プロローグ
初めまして、牛タンです。よろしくお願いします。
小鳥の声、爽やかな初春の風、僅かに香る朝食の匂い。そんないつもと変わらない穏やかな朝。違うものがあるとすれば、いつもよりちょっとだけ早起きなこと、今日が待ちに待った見学会の日だということくらい。
「お母さん、行ってきます。」
母に挨拶をし、いそいそと靴を履く。服装完璧、寝ぐせはなし。いつもより数段きれいになったような気分でカバンの中身を確認する。
「忘れ物なし!いざ出発!」
家を飛び出し待ち合わせ場所に向かう。時間に余裕はあるが、早いに越したことはない。足早に道を進む。
まだ時間あるし、少し寄り道しよう。彼女は森の中へと入っていく。妙に踏み鳴らされた獣道、自分より背の高い雑草、その中心部にぽつりとある小さな建物。彼女のお気に入りの場所だ。
「あったあった、やっぱここに置いてっちゃってたのかー。」
寄り道といってもただ寄り道していた訳ではなく探し物をしていたのだ。
「この髪留めがないとイマイチ気分が乗り切らないんだよねー。」
髪留めを着け、鏡を見る。いつもよりちょっぴり背伸びした自分、でも見慣れた自分の姿が映し出された。自分の中ではかなりオシャレしたつもりだったのにあまり変化がなくて少しがっかり。ため息を吐いて振り返る。
部屋の輪郭が崩れ始める。軋んだ音をたてながら崩れていく壁。急速に腐っていく床。どれくらいの時間がたったのだろう。短かったような気もするし、とても長かったような気もする。そんな不思議な事態を目の当たりにし、声も出ない。
周りを見渡す。雑草は岩に変わり、獣道は洞窟に成り果て、木の実が実っていた木は魚がいる川に。理解不能。何が起きたかわからない。どうして自分がここにいるのかわからない。わからない。わからない、わからないわからないわからない。分からないが多すぎる、けれど不思議と心は平静を保っていた。焦燥感は安堵感へ。何故だかはわからないが、やることがあるような気がした。
勝手に体が動き出す。川の流れをたどって、下流の方へと進んでいく。
「なに・・・?あれ?」
壁面にもたれかかった、骸骨を見つけた。しかし、それは骸骨というにはきれいすぎた。透き通った骨、水晶と言われたら信じてしまうほどのものだ。
「そういえば…お母さんが・・・。」
母が昔読んでくれた絵本を思い出した。弱きものを助け、悪しき物を討つ。勧善懲悪のありきたりな絵本だったと思う。でもそれが、どうしてか、気になってしまった。
「どうして…?私は何をしたら…?」
わからない。わからないはずなのに、手が動いていた、口が動いていた。張り詰めた空気の中、不思議な力が集まってくるのを感じる。自分の手に、骸骨の周りに、光の粒が集まっている。とてもあたたかくて、懐かしかった。
瞬間、光の粒が猛烈に発光し、あまりの眩しさに目を瞑ってしまう。光が収束し、目を開けてみると。
「やぁ、お嬢ちゃん。ご機嫌ななめかな?」
「もう…、わけわかんない…。あぁ、寄り道なんて、するんじゃなかったなぁ…。」
驚きと凄まじい疲労感とが急に襲い掛かり、意識を手放してしまう。