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宝珠細工師の原石  作者: 桐谷瑞香
【本編1】伸びゆく二つの枝葉
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プロローグ 闇夜の中の攻防(表紙絵有)

挿絵(By みてみん)


イラスト:黒雛桜さま

「全員後退しろ! いいから今は戻れ! 一人で一泡吹かそうなんて、馬鹿な考えはするなよ!」

 薄暗い中、剣を握りしめている男性の怒鳴り声が、辺りに響きわたる。周囲にいた人間たちは彼の声に従って、歯をぎりっと噛みしめながら下がった。

 部隊の後方にいた眼鏡をかけた青年は、うっすらと見える漆黒の巨体を、目を細めて凝視した。

「あれは……翼?」

 巨体の背中に大きな翼がついているように見えたが、この位置からでは断定できない。

 相手の全体像を把握するために、青年は数歩前に出る。すると突然後ろから肩を掴まれた。

「ヘイムス! ドルバー団長が後退しろと言っているのに、何やっているんだ!」

 体格のいい男性が、ひょろっとした体つきの青年の動きを押さえつける。ヘイムスは翼が生えた、四つ足の巨体の獣――モンスターから視線を逸らさずに言い返す。

「下がるにしても、敵の素性を少しでも把握しようかと思い……」

「団長だって同じ考えを持っている。――いいか、さっきの台詞は撤退じゃなくて、後退だ。まだ団長は諦めていねぇんだよ」

 男性が首で軽く促す。その方向には、やや赤みがかった蜂蜜色の髪の男性が立っていた。周りにいる屈強な男性たちと違い、細めの体だ。しかし彼はモンスターを前にしても怯ん様子を見せず、むしろ鋭い視線で見据えていた。

 団員から耳打ちされた彼は、モンスターに向かって手を掲げる。そして口元を細かく動かし始めた。

 モンスターと彼との間は、隔てるものが何もない。獲物と定めた無防備な彼に向かって、モンスターが近づいていく。あと少しでモンスターの爪が男性に触れるというところで、男性は高らかと声を発した。

「我らを護る強固な結界よ、今こそここに!」

 すると男性の目の前に薄い膜のようなものが出現した。男性に近寄っていたモンスターがその膜に触れる。その瞬間、バチッと大きな音がして、モンスターは動きを止めた。

「よし、かかった!」

 ヘイムスの肩を握っていた男性は、小さな握り拳を作り上げた。張りつめていた周囲の空気が一瞬緩む。最前線にいた団長は、手を大きく突き上げた。

「さあ前進だ! 五、六班、攻撃準備! その間に一、二班は突撃の機会を伺え!」

 ヘイムスの周囲にいた男たちが、持っていた弓やクロスボウを構え直す。それを見たヘイムスも遅れてクロスボウを持ち上げようとしたが、ふと違和感がした。

 モンスターは動きを止めている。結界に反発されて、近づけないと思った。

 だが反発されたわりには、あまり苦しんでいるようには見えない。むしろ笑みを浮かべているようにさえ見える。

 モンスターがこちらをぎろりと睨んだ。同時に微かな殺気が全身に突き刺さる。

 笑みと殺気の意味を理解したヘイムスは、声を張り上げた。

「待ってください! 相手はわざと――」

 ヘイムスが止める前に、矢をつがえた者たちがそれを離す方が先だった。

 放たれた十本の矢は、動きを止めていたモンスターに向かって飛んでいく。しかしそれはモンスターの胴体に触れる前に、振り回された長い尾によって弾かれた。

 尾は勢いをつけて、地面に叩きつけられる。その衝撃で砂埃が舞い上がった。

 モンスターの至近距離にいた結界を張った男性や、前進していた他の男性たちは砂埃を遮るかのようにして腕で顔を覆う。意識はモンスターから僅かに逸れた。

 その隙を突くように、モンスターはその者たちに向かって、鋭い歯を備えた口から炎を吐き出した――。

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