始まりの洞窟 後編
かなり遅れてすいません。これからも不定期で投稿します。どうぞよろしく
彼の生活スペースは予想通りにさっき行った湧水のあった場所だった。目が覚めてからずっと呆けてしまっている私は、もっとしゃきっとしなきゃ!そんな気合を入れてみる。
「どうしたんだい?目的地に到着したぜ」
「あ、すいません。ちょっと気合入れてました」
真面目か!そんな突っ込みを自分で入れながらあたりを見渡す。先ほどとは打って変わって少し余裕ができた私はここら辺の足場が妙に平らだと気付けた。やはり彼はここで生活していたのだろう。
「本当にここで生活していたんですね。嘘なんじゃないかとおもってました」
「さっきもいっただろう?命の恩人に嘘なんてつけやしないさ。いつもはこっちのほうで飯食ったりだとか寝たりだとかしてたんだ。さっき俺らがいたところはさしずめ墓ってとこかね」
冗談交じりで彼はそんなことをいった。さっきのことを少し引きずっている私はその話に乗っかるには腰が引けてしまった。
「(いつも通りにしているつもりがから回っちゃってるな・・・)あの、ここって食べ物ってあるんですか?」
「あぁ、もちろんあるとも。肉も魚も野菜も果物だってあるぞ」
「・・・肉?家畜でもいるんですか?」
「いや違うぞ?それはだな・・・」
突然洞窟の奥のほうから低い唸り声が上がる。本能的に危ないと察した私は彼に逃げるよう説得する。
「に、にげましょう!絶対危ないですって!!」
「なんでだい?お嬢ちゃん。今日の夕食はどうするってんだい」
「今日の・・・夕食・・・?この声の主がですか!?バカ言わないでください!無理に決まってます!野菜だって魚だってあるんでしょう!?そっちにすればいいじゃないですか!」
「ん?なんでそんなに焦ってるんだい?まぁ任せてろって」
一向にひかない彼をどうやって説得するか考えているとき、声の主がここに到着した。それはイノシシと呼ぶにもおぞまし過ぎ、魔物と呼ぶには多少弱々し過ぎた。その獣の体長は大体普通のイノシシと同サイズかそれより少し大きいくらい。あまりにあの唸り声と違っていてほんのわずかに溜飲がさがったおもいだ。
「やっとこさお出ましか。今晩はイノシシ鍋か?」
「ほ、ほんとに倒せるんですか・・・?」
「どうやって俺がここんなかで生きてきたとおもってるんだい?こいつぐらいならちょちょいのちょいさ」
そう意気込む彼に聞こえないよう「ちゃっかり死んじゃってるじゃん」とボソッといった。
「さ、かかってこいや!夕食第一号さんよ!」
戦闘が始まった。先ほどの彼とは想像もできないほどのアグレッシブな動き。骨の体に慣れたのか、はたまたあれは私を安心させるための嘘だったのか。
「うおっと!あっぶね!」
十分に引き付けてナイフで刺す。そんなことをかれこれ10分は続けているだろうか。疲弊していくイノシシの急所を確実に削いでいく彼。最初に角が折れ、次に耳がなくなり最後に心臓を一突き。彼の言っていたことは本当だった。その戦闘経験は馬鹿にはできず、王国騎士団にも負けず劣らずのものだと思う。見たことはないけど。
「す、すごい。本当に倒しちゃうなんて」
「だろう?もっと褒めてくれてもいいんだぜ?」
「いや、それはないけど・・・」
「うそーん!」
笑みがこぼれる。もしかしたらここにきて初めて笑ったのではないか。気合を入れたのが裏目に出たのか、ずっと気を張りっぱなしだった私には笑うことなど到底できていなかった。そんな私が緊張しているとわかっていて、それをほぐそうと一生懸命になってくれている彼に対して少しだけだけど親近感がわいた。
「あとは木の実とかを拾って今日はイノシシ鍋にするか!お嬢ちゃん、料理はできるかい?」
「えぇ、もちろんできますとも!料理に関しては私のほうが得意だと思いますよ?」
「言うねぇお嬢ちゃん。かかってきな!!」
「こっちのセリフですよ!・・・あとお嬢ちゃんって呼ぶの、やめてほしいんですけど・・・マ、マリーって名前があるんですよ!」
「あぁごめん。さっきやめてくれって言ってたからやめたんだが、そういう意味じゃあなかったのか」
「そうですよ!もう。これからよろしくね?セルジオさん」
「さん付けはよせやい。こちらこそよろしく、マリー」
こうして二人の洞窟生活は始まった