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宝珠細工師の原石  作者: 桐谷瑞香
【本編2】宝珠を実らす絆の樹
20/38

プロローグ 大樹の下での思い出(表紙絵有)

挿絵(By みてみん)


イラスト:黒雛桜さま

「エルダ、これやるよ!」

 そう言ってから、サートルは丸い赤い果実を下に投げた。下にいた少女は全身を使って、しっかりそれを受け止める。

 少女は果実を手にすると、目の前にある大樹を見上げた。大樹の上にいるサートルは、彼女の緑色の瞳に見つめられる形になる。十歳を過ぎた少女の目には、困惑した色が出ていた。

 しかしサートルは彼女に構いもせずに、枝の上に腰をかけて、手近にあった果実をむしり、齧りついた。黙々と一個食べ終えると、すぐに次の果実に手をつけた。

「サートル、あんまり食べちゃうと、なくなっちゃうよ……」

 下からか細い声が聞こえてくる。

 こんなにたくさんなっている果実、食べきれるわけねぇだろ! と思ったが、それを言ったらエルダが泣くだろうと思ったので、何も言わずに食べ続けた。

 町外れにあるこの大樹、今年は豊作なのか、見たこともない数の実がなっていた。私有地でないため、好き勝手にとっても文句は言われない。だが辺鄙な場所にあるからか、わざわざ立ち寄る人も少なかった。

 そんな色鮮やかな実をつけた大樹を見て、サートルは思わず幼なじみの少女を連れてきたが、彼女はこちらが木に登り始めてから、あまり浮かない顔をしていた。

 受け取った果実とサートルを交互に見ている少女。サートルは果実を握りながら彼女を見下ろした。

「それ食べてみろよ、エルダ」

 見せつけるかのように齧りつく。少女はおっかなびっくりしていたが、やがて両手で果実を持って、小さく齧り付いた。歯を離し、味わうように咀嚼していると、やがて表情を明るくした。

「美味しい……」

「だろ!? だからたくさん食べようぜ! なんなら家に持って帰ろうぜ!」

 サートルは近くにあった果実を次々とると、エルダに向かって落としていった。

 初め彼女は慣れない手つきながらも頑張って受け取っていたが、いくつかは地面に落としてしまった。しかし段々と慣れてきたのか、確実に受け止めていき、持ってきた肩掛けバッグが見る見るうちに膨らんでいった。

 膨らみがだいぶ大きくなった頃、果実を落とした後にエルダが大きな声を張り上げた。

「もういいよ! これ以上とっても持ち帰れないよ!」

 彼女の声を聞き、サートルは手を止めた。下を見ると、顔を真っ赤にした少女が両手でバッグを持っていた。

「わ、わりぃ……」

 頭をかきながら、持っていた果実をポケットの中に入れ込んだ。

 ふと、視線を下から周辺に向けると、空の色が少しずつ変わってきたのに気付いた。サートルは口元に笑みを浮かべて、エルダに声をかけた。

「なあ、バッグはそこに置いて、登ってこないか?」

「え? 無理無理! 私、そんな高いところに登るなんて無理……」

「高いところねぇ……」

 呟きながら樹の周りをざっと見渡した。サートルは大樹の幹に立て掛けている梯子を使って登り、その途中にある枝に足を乗せて、そのまま体を移動させた。今は下から三番目の高さの枝に足をつけているが、一番下の枝であればエルダであっても充分登れるはずだ。一般的な成人男性よりも、少し大きいくらいの高さなのだから。

 渋るエルダを見つつ、サートルは一番下の枝まで降りた。そこから梯子に軽く触れる。

「ここまでなら梯子を使えば登れるだろ? この高さなら落ちたとしても痛くねぇって」

「落ちるの前提で言わないで!」

 少女はむすっとしながら言い返す。しかし、こちらがしつこく拱くと観念したのか、バッグを下ろし、梯子に手を付けて登り始めた。一段一段用心深く登っていく。彼女の顔はやや強張っていた。

 やがてサートルがいる位置までくると、枝に向かって足を伸ばした。先に手を梯子から幹に移し、ぴったりと幹に張り付いた状態で足も移動する。彼女の両足が枝に乗ったところで、サートルは座るよう促した。

 エルダはこくこくと頷きながら、腰を下ろす。見ていて危なっかしかったため、いつでも手を出せるようにはしていたが、結局手を出さずに、彼女はサートルと同じ視線に落ち着いた。

「意外と大丈夫じゃん。怖いか?」

「少し……。木登りなんて初めてだから……」

「頑張ったご褒美に、あっちを見てみな」

 サートルが西の方角に向かって、指を示す。その先にある景色を見て、硬かった彼女の表情が緩み、ぱっと明るくなった。

「綺麗……!」

 視界に広がるのは、赤く燃えるような美しい陽が水平線へと落ちていく姿。雲もなかったため、その姿をありありと見ることができた。

「下からだと、ここまでよく見えないだろう」

「うん……」

「たまには上に登って、景色を変えてみようぜ」

 エルダは頷きながら、視線を落ちていく陽に向けていた。赤く照らされる彼女の横顔を見つつ、サートルも隣で昼から夜へと変わりゆく町の様子を眺めていた。

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