知らずに抱いている想い
Text-Revolutions 第6回内有志企画
キャラクターカタログ3に参加作品
俺は朝からいつもより長い距離を走り込んでいた。町の中、そして自警団の鍛錬場の敷地内にある芝生を走っていく。敷地を数周して走り終えたところで、先輩自警団員が声をかけてきた。
「おはよう、サートル。朝からよく走っているな。以前に比べて筋肉もついて逞しくなった」
「そうっすか? 先輩たちから基礎体力をつけろって言われたんで、走っているだけですよ」
俺はタオルで汗を拭ってから水を勢いよく飲む。
「変わったよな、お前」
「どういう風にですか?」
「徹底さが違う。昔は何となく鍛錬していたが、今は一心不乱に打ち込んでいる。明確な目標でもできたのか? いい傾向だから続けていけよ」
先輩は俺の肩を軽く叩いてから、その場を後にした。俺はもう一度水を飲み、青く広がる空を眺めた。雲一つない空だ。こういう爽やかな色は、あいつにぴったりな気がする。
ふと、門の方が騒がしくなったので顔を向けると、黒髪の少女が歩いてくるのが見えた。彼女は寄ってくる男たちに対して笑顔で受け答えしている。俺と目線があうと、軽く手を振ってきた。
「サートル、おはよう」
「お、おう。エルダ、どうした、朝っぱらから」
頭をかきながら幼なじみの少女に近寄る。周囲で口笛が聞こえたりするが、一切無視した。
彼女は手提げバックを俺の前に差し出した。
「お弁当よ。朝早かったから、おばさんが渡せなかったって。そんなに早くから何をしているの?」
「ただの走り込みだよ。……ありがとな」
昨日の模擬戦で負けたのが悔しかったから走っていたなんて、かっこ悪いから黙っておいた。
「じゃあ私はこれで。お店が開店しちゃうから。今日も皆さんに迷惑かけないで、頑張ってね!」
彼女のことを送り出すと、少し離れたところで見守っていたさっきの先輩が寄ってくる。
「お前さ、本当にわかりやすいよな……。可愛い子だな、エルダちゃんって」
「いや、あいつ見た目は女らしいですが色々と頑固で面倒な女ですよ。どこが可愛いんですか?」
「その台詞、微妙に惚気ているよな……。俺は手を出さないから安心してくれ。ただし他の奴らで彼女を狙っている人がいるから気をつけろよ」
「は!?」
思わず声をあげると、先輩は俺の背中を強く叩いて、再び離れていった。
なんだか胸の中がもやもやする。
誰だ、エルダを狙っている人間っていうのは!
前回、完結ボタンを押した後に、1本だけ番外編を書き下ろしましたので、追加しました。
サートル視線の微笑ましい掌編でした。




