エピローグ 進みゆく二人の影
ヴァランと話をした後、エルダはようやく家に帰ることにした。
あのまま寝ていたかったが、自分のベッドの上で寝る方が疲れはしっかりとれる。家族にも心配させているため、早く帰って顔を見せたかった。
自警団の詰め所を出ると、入り口の柱に寄りかかっているサートルと目があう。彼は大きな欠伸をしてから歩き出した。
きょとんとして突っ立っていると、目を丸くしたサートルに振り返られる。
「帰らないのか?」
「帰るよ?」
「家まで送っていく。念のために」
視線を下げて、ぼそっと言われる。
エルダは逡巡してから、彼のすぐ後ろについて歩き出した。
茜色に染まる道を二人で歩くのは、なぜか気まずかった。
おそらく一昨日、言葉を吐き散らしたせいもあるだろう。あれからまだ二日しかたっていないことに気づき、驚きを隠せなかった。
大量の宝珠磨き、師匠の本気の研磨、研磨された宝珠の真の力、モンスターとの遭遇、そして初めての召喚――と非常に濃い二日間を過ごしていたようだ。
「なあ、エルダ、ちょっといいか?」
先を歩いていたサートルが頬をかきながら、振り返ってくる。その顔は陽に当たっているからか、赤くなっていた。
「何?」
やや身構えて聞く。サートルはエルダの首から下がっている魔宝珠を指で示した。
「俺用の魔宝珠の細工、お前に頼みたいんだ」
「サートルの誕生日、まだ先よね? そんな今から言わなくても……。ヴァランさんじゃなくていいの? 顔見知りなら安くしてくれるよ?」
「他の奴じゃなくて、お前にお願いしたいんだよ! なあ、受けてくれるよな!?」
早口になりながら、必死に言ってくる。その姿が面白く、つい笑いそうになったが、そこは堪えて笑顔で返した。
「もちろんいいよ、私でよければ。それまでに技術を磨いておくね」
サートルはほっとした顔つきになり、再び歩き始める。その速度は先ほどよりも遅かった。
エルダは少し早足になって、今度はサートルの横に移動した。
二人の影が徐々に長くなる。だが先日のようにその影が離れることはなく、家に帰るまで一緒であった。
小さな芽は周囲に影響されながら、徐々に大きくなっていく。
のびのびと伸びゆく枝葉は、やがて樹となるだろうが、今はまだ伸び盛り真っ最中であった。
伸びゆく二つの枝葉 了
お読みいただき、ありがとうございました。
これにて本編その一である、伸びゆく二つの枝葉(別名エルダ編)は終わりになります。
引き続き、本編その二(別名サートル編)をお楽しみいただければ幸いです。