最終話「素晴らしき哉日常」
初投稿作なんとか完結しました。
意識を取り戻した俺は、自分が病院のベッドの上に寝かされていたのをすぐに認識した。
何せ此処は、俺の行きつけの精神科病棟だもんな。
若い頃に統合失調症を発症して以来の付き合いだ。
トーシツ者は、見えない物が見えたり、誰もいない所でいろんな声が聞こえたりするらしいが、俺にとっては全てが現実だ。
昔は精神分裂病などと呼ばれ、完全にキチガイ扱いされた挙げ句残虐非道な仕打ちを受けた事も数限りない。
今回は開放病棟のようだ。俺が気を失っていた間に何があったかは知らないが、特に危険性はないと判断されたのだろう。
幾度となく入退院を繰り返してきた俺だが、かつて一度だけ、措置入院の末『隔離室』に招待された事がある。其処はドラマや映画などでよく目にする『独房』と同じだった。
あまり居心地の良い場所ではなかったから早く帰りたかったのだが、周りのみんながなかなか俺を解放してくれなくて辟易したものだ。
俺がその部屋に招かれる事になったのは、執拗なまでに『舌打ち』攻撃をしてくる職場の同僚にブチ切れた俺が、危うく相手を殺しかけたのが原因なのだが、今となってはそれも懐かしい思い出の一つだ。
あれ以来、大量の薬物を投与され続けた俺はすっかり落ち着きを取り戻し、かつてないほどの穏やかな日常を謳歌するようになった。
毎日おなじ時刻に会社へ行き、与えられた仕事をこなし、生活の糧を得て、おんなじ日々の繰り返し・・・・・
そんなとても穏やかな日常に、ほんの少しだけ退屈を感じ始めていた俺の前に、「ろろろ・リリリス」と名乗る猫が現れた。
それは俺にとって、ある種の天啓だったのかも知れない。
なんだか不思議な高揚感に包まれた俺だったが、投与された薬物の影響もあってか、とても眠くなってきた。
ああ、眠い・・・
俺は今までに味わったことのない幸せな解放感と共に、眠りに堕ちた。
一週間後。
俺は『ネコ』の仲間たちとお宝を漁っていた。
コンビニやファストフード店の裏口に上質なお宝が眠っている事は、ハンター業界に於いては既に常識だ。
そのような比較的難易度の低いお宝探しが、俺のような新米団員の主な仕事らしい。
あれ以来団長とは会っていないが、幹部連中は俺達が想像もつかないようなハイレベルのお宝をゲットする為に、日々死闘を繰り広げていて忙しいのだろう。
俺はまだ下っ端のペーペーだが、いつか団長と肩を並べるほどのハンターに成長する日を夢見て、日々の仕事をおざなりにではなく、経験値として積み重ねていこう。
たとえ行き交う人間たちが、憐れなホームレスを見る目で顔を背けながら通り過ぎたり、逆に立ち止まってスマホで動画を撮ったりしても、俺には関係無い。
お前達には到底到達できない高みへ、俺は行ける可能性があるのだ。
そんな日常を過ごす事が、本当の『リア充』ってもんだ。
最後まで読んで下さった方、本当にありがとうございました。
久しぶりの執筆で、手探り状態のまま書いてみましたが、いかがだったでしょうか?
もし感想など頂ければ、今後の励みにもなると思いますので、よろしくお願いいたします。