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第1話「猫の舌打ち」~その2~

  猫という生き物は、大きく分けて二種類のタイプがいる。

  一つは多くの野生動物がそうであるように、人間に対する警戒心が非常に強く、人の姿を見た瞬間速攻で逃げるタイプ。

  中にはあり得ないほどのリアクションをする奴もいる。

  全身の体毛を直立させながら1メーターほども飛び上がって驚き、着地するや否や逃げる方向性を見失っていろんな物に激突しながらパニクってる奴とか。見てるこっちが逆に怖くなる。

  そしてもう一種類は、前者とは反対に人間に対する警戒心がまるでないかのように平然としてるタイプ。

  人の姿を見てもまったく歩行速度を変えずスタスタと目の前を通り過ぎていく。無関心、というかむしろ人間を下に見ているのではないかと感じる時もある。

  いま俺の目の前に現れた猫は、おそらく後者だ。

  俺の存在に気付いても、特に驚いた様子もなくスタスタと俺の目の前を通り過ぎる・・・かと思われたその時、思わず俺の全身が硬直した。

  何故なら、そいつが俺の目の前で突然立ち止まったからだ。しかもそいつは立ち止まったあと、ゆっくりと俺の方に顔を向けたのだ。

  そして時が止まった。

  そいつはそのまま微動だにせず俺の方を凝視している。

  いや~な空気だけが、静まり返った真夜中の俺ん家の玄関先に流れた。

  俺はまさに蛇に睨まれたカエルの如く身動きが出来なくなった。

  臆病な猫が人と鉢合わせした時、お互いに見つめ合ったまま固まってしまうという事がよくある。今の状況はそれとほぼ同じなのだが、どう見ても立場が全く逆だ。俺の方が臆病な猫状態になっているのはどうも間違いない。

  なんとふてぶてしい面構えだ。俺のことを見下している。その上で何か言いたげな顔をしている。ように見えた。

  嫌な予感がした。とても嫌な予感が・・・

  永遠とも思える静止した時間に終止符を打つべく、俺は意を決して、超ゆっくりと右手を動かした。出来る限り相手を刺激しないようにと。

  俺はとっても緩やかに右手の人差し指と中指の間に挟んでいた、既に燃え尽きようとしていたタバコを、左手に持っていた携帯用灰皿にそっと収めた。

「チッ!」

  その瞬間俺は自分の耳を疑った。何者かが「舌打ち」をした音が聞こえたのだ。

  えっ??いやいやまさか・・・

  空耳か?と初めは思ったのだが、それがとてもクリアーな「舌打ち」の音に聞こえたことを、俺はどうしても否定することが出来なかった。頭の中にタモリと安斎肇のツーショットを思い浮かべても払拭できないほど、空耳とは思えなかった。

  今ここには、俺と猫しかいない。

  仮に俺の家族や近隣の住人、あるいは通りすがりの不審者が「舌打ち」をしたと仮定しても、距離感が違う。

  俺の目の前にいる猫との距離は約2メーターほどだ。まさにその方向、その距離感から発せられた「舌打ち」としか考えられなかった。

  だが猫が「舌打ち」をするはずがない。

  少なくとも俺の認識ではそうだし、そんな話は聞いたことがない。

  そもそも猫に「舌打ち」が出来るのか?

  いや猫は「猫舌」だろう‼

  俺の脳細胞が、何か得体の知れぬ恐怖に満たされざわついていた。

  そして奴が動いた。

  まるで奴は、俺の思考を見透かした上でこれ見よがしに俺を嘲るかのように、

  プイッとそっぽを向いた。

  奴の意図が読み取れず困惑している俺を尻目に、その猫は悠然と歩きだし、そのまま夜の闇の中へ溶けていった。

  その非現実感を身に纏った去り際を呆然と見送っていた俺の耳に、またしてもアレが聞こえたのだ。

「チッ!」

  これが、俺と奴との出会いだった。

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