確定しました。でもへちゃらです。可愛らしい子を救えました。25万諭吉さんには、おさらばしましたがへ、へちゃらですぅ。

 うんうん、へっちゃら、へっちゃら。

「鈴音おねえちゃん、これお礼なの」

 渡されたのはこだまみすずと名前の描かれたイルカのお人形でした。んー? こだま? どこかで。

「大事なものじゃない? いいの?」

 みすずちゃんはこくこくと頷きました。まるで小学生の頃の五十鈴のようでとってもラブリーです。

「大切にするね。あっ学校遅れちゃう。怪我してないよね。それじゃあ元気でねー」

 置き去りにした感じはしますが平気でしょう。

 学校に着きました。思えば長いような道のりでした。

「鈴音く~ん。ど~してこんなに~遅いのかなぁ~」

 このねっとりボイスは校長先生!

「あのですね。かくかくしかじかいろいろありまして」

「かくかくしかじかじゃぁ~わからないよ~」

 あのあのと挙動不審な姿を見せていると校長先生の目にイルカの人形が留まりました。

「そのルカちゃん人形はどこで?」

 へーこのイルカはルカちゃんって名前なのか。安直なネーミングセンスだな、とか思いつつもなんとか本日のことを説明できました。

「今日のことは許してやるぞ~い。そ~れと~孫をありがとね~」

 ずっと気になっていたことが解決しました。こだまってどこかで見た気がしてたけど校長先生の名前ですね。なるほど謎が解けました。

「ほ~らほ~ら早く行きなさ~い生徒たちが待ってるよ~」

「失礼します」

そして教室前。物語は冒頭です。

 ガガガッと扉を開く。「先生!遅刻しちゃいました」てへっとポーズもつけてやりました。

「お姉ちゃん!? 五十鈴より先に家出たのになんで遅刻してるの? それに服がボロボロのびちゃびちゃじゃん」

「こら五十鈴さん。学校では先生と呼びなさい」

「えー先生と五十鈴さん姉妹なんですかー」

 嬉々として茶化してくる奴クラスに絶対いますよね。懐かしいものです。

「それもかねて、自己紹介をしましょう。先生の名前は私鳥鈴音わたくしどりすずねです。鈴音先生や鈴音さんと呼んじゃってください」

 さらさらと黒板に名前を書いていきます。先生になって2年目で担任になるという気持ちを知ることになるとはなんという高揚感なのでしょう。

「15歳のぴちぴち教師ですよ」

「いや、あんた23歳でしょ」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

あのですね、叙述トリックみたいな話をね、書きたかったんすよ。

ミステリー読みますよーって方は最初の服を着替える描写で気づいたと思います。分かんなかったよーって方はヒントがちりばめられているので読み返してくれちゃってもいいですよ。

ちな、友人は途中で「何で妹と同じクラスなんや」とか言ってきて、「な、なんでやろなー」て返したらばれました。

ご愛読ありがとうございました。<:・=~~←イカ

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